第一章④
しばらく森を歩いていると、目的のゴブリン達を見つけた。今回もきりよく5体だ。
いつもはなんだかんだ12体とか13体と多少は多く倒してしまうのだけど、今回は運が良い。
しかも、今回の群れ達は何か美味しい物、もしくは珍しい物を見つけたのか、5体が皆、一箇所を見ていて、周囲に気を配っていないように見える。
今回は全員魔法で倒すか。
先程のウインドスラッシュは3枚の刃だったが、魔力を練る時間さえあれば、風の刃は増やす事ができる。
手のひらに力を入れ、体の中を流れている魔力を捻り出し、手のひらに貯めるイメージ。
そこに日本刀ぐらいの刃を5本分イメージすると、貯めている魔力がイメージの中でだが、刃が構築されている感じがする。
今、4本分の魔力が貯まっている。もう少し……よし。
「ウインドスラッシュ」
想定通り、5本の風の刃がゴブリンに向かって音もなく襲っていく。
飛ばした風の刃はコントロールが可能で、上手く木々を傷つけないように気を使いながら、ゴブリン達の首めがけて飛ばす。
これも結構地味な作業だけど、魔力を使うんだよな。最初は上手くコントロールする事が難しく、まっすぐ飛んでたのが急に真横に行ったりして大変だった。
今の俺はそんなミスもする事もなく、見事5第一のゴブリンの首を飛ばした。
「よしっ!」
首から噴水の様に血が飛び出ているのを見るのは気分が良くないので、アースを使ってすぐにゴブリン達を埋める。
こういうグロテスクな部分を見てもそれほど動じないのは以前のオウカの記憶や体験が助けてくれていた。なんとも不思議な感じだけど、とてもありがたい。
地面が元に戻り、俺はゴブリン達がいた場所へ向かう。
ゴブリン達はなにかを見ていた。もしかしたら貴重なものかもしれない。
どれどれ……これは!?
ゴブリン達が見ていた先、ちょうど木の根元にあった……いや、いたのは小さな兎?
元の世界でペットショップにいた、入荷したての大きさ、本当に手のひらに乗せれるぐらいの小さな兎だ。
混じり気のない完全なる純白の毛なのだが、一部お腹の辺りだけ赤い。
「……!? 怪我しているのか?」
兎の表情を読めるのかわからないが、両目を瞑り、震えているところから、相当な辛さを感じる。
今、治してやるからな。
「ヒール」
兎の横に膝をつき、右手をうさぎのお腹へ。一応、自分を守る為に、聖魔法を鍛えていて良かった。数十秒もしないうちに、うさぎのお腹は元通りに。腹部だけ赤いままだと変なので、クリーンの魔法を使い、真っ白に戻してあげたのは我ながら気が利いている。
「これで大丈夫かな?」
兎も今までの痛みが嘘のようにひいた事に困惑の表情を浮かべている……多分首を傾げているからそういうことだろう。
「キュイ?」
兎は鳴き声と共に俺を見た。助けてくれたの? と聞かれている気がした。
「ああ、そうだよ」
なんて、言ってみたが、動物相手に勝手に理解して話してるのはなんか気恥ずかしい。
「キュイキュイ!」
お礼を言ってくれたのかな、なんて思ったが、それよりも鑑定だ。
確か、記憶では兎は鼻を鳴らしたりはするが鳴き声をあげないはずだ。と、言う事は俺のいた世界の兎ではない。魔物の可能性もある。たしか、ホーンラビットっていう魔物がいたはずなのだ。この兎には角は生えていないけど。
「ちょっと鑑定させてもらうよ」
動物相手なのだから何も言わず鑑定すればいいのに、何故いちいち断りをいれたのか自分にツッコミそうになったが、ひとまず冷静になろうと思い、鑑定した内容を確認する。
【名前なし】
種族:グレイテストラビット
年齢:0歳
レベル:1
HP:40
MP:35
力:30
守:15
魔力:22
速さ:55
才能
武兎術:3/95
速兎術:2/100
癒兎術:1/72
魔兎術:3/90
【スキル】
〇〇の加護
韋駄天
グレイテストラビット? 最高の兎? 〇〇の加護? 見えない理由があるのか? 鑑定(大)でも見れないとは。
そこは置いておいてもなんか、凄い種族な気がする。なにせ、人間と魔物の違いはあるのかもしれないが、才能がBランク冒険者を軽く超えている。
レベルが1だからわかりにくいが、0歳なので、もしかしたら生まれたばかりでこのステータスだとしたら、相当強くなる。
なによりもやはり魔物なのだ。後顧の憂いのないように今倒すべきか……?
「キューイ?」
いや、無理だ。何するの? といわんばかりに首を傾げている兎を見て、思わず笑ってしまった。
こんな可愛い兎を殺すなんて出来ない!
ついさっきゴブリンを殺している俺が言うのもなんだけど、可愛さはやっぱ罪ですよ! いや違う。こんな小さな動物を殺すのはやっぱり心が痛むよ!
かといってなあ。このまま逃して良いものなのだろうか。ゴブリンにやられていたのだから、この先ちゃんと生き残れるか心配だ。
「おまえ、俺と一緒に来るか?」
言葉が通じているかわからないのに、誘ってみる。頷いたと感じたら連れて帰るのか? 我ながら馬鹿な質問をしたと思う。
「キュイ!」
が、兎が元気よく頷いたと同時。
(グレイテストラビットが主従契約を申請してきました。主、オウカ。従、グレイテストラビット)
天の声が頭の中に響いた。主従契約? なんだこれは?
(主従契約は仲間になると同義。一度結ばれると主側が契約を破棄しない限り契約は続きます。従に属するものは主を故意に傷つける事はできません)
おお。わからなかった事に答えてくれた。天の声凄い。
なるほど。仲間か。これなら一緒にいられるし、もし俺より強くなって、俺を襲おうとしても傷つけられないと言うことか。
まあ、今までの感じだと少しは好かれている気がするのでひどい事しなければ嫌われないとは思うけど。
じっと兎を見る。兎も俺をじっと見つめる。
よし。決めた。
「主従契約を結ぶ」
この答え方で良いのかわからなかったが、一応声に出してみた。
(主従契約が結ばれました。グレイテストラビットに名前をつけてください)
合ってたようだ。名前? 名前かあ。
兎……白い……可愛い……毛がホワホワ……白……ホワイト……。
「よし! お前の名前はホワだ!」
毛のホワホワと英語のホワイトをかけてみた。我ながらオシャレな名前だと思う。
「キュイ!」
兎……ホワも喜んでくれているみたいだ。
(ホワと主従契約を結びました)
成功したみたいだ。
「じゃあ、これからよろしくな! ホワ!」
「キュイキュイキュイ!」
ホワが元気よく俺の肩に飛び乗った。小さいのに跳躍力すげぇ。そして可愛い。
リューネにも早く見せたい。こんな可愛いホワを見たらリューネもメロメロになるはず。
この俺のホワを見たらきっとそうなる。
ゴブリンもちょうど10匹倒したし、今日は魔法の修行はやめて家に帰ろう。そうしよう。
リューネに早く見せたいからとギルドに報告依頼もリューネに果物も買わずに俺は真っ直ぐ家に帰った。
リューネはホワを見て可愛いと言ってくれたが、真っ直ぐ帰ってきた俺に呆れてもいたのだった。