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元男なので、自分より弱い男とは結婚しません!

16歳になった私は、それはもう美しい女性に育っていた。


容姿端麗。才色兼備、珍魚落雁。閉月羞花。清楚可憐にして才色兼備。


ありとあらゆる美を賞賛する言葉は、私の為にあると言っても過言ではない。


男の時も眉目秀麗な美男子だったが、女になってからは美貌に磨きがかかった。


「おっと、最近寒いせいか、肌が少し乾燥気味だな。いけない、いけない。保湿保湿。美しく生まれついた者は、美貌を保つことも義務の一つだからな」


自室でうっとりと鏡を見つめていた私は、肌の変調に気付き、ロイヤルゼリー入りの美容液で手入れを始める。


銀糸のような美しい髪に雪を思わせる白い肌。

蒼穹を思わせる鮮やかな青い瞳に、人形かと見まごうほど精巧に整った顔立ち。


はあ……どれだけ見続けても飽きない。惚れ惚れする美貌だ。


この美貌があるだけで、女になったことを帳消しにできる。私って、なんて美しいんだろう……。


しかし最近は、私の美貌を手に入れんとする不届き千万な輩が現れている。


隣接する領地の貴族に、王都のボンボン貴族の息子。他にも数え切れない。


社交界にデビューしてからというもの、あらゆる貴族の男が私にアプローチを仕掛けてくるようになった。


はっきり言って、鬱陶しいことこの上ない。


私は自分の美貌が気に入っている。だから女の体になったことに、あまり不満はない。


しかし自我は男のままだから、男と恋愛するつもりはない。


連中に応えるつもりは1ミリもない。


……まあ私が美しいのは事実なので、焦がれてしまうのは当然だがな!

こんなに気高く美しい私に憧れるなという方が無理というものだ。


遠巻きに眺めて、崇めて、焦がれ、憧れている分には問題ない。むしろ当然だとすら思う。


だが手を出そうと近付いてくる輩は、はっきり言って迷惑千万だ。


「しかしなあ……一応相手も名のある貴族だからなあ……あまり変な振り方はできない……うーむ、困ったものだ」


貴族は家同士の付き合いもある。無駄に恥をかかせて遺恨を残すようなことは避けたい。


今のところ複数の男が互いに牽制し合っているから良いが、この先どう対処するべきか。


「そうだ! 名案が思い浮かんだぞ! 私って天才だな!」


ふと天啓のような閃きがあった。これなら角も立たずに断れるぞ!


聡明な頭脳から浮かんだ名案に満足し、私はベッドに入る。


夜更かしは美容の大敵だからな。私は毎晩どんなに遅くなろうとも、日付をまたがないように心がけていた。



◆◆◆



ヒューゴが殿堂入りという名の武術大会出禁を食らった翌年。


16歳の年に、私は初めてアルスター武術大会で優勝を飾った。


アルスター武術大会には、騎士団員も凄腕の冒険者も出場する。


さすがに騎士団長とか剣術師範とか、要職に就いている者は出場できないが。


その武術大会で優勝するということは、アルスター地方で五本の指に入る実力者に選ばれたということ。


私は美しく聡明なだけではなく、武芸にも秀でた文武両道の侯爵令嬢として名を馳せている。


これを利用しない手はない!


「武術大会に優勝したら、宣言しようと考えていたことがある。私はタウンゼント侯爵家の一人娘だ! タウンゼント家は私が継ぐことになる。今年の初頭には正騎士として叙勲もされた。こうして武術大会でも優勝を果たした。


私は自分よりも弱い男性とは結婚するつもりはない! 私以上の強者でなければ妻にならない! 以上だ!!」


武術大会の優勝インタビューで私は宣言した会場に集まった聴衆がどよめく。


ふふん、しかし筋は通っているだろう。


タウンゼント家は辺境の侯爵家だ。領主であると共に、強い騎士であることが求められる家柄だ。300年前の勇者の血を引く一族だ。


そのタウンゼントの一人娘である私が、自分より強い男でなければ結婚しないというのは、それほど不自然な話じゃない。


だがそんな人間は、滅多に存在しない!


