元男、悪質ストーカーを退治します
数日後、王都からの帰り道。
夕暮れが近くなった森沿いの街道で、いきなり馬が嘶いて停まった。
「何事だ?」
「賊です! 賊に囲まれているようです!!」
「なんだ、賊か」
「なんだって――三十人以上いるようですよ!?」
「三十人程度なら子供の頃に相手にしたことがある。問題ない」
同じ馬車に乗っているメイドは慌てている。
しかし私は顔色一つ変えず、護身用にいつも隠し持っている剣を構えて馬車から飛び出した。
「盗賊風情が、アズールお嬢様に手を出すなあああッ!!!」
「うわっ」
外ではヒューゴが猛威を奮っていた。
おい、もう既に十人近い盗賊が転がってるぞ……。
「ヒューゴ……」
「アズールお嬢様! 賊はすべて俺が蹴散らすので、馬車の中で待機していてください!!!」
「いや、これだけの人数で襲ってきたということは、何か裏があると考えるべきだ。ここは私が引き受けるから、お前は盗賊の親玉を捕まえに行け。生け捕りにするんだぞ。裏に誰がいるのか吐かせるからな」
「かしこまりました!!」
ヒューゴは風の如く駆け出して行った。
「さて――」
森の中にはさらに十人ほどの賊が潜んでいた。ヒューゴがいなくなると姿を現す。
「ゲッヒヒヒヒヒ、さっきの男は行っちまったようだな!」
「残るは武装したお嬢様と丸腰のメイドと御者だけだ! 十人がかりで取り押さえちまえば楽勝だぜ!」
「へへへ、いい女じゃねえか」
「オイ、銀髪の女には手を出すなよ! 旦那からの命令だ! 他の女なら好きにしていいらしいから、俺たちの標的はメイドの女だぜ!」
やはり裏で糸を引く人物がいるようだ。盗賊たちは目を光らせ、舌なめずりする。
だが奴らには誤算がある。
この程度の使い手、何十人集まろうと私の敵ではない。
「うちの使用人に手を出すな! その身で贖え――【剣の舞】!!」
「グヒイィィィィッ!!!」
一撃で十人余りの賊を一掃する。殺すとまずいので手加減して、気絶させた状態で縛っておいた。
「よし、粗方片付いたな。ヒューゴはーー」
「お嬢様ー!! やりましたよ、盗賊の親玉を捕まえましたー!!」
「よくやった、ヒューゴ。……ん? お前は……マークス男爵ではないか」
ヒューゴは気を失った男を数人担ぎ上げていた。
そのうちの一人はマークス男爵だ。つけ髭をつけて変装しているようだが、間違いない。
ヒューゴは地面に勢いよく男爵を叩きつける。
「ぐぎゃっ!?」
その衝撃で男爵が目を見開いた。
「そうか、恥をかかされた腹いせに私たちを襲撃したのか。しかも見たところ手慣れているな。ふむ。マークスがどのようにして財を築き、成り上がったのか改めて調査する必要がありそうだ」
「盗賊まがいのことをして財を成したというのですね」
「調べれば明確になるだろう。そうだな、マークス男爵?」
「……ぐうぅっ……!」
「私の馬車を襲ったのは意趣返しか? それとも自ら出向いたところを考えると、森の中で私を手篭めにするつもりだったのか? ふん、何にせよお前はもうお終いだ。この私を敵に回した以上は覚悟を……」
「お前えええええッ!! お嬢様を手篭めにする気だったとは本当かああああッ!? 許さん許さん許さんぞッ!!! 絶対に許さない! 俺が直々に地獄へ送ってやる!! 覚悟しろ!!!」
「がッ、ぐひッ、ぎょぼぉッ!」
「落ち着けヒューゴ!? 最後まで言わせろ!! というか、マークスが白目を剥いているぞ! 死にかけてるぞ!! 詳細を聞き出す前に殺すんじゃない!!」
「だって、こいつが!!! お嬢様を!!! 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない――」
「いいから落ち着け! 待て!! 私の言うことが聞けないのか?」
「……すみません。我を失いかけていました」
「いや、分かればいいんだ」
窒息寸前で真っ赤になっていた男爵が解放される。
「げほッ! ごほっ、がはっ……はあぁ、そちらこそ犬扱いしてるじゃないか……」
「何か言ったか?」
ヒューゴが凄む。マークスは真っ青になって口を噤んだ。
捕まった時に一度、たった今もう一度殺されかけたわけだからな。そりゃ怖いだろう。
「拷問して聞き出しましょう。尋問役は俺に任せてください。生き延びてしまったことを後悔させるレベルに痛めつけてやりましょう」
「いや、いいから。ヒューゴはそんなことしなくていいから」
「そんな! どうしてですか!?」
「どうしてって……逆に聞きたいが、何故そんなに拷問したがっているんだ。お前、そんな趣味はない筈だろう」
「だってこいつ、お嬢様に手を出そうとしやがったんだすよ! 万死に値します! 地獄すら生温い罪業です!! 生まれたことを後悔させてやらないと気が済みません!!」
「未然に防いだのに、そこまで厳しい罪に問うか」
いや私も不愉快ではあるけれど、ここまでキレてるヒューゴの方に引くわ!
しかもこいつ、ダークサイドに片足突っ込みかけてないか?
前世はいかにも聖人君子といった感じで、敵にも情けをかける甘ちゃんだったのに……。
人間臭い感情が見えるのは良いことだが、ここまで行くと極端のような……。
はっ。もしや私が順調に勇者ポイントを稼いでいるから、ヒューゴが勇者に相応しくない方向へ傾いているのか?
だとしたらこの世界ではヒューゴが闇落ちするのか? ……それはまずい!
誠に遺憾だが、ヒューゴは現時点で私より強い。前世はついに一度も勝てなかった。
そんな奴が闇落ちして私の前に立ちはだかれば……ろくな結末にならないに決まっている!
冗談じゃない。今回のヒューゴは勇者にせず闇落ちもさせず、私の使いっ走りとして生涯酷使してやると決めているんだ。
「本当にやめてくれ。そんなお前は見たくない。ヒューゴは闇とか知らなくていいから。お前は真人間のままでいてくれ」
「アズールお嬢様……そこまで俺のことを心配してくださるなんて……感激です!」
「もう何でもいいからさっさと引き上げよう。親玉とマークスを連れて最寄りの町へ行こう。残りは縛って転がしておけ。明日には回収に来られるだろうからな」
「はいっ、了解しました!!」
幸い私たちの被害は0だった。
馬車を飛ばして最寄りの町に向かい、自警団に盗賊を渡し、領主や実家に連絡を取ってマークスの身柄を拘束する。
マークスの経歴を洗い直したところ、やはり爵位を得るのに使った金は犯罪で手に入れた金だった。
どうやら以前から盗賊と手を組み、商売仇を襲わせたり、奪った品物を売ったりしていたらしい。
マークスは爵位を取り上げられ、投獄されることになった。マークスの被害に遭った人々には見舞金が出されることになった。
「ありがとうございます! これで安心して商売ができます!」
「他の土地の民まで助けてくれるなんて……さすが噂に伝え聞く“高潔の聖女様”です!」
「”金獅子の騎士様”も噂に違わぬ実力の持ち主ですね!」
私もヒューゴも変な異名をつけられた挙句、よその土地まで知れ渡っているようだが……まあいい。
これで勇者ポイントがもっと貯まっただろうからな。
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