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第一章①

「オウカ! 起きて!」


 最初は違和感こそあれ、今では聴き慣れた心地よい女性の声。


 俺の朝はいつもこの声で起こされて始まる。


「姉さん。もう起きたよ」


 目を開ければそこには俺の姉、リューネの姿があった。


「もう。いつもお寝坊さんなんだから」


 そう言ってリューネは頬を膨らます。普段はとてもおっとりしていて、優しい瞳は若干垂れ目で、目鼻立ちは整っており、俺の世界であればアイドルで人気が出そうな美人だ。胸もDカップはありそうで、服のサイズが合っていないと屈んだ時とかに見えそうで見えない魅惑の谷間で男性、主に俺の気持ちを狂わせる俺曰く魔性の姉。本当の姉ではないんだけど。


「姉さんはいつも早起きだね」


 なんて言っていつも起こされたいからリューネより早く起きたとしても寝てるふりをしているのは内緒だ。ルーティンなので。起こされるのが。


「ご飯できてるわよ。早く食べましょう」


 そう言ってリューネは食卓に向かった。俺ものっそりと起き上がり、テーブルへ向かう。


 オウカ、とは俺の名前だ。元々は桜花。今は漢字がないので、オウカ。


 そう、俺は転生したのだ。今野 桜花からオウカへと。


 ひかりに包まれて目覚めた先はこの部屋で、リューネが既に横にいた。


 見知らぬ女性がいて驚いたが、服装を見て胸が弾んだ。


 何せ、布の服なんて現代では見た事がない。本当にゲーム世界の装備に近い服装はもしかしたら異世界かもと思わせるには充分だった。


 言葉は通じたので、色々リューネに聞いた。


 魔法も魔物もいる世界で、この世界にはジョブというものも存在し、冒険者ギルドもあり、クエストをこなしてお金も稼げるとの事だった。


 俺とリューネは元々家が隣で、お互いの両親が魔物に殺されてしまい、他の村の人達に養われていたが、ある時自分達の力で生きていこうと2人で街に出たらしい。


 2人でギルドに登録してクエストをこなしたり、仕事をして頑張って日々過ごしてきたそうだ。


 そんな時、俺が一日中寝ていた事があり、どんなに起こしても起きなかったようなのだが、その時記憶が戻ったわけだ。転生前は25歳だったが、25年分の記憶が一気に頭に押し寄せたのはさすがに堪えた。そんなわけで、俺は目覚める前のオウカの記憶もあり、今野 桜花の記憶も持ち合わせている。


 急に人格変わったみたいにならなくて良かったと思う。


「中々起きないと不安になるからすぐ起きてよね」


 朝ごはんを食べている途中、リューネが不安そうに言った。


 仕方のない事だ。中々目覚めないと、俺の記憶が戻った時の事、ずっと眠っていた時を思い出してしまい不安になるのだろう。


「多分だけど、あんな事はもう起きないと思うよ。安心して」


 そう言って俺はリューネを安心させる様に笑顔で返す。もし、あの現象が俺の記憶が戻る時の現象であれば、同じ事は起きないはずだから。


「少しでも調子悪かったらすぐ言ってよね?」

「はいはい」


 もう、10年以上一緒にいる仲だ。お互い好きとは言ってなかった様だけど、お互いがお互いを意識していたのだろうなとは目覚める前の記憶から推測できる。そんな相手が急に死んだりしたら、物凄くきついのは安易に想像できる。


 俺の中ではまだリューネとは10日足らずの仲だけど、前の記憶からか、彼女の事はとても愛おしく感じてしまう。それがなんだか変な感覚ではあるが、嬉しくもあった。


「今日はどうするの?」


 リューネがそう問いかけてくるのも俺がめざめてから毎回だ。何故なら、目覚める前の俺と今ではやる事が変わったからだ。


「そうだね。今日はゴブリンの討伐に行ってくるよ」


 そう、今まではこんなに簡単に言える事ではなかった。単なる村人であった俺とリューネはギルドに登録こそしていたが、基本的に魔物と戦わず、薬草採集など、危険のないクエストを行っていたのだ。


 目覚めた後の俺には才能があった。以前の俺の力は正直わからなかったが、今の俺は鑑定というスキルを持ち、自分のステータス、そして才能を見る事ができるようになったのだ。無論、他人の才能を見ることもできる。


 才能があると理解した俺は次の日魔物と戦う事にしたのだ。


 最初は怖かったのは事実だ。犬とすら戦う事がらない現実世界だったが、こちらの世界のオウカの記憶もあり、なんとかゴブリンを倒した。


 魔法も武芸もどちらも才能がある俺はとても簡単にゴブリンを倒せた。


 そこで少なからず自信をもった俺は今こうして魔物退治のクエストを主に周り、生計を立てている。


 そのおかげで、リューネには基本的に街でのクエストをやってもらっている。


「オウカが強いのはわかっているけど、気をつけてね」

「うん。油断はしないから安心して」


 言葉の通り、油断するつもりはない。ゲームと違い、命は一つしかないのだから。


「ごちそうさま。準備して行ってくるね」


 朝ごはんを食べ終えた俺はいつもの皮の鎧を身につけ、ショートソードと小さいワンドを腰に帯びた。


「帰りに何か美味しい果物でも買ってくるよ」

「本当!? 楽しみにしてるね」


 リューネは女子だからか? 甘い物に目がない。この世界の果物はとても美味しく、それなりに値がするもので贅沢品の一つであるが、魔物退治の報酬があれば一つぐらい買っても生活に支障はない。


「楽しみにしてて。じゃあ行ってきます」


 リューネの嬉しそうな笑顔を活力に、俺は冒険者ギルドへ向かった。

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