第一章③
ヨーラットの街を北から出て30分も歩けば、小さな森に着く。小さいとは言っても森の入り口に立てば辺り一面木々しか見えない程だし、迂闊に進むと迷ってしまう。
森の中には湖もあり、魔物だけではなく、色々な動物や木の実なども豊富で、いわゆる豊かな森なのだ。
豊かであるが故にゴブリン達も住みやすいようで根城にしているわけで、街の人達からすると色々採集できる場所にゴブリンが陣取ってしまっている事が迷惑なのだ。
ゴブリンもゴブリンで色々な事情がありここにいるのかもしれないが……。
さて、それよりも現状の把握をするか。
自分自身に鑑定する事により、今の自分のステータスが確認できる。
【オウカ】
ジョブ:魔法剣士
レベル:12
HP:485/485
MP:592/592
力:155
守:140
魔力:278
速さ:180
才能
剣:15/100
火:7/100
水:11/100
風:25/100
土:15/100
聖:20/100
闇:10/100
【装備】
鉄のショートソード(物理12)
ワンド(魔力8)
布の服(守4)
【スキル】
才能の加護
状態異常全耐性(小)
経験値増(大)
鑑定(大)
よしよし。HPもMPも満タンだな。
何故かわからないが全ての才能がMAXなのはチートな感じがして嬉しい。いつも妄想していたからなのだろうか。
色々冒険者達をこっそり鑑定してみたが、周りから秀でていると評価されているBランクの冒険者達をでさえ、才能値で見ると一番良い才能で70あたり。戦士であるヴィクターさんの剣の才能の上限値も75だった。
魔法剣士の俺よりも低いのだ。とは言っても普通魔法剣士ならば、剣も魔法も本職の人達には敵わないのだが。
まあ、上限値が高くても俺はまだまだ才能を充分に発揮できる実利は無く、上限値75でも現在が60近くあるヴィクターさんには敵うわけもなく。
さらに、基礎ステータスもヴィクターさんのが圧倒的に高い。レベルは47だわ、力は340あるわ……。
俺があのパーティにクエストに誘われても断る理由はまさにこれ。
あのパーティについて行ったら完全に寄生虫なのだ。
クエストを一緒にやるなら、せめて近い実力がないとね。
と、いうわけで今日は……今日も風の魔法を鍛えるか。
森に入り、しばらく歩けばすぐに数匹のゴブリンに遭遇した。
3……4……5体か。
こちらにはまだ気づいていない。魔法が使える利点は遠くから攻撃ができる所だ。
「ウインドスラッシュ」
魔法発動のワードを唱えて右手を前に出せば、風の刃が3枚、ゴブリンの首をいとも簡単に切り飛ばす。声を上げる間もなく三体のゴブリンは絶命する。
ウインドスラッシュを放つと同時に俺自身もゴブリンに向かっていき、ショートソードを手に取り、残りのゴブリン達を狙う。
袈裟斬りで一撃、返す刃でもう一体も切る。
狙うは全て首。そうするのは理由がある。奴らの生命力を舐めてはいけない。首と胴体が繋がっていれば断末魔の如く大きな叫び声をあげ、仲間を呼ぶのだ。初めて倒した時は耳をつんざくほどの叫び声を上げられて、20体ものゴブリンに追われた。
奴ら一匹一匹の戦闘力は大した事はないが、数の暴力を侮ってはいけないのだと初対戦で学んだのだ。
そのおかげで、5体程度ならば声を上げさせる間もなく葬る事が出来るようになった。
(風魔法のレベルが1上がりました)
機械的な、抑揚のない声が頭に響く。
いわゆる天の声と言われるもので、自身のステータスに変化、主にレベルなどが上がると流れるものである。
風魔法もこれで26か。
俺が風魔法を主に上げているのには、森の中で火の魔法は森を燃やしてしまうので使いにくい他に、不可視の攻撃であったり、敵を吹き飛ばし距離を空けるのに使えたり、風魔法極めれば空とか飛べるかなとか色々な理由のもと、重点的に鍛えている。
そら飛べたら気持ち良いもんな。まだ、そんな魔法は覚えていないけど。
とは言っても、実はこの世界、魔法を覚えると言う事に関しては才能がものをいう。これは現時点での実力関係なく、才能が高ければ威力はどうであれその魔法が使えると言う事なのだ。
空を飛べる魔法に関しては俺が見る事ができる書物などには載っておらず、そもそもそんな魔法があるのかとわかっていない。
自分で試行錯誤して作っていく必要があるのだ。
もっとも、魔力の練りがまだまだなので、今はそこに時間を費やすより自分の身を鍛える事に専念しているのだが。
「とりあえず、もう一グループ討伐して、後は魔法の修行をするかな」
今の俺の実力では一日森に篭れば50体以上のゴブリンを蹴散らすことも容易い。
しかし、クエストは10体討伐なので、それ以上倒しても報酬が増えるわけではないのだ。もちろん、倒した敵の数に応じて報酬が上がるクエストもあるが、ゴブリンは倒しても倒しても数が減っているのか怪しいぐらい出没するので、1体ずつ報酬を貰えてしまうと、ゴブリン討伐だけでギルドの資産を圧迫しかねないのだ。故に、名のある冒険者達はゴブリン討伐はせず、もっと報酬が良い強いモンスター達を狙うのだ。
このクエスト、非常によくできていて、ゴブリンをきっちり10体で終わらせるのは至難の業だとギルド側もわかっていてクエストを出している。
何故なら俺みたいに気付かれずに決まった数を倒せるのならまだしも、大体は仲間を呼ばれたり、倒し終わって帰る際に出くわしたりと、ほぼほぼ10体以上のゴブリンと出くわすのだ。
特にゴブリンは徒党を組むので、あと1体とか2体だけ倒そうとかは不可能。非常によくできたクエストなのだ。
ただ、今の闘い方を身につけた俺には関係がない話で、敵に気づかれない様に動いて5体ぐらいの群れを狙えば今日のノルマは達成である。
おっと、このままここにいるとゴブリンの血の匂いに他の魔物やゴブリンの仲間が異変に気付いてしまうかもしれない。
手のひらを地面に向けて、魔力を貯める。
「アース」
俺がそう唱えると、地面に大きな穴が空く。まあ穴を開けたのではなく周辺の土を動かしただけなんだけど。
その穴にゴブリン達を入れ、もう一度アースと唱えると、動かした土達が元に戻り、ゴブリン達を埋めてしまう。
こうして奴らが死んだ痕跡を消す事で後を追われにくくなるのだ。
ついでに土の魔法も強化できるしね。今回レベル上がらなかったけど。
「よし、もう一仕事だ」
周囲に気を張りながら、俺は次の獲物を探す為にもう少し森の奥に歩き出した。