表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

序章

 ああ、嫌だ嫌だ。


 本当に嫌だ。


 才能がないという事は本当に嫌な事だ。


 誰しもが最初は興味を持つ。そこから習っていって上達して、ある程度上達した時にふと気づくんだ。


 自分には才能が無いと。


 好きな事なのに、自分よりも格別に凄いやつが世界中にいて、自分のちっぽけなプライドが容赦なくへし折られる。

その結果行き着く先は好きでもない仕事をして、自分よりも才能がなさそうな上司に怒鳴られ、下げたくもない頭を下げてやっともらえる20万前後の給料。


 残業代もついておらず、この給料は本当に自分が使った時間に対して適切な給料なのかと疑いたくなる。


 そんなクソみたいな状況でも、次の仕事がすぐ見つかるだろうか? とか、始めてもいないのに次の職場の人間関係の事を考えたら恐れをなして結局今の仕事を続けてしまう。


 自分で今の仕事を続けようと思ったくせしてその仕事に対して文句を言う。


 そしてまた仕事を辞めようと考える何の意味もない無限ループ。


 そこまでわかっているのに動き出せない自分が本当に腹立たしい。


 勇気のある人間であれば、迷わず進んでいくだろう。


 現状に不満があるのであれば、そこで二の足を踏む必要はないだろう。


 けれど、今までの人生を振り返った時、成功のビジョンが見えない俺としてはどうしても先に進めない。


 だから、最終的には妄想に耽る。


 妄想の中の俺はトップクラスではないけど、才能は確かにあり、人生を謳歌している。


 大きな違いは妄想の中では現実の世界ではなく、異世界な事だ。


 ゲームとか小説などに出てくる中世ヨーロッパ風な世界観で、魔法や魔物も出てくる世界。


 力がなければ富も名声も手に入らない世界の中で、才能がある俺は一定の成功を収める。


 そう、最強じゃなくても良いんだ。自分が納得できる仕事をして、自分が納得できるお金をもらって、自分が納得できる評価さえもらえていればそれで良い。そんな世界。


 現状の世界ではほとんど縁の無かった綺麗な女性達とも楽しく話ができて、時に頼られ、時に惚れられ。


 まだ考えていなかったけど、いずれは結婚などをして。美人によってたかられるから一夫多妻制の国で。


 そんな馬鹿みたいな妄想が、いつしか自分の生きる糧になっているんだ。


 妄想の世界を煮詰めていくほど、現実に興味がなくなっていく。


 そんな状態だったからだろう。


 今まで見て見ぬふりをしていたのに、電車の中で痴漢を見つけた時、俺は何も考えず痴漢を撃退しようとしたんだ。


 世に出ているライトノベルで見る異世界召喚物はよく事故にあったりして死んだ時に転生するパターンが多い。しかも大体突発的な事故か、普段はしない行動をした後死んでしまうパターン。


 そんな想いが胸の中にあったのか、俺の手は迷わず動いた。


 俺が想定している流れに乗るかのように痴漢をした男は電車が止まってドアが開いた隙に逃げようとする。そこに俺が飛びかかり、もみくちゃに。


 相手に押されたその先は階段で、俺はそこから転げ落ちたのだ。


 で、現在は真っ暗闇な世界。自分の目が開いているのか開いていないのかわからない程の漆黒な闇。


 考える事ができるのがまだ救いだけども。


 この状態はなんなんだろうか?


 死んだのであれば次のステージへ移してほしいし、死んでないのであれば目が覚めてほしい。


 一番の望みは異世界へ転生される事だが、どうにも次のアクションが起きないと不安になる。


 お決まりのパターンだと眩いぐらいの光の後に超絶美人の女神様が現れ、やれ間違えて殺してしまったとか、やれあなたはとても良い人だから転生後の世界は好きな様に生きてくださいとか言われるはずなのだけど。


 残念ながら俺は良い人ではなかったからそのパターンは無さそうだ。間違えて殺してしまったパターンはあるのかな?


 本当は別のイケメンキャラが痴漢を抑えて、俺はその場面を遠目に見ている、とかであれば今回の俺の行動はイレギュラーだもんな。


 けど、その場合誰も死ぬ事はなかったのに、俺が無駄に動いたから死んじゃった系?


 その場合って俺生きかえる事ができるのか? ちょっと怪しくなってきたな。


 お、ようやくか? 物凄く遠くから光を感じる。目開けてたんだな。


 あの光の先が俺の求める物なのか、もしくはどこかの病院の一室なのか。


 何も楽しくなかった人生なのだから、こういう時ぐらい妄想でわくわくしても良いよな。


 どうせ医務室とか病院なのはわかりきってる。


 あの先の光はどうせ、俺が目覚める為の光だ。


 ただ、諦めない。きちんと目が覚めるまで、俺は異世界を求める。


 光が近づいてきた。眩さが増して、目を開けていられないぐらいに。


 さあ、どちらだ?


 柄にもなく、そしてこんなしょうもない事にとてもわくわくしてしまっている。


 正直どっちでも良いと言えば良かったが、元の世界に戻った場合はこのまま死んでしまおうか。


 ああ、意識が遠のく。

十六夜恵太と申します。

ちまちまと更新して行ければと思ってます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