旅の途中
さて、ここで前世の記憶を振り返ってみよう。
どんな風に冒険が進み、どんな出来事があり、どんな人々と出会い、どんな結末を辿ったのか。
①山麓の村で盗賊退治する。元盗賊のグレンが仲間入りする。
②ロゼッタ大神殿の封印石を大賢者ロックが襲う。枢機卿のリリアーナと協力して防衛。防衛後、リリアーナが仲間に加入する。
③王都で武道大会に参加する。国王からヒューゴが勇者に正式認定される。
④最後の封印石がある聖地セルリアン山に向かう。
⑤セルリアン山の頂上でロックと再戦。トドメを刺す。しかしその時、私の心に魔王が囁く。私は密かに封印術式を書き換える。
⑥半年後、魔王が復活する。フィン王国の上空に魔王城が出現し、人類との戦いが始まる。
⑦私は騒ぎに乗じて行方をくらまし、黒騎士になる。
⑧紆余曲折あってヒューゴたちが魔王城に乗り込んでくる。私はヒューゴに倒され、魔王に殺される。
……で、その後私は何故か赤ん坊時代に戻っていた。
しかも前世とは違い、女として生まれ直していた。理由は分からない。これまで生きてきた限り、前世の記憶を持っているのは私だけのようだ。
この現象が何なのかは、私だけでは解明できない。解明できない以上、いつまでも原因に捉われていても仕方がない。前向きに、建設的に、二度目の人生を生きて行こうと決めた。
……まあ結局、勇者には選ばれなかったわけだが。
運命が変えられないというのなら、大人しく運命の筋書きに従おう。
とにかくヒューゴと結婚させられるのは絶対嫌だ。何が何でも黒騎士ルートに入らなくては!
前世と同じ経緯をなぞって、魔王の封印解除までたどり着きたい。三つの封印石のうち、既に一つは大賢者ロックに破壊されている。
ロゼッタ大神殿にある【青の封印石】もロックに破壊されてしまう。最後の一つを守る為に、勇者パーティーは勇者の称号を得た者のみが出入り可能なセルリアン山脈の山頂に向かう。
そこで初めて私は魔王の啓示を受けられるのだ。とにかくセルリアン山の山頂へ行かなくては、魔王を復活させることはできない。
――という訳で、しばらくは運命をなぞるべきだ。
ヒューゴに辛く当たり過ぎて勇者パーティーから離反したり、追放されたりするわけにいかない。勇者の仲間として信頼されなくては! 不自然な行動は慎まなくては!!
「私たちはこれから【封印石】が守護されている場所を目指す。【封印石】があるのはロゼッタ神殿と聖地セルリアン山だったな」
「ええ。封印石がある場所へ行けば、お師匠を止められるかもしれないわ!」
「ここから一番近いのはロゼッタ神殿だ。まずはロゼッタ神殿へ向かおう。その後は王都フィアナへ行き、ヒューゴを勇者として認めてもらう。セルリアン山は聖地だ。選ばれた者でなければ入山が許可されない。国王からヒューゴを勇者と正式に認められなければ入れない」
「詳しいんだね、アズール。さすがだよ!」
「これでも先代勇者の末裔の一族だからな」
前世の記憶もあるから、どう進めば最適なのかはよく分かっている。
「ここからロゼッタ神殿までは距離がある。ペース配分を考えて進まなければならない。ひとまずはこの地図にある山麓の村を目指そう。村とはいうが鉱山業や林業が営まれている規模の大きな集落だ。補給するのにちょうどいい」
宿屋のテーブルで地図を広げて指し示す。
「それと、路銀を稼ぐ必要もある。家から渡された資金も無限ではない。冒険者ギルドに登録するぞ。道中モンスターを退治し、採取した素材を冒険者ギルドで売る。資金が足りなくなった時には、ギルド依頼をこなして金を稼ぐ。いいな?」
「ああ、いい判断だと思うよ」
「あたしは旅に慣れていないもの。あんたたちにお任せするわ」
「決まりだな」
というわけで、私たちは冒険者ギルドに向かった。
私は剣士Lv30、ヒューゴは冒険者LV30、カチュアは魔術師Lv5。ギルドから発行されたステータスカードには、そう記されていた。
カードを見てカチュアが溜息をもらす。
「なんか二人とも強いわね。あたしだけ足手まといみたい」
「そんなことはないよ。カチュアは賢者だろう? 君の知識や魔法が役に立つ時は必ずやってくるさ」
「そ、そうかしら?」
「そうに決まっているさ。ねえ、アズール?」
「ん? ああ、そうだな」
前世の記憶では、カチュアの機転や行動力に救われる機会が何度かあった。
「私たちは子供の頃から騎士団で訓練を重ねてきた。今は差があって当然だが、冒険を続けるうちに埋まってくるだろう。レベルが低い者ほど伸び代があるからな」
「……そうなの?」
「私の見立てではカチュアは必ず伸びる。だから気に病む必要はない。焦る必要もない。地道に経験値を獲得していけば良い」
「アズールは人の才能を見る目が確かなんだ。俺が子供の頃、まだ何者でもなかった俺を見出して信じてくれたのはアズールなんだ」
「へえ、そうなの。ふふ、勇者を見出した人の言葉なら心強いわね」
カチュアがそう言うと、何故かヒューゴが胸を張る。
「そうなんだよ! アズールが俺を信じてくれたから、俺も自分の力を信じようという気になったんだ。俺なんて親がいないし子供の頃は体が小さかったから、よく目をつけられていじめられていた。
でもそんな時、アズールが手を差し伸べてくれて。俺がどんなに嬉しかったか! アズールは俺を身近に置いてくれて、ピンチの時には真っ先に俺を信じて頼りにしてくれて……。
こんな俺が勇者に選ばれたのはアズールのおかげなんだ。アズールが俺を一人前の人間にしてくれた。今だってこうして一緒に旅に出てくれいる。
俺なんかが勇者の務めを果たせるか不安だったけどアズールが一緒なら何とかなると思えたんだ。アズールは地元のアルスターでは“高潔の聖女”と呼ばれていたんだけどその通りだと思うよ。
アズールは人を助けても恩に着せるようなことはしないし報酬も受け取らない。それどころかわざと素っ気なく突き放したような態度を取って、相手が心苦しくならないように配慮しているんだ。素晴らしいよね。尊敬してしまうよね。俺はアズールのそんなところが――」
「ストップ、ストップだヒューゴ! カチュアが白目を剥きかけているぞ! あと私も聞くに耐えない!」
いくらなんでも美化されすぎだ!!!
勇者ポイントを稼ぐ為にヒューゴを利用していただけなんだが……。
薄々気付いてはいたが、ヒューゴの中で私への好感度がカンストしている……。
「ねえ、ひょっとしてあたし、バカップルと一緒に旅することになってない?」
「カップルじゃないし私はバカじゃない。バカなのはあいつ一人だけだから。私を一緒にしないでくれ」
「五十歩百歩なんじゃないかと思うけど……ま、いいわ。さっさと次の場所へ向かいましょう」
こうして私たちは、ひとまず山麓の村を目指して出発した。
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