私は毎日鍛錬に励んでいる上に、前世で学んだ技量や知識もフル活用している。


今回の武術大会でも優勝を果たした。少なくとも、私に言い寄って来る貴族のボンボン共など相手にならない。




実際、その日を境に私に対する誘いはぴたりと止んだ。


私の武勇伝や実力を知る者は恐れ入り、それでも私を妻にと望む者は腕磨きに励むようになった。


「アズにゃんや。あんな宣言をして、嫁の貰い手がなくなったらどうするつもりだ?」


「いいではありませんか父上。それとも父上は、私がつまらない男の妻となることを望むのですか?」


「まさか、冗談ではない! いやいいんだ、アズにゃんがそれで良いというのなら、パパはそれでいいんた」


「そうでしょう。……ところでアズにゃんという呼び方は止めてほしいと何百回と言っているのですが」


「ん? アズにゃんはアズにゃんだろう? 他人の目がある時はちゃんとアズールと呼んでいるのだから問題ないだろう?」


「はあ……もういいです」


今の父は私を溺愛している。目に入れても痛くないほど可愛がっている。


本音を言うなら嫁に出したくないし、旦那も取らせたくない筈だ。だから父を御するのは大した問題じゃなかった。


いやあ、私って本当に頭がいいなあ……。

美しくて強いだけじゃなく、頭までいいなんて……奇跡のような存在だなあ……。


我ながら惚れ惚れしてしまう。

理想的な存在じゃないか。やっぱりわざわざ結婚する必要ないな、うん。


というわけで、私は自ら家を継ぐべく領主としての勉強にも励むのだった。



◆◆◆



アズールが自らの策に溺れている頃。市井ではある噂が流れていた。


騎士や冒険者が集まる繁華街の食堂兼酒場。ここでは最近、ある噂で持ち切りだった。


「なあ聞いたか? アズール様の宣言を」


「ああ、自分より強い男じゃないと結婚しないとか言い出したんだろう?」


「すげえよなあ。実質嫁に行かない宣言じゃねえか。アズール様は男嫌いなのか?」


「どうだろうなあ。男になびいている姿は見たことがないからなあ。騎士団のヒューゴ以外は」


「ヒューゴ? ヒューゴってアズール様の幼馴染のヒューゴか?」


「そうそう、そのヒューゴだよ。今年お嬢様と一緒に正騎士に叙勲されたヒューゴ=オーウェル」


「そういえばあいつ、今年は武術大会に出なかったけど、かなりの実力者だよな」


「ん? アンタたち、あいつが出なかった理由を知らないのかい? 武術大会で三年連続優勝して殿堂入りしたからだよ!」


「本当か、女将さん! ひょっとして、アズール様が自分より強い男じゃないと結婚しないと宣言したのは――」


「アルスター地方の実力者といえば、アズール様とヒューゴ以外、全員既婚者だな」


「つまり遠回しに、ヒューゴと結婚したいと宣言したってことか!?」


「だが身分の差があるから素直に伝えることができず……くうぅ、泣かせる話じゃないか!!」


店に集まった客たちは、酒を飲みながら好き勝手なことを言う。


酒の肴に過ぎなかったが、幸か不幸か、その時店にヒューゴが入ってきた。


さっきまで警邏の仕事をしていたから、遅めの夕食を食べに来たのだ。


「ええぇっ!? お、お嬢様が、俺と……!?」


「おっ、ヒューゴじゃないか! こっちに来いよ!」


「おいおい、お前ぇ! さっさと出世してアズール様のお気持ちに応えてやれよな!」


「そ、そんな、俺なんかがお嬢様と――」


「なんだあ、お前。アズール様じゃ不満だというのか?」


「まさか!! 俺はずっとお嬢様が好きでしたし……不満なんて微塵もないけど……でも、本当に俺なんかが……」


「アズール様はお前がいいって言ってるんだよ! ウジウジするな、男らしくないぞ!」


「! そ、そうですよね! 分かりました、俺、頑張ります! お嬢様に恥はかかせません! 絶対にお嬢様に相応しい男になって、お嬢様に求婚してみせます!!」


「いいぞ、その意気だ!」


「若いっていいねえ、応援するよ!!」


こうして、アズールの知らないところで着実に外堀が埋められていた。


自らの策に酔いしれているアズールは、知る由もない。


ヒューゴと町の人々が厄介な決意を固めている頃、アズールは自室のベッドで穏やかな眠りに就いていた。

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