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元男ですが、15歳になりました

私はアルスター地方の各地を駆け回り、人助けを繰り返していった。


いつしか私は「余の為人の為に身命を尽くす聖女」だとか、「領民から報酬を絶対に受け取らない高潔な心を持つ侯爵令嬢」だとか呼ばれるようになっていた。


聖女と呼ばれるのは嫌なんだが、それすらも謙遜として受け取られている。


いくら嫌がっても聞き入れてくれないのなら、相手にしない方がいい。そう考え、もう放置することに決めた。



◆◆◆



時は流れ、私は15歳になった。領地を歩けば、老若男女問わず私に話しかけてくる。


「あっ、アズール様! 本日もアズール様のおかげでうちの村は平和ですよ!」


「モンスターや盗賊に荒らされることなく、今年も豊作ですじゃ。ありがたや、ありがたや」


「お嬢様が社交界で宣伝してくださった宝石、王都からも注文が殺到しています!」


私を賞賛するのは、直接話しかけてくる者だけじゃない。遠巻きに羨望の眼差しを向ける人々もいる。


「見て見て、アズール様よ! ステキよね、同性でもうっとりしちゃうわ」


「美人で気立てが良いだけじゃないぞ。腕っぷしも強いって話じゃないか」


「ええ。アルスターで開催される武術大会で三年連続準優勝でしょう? すごいわよねえ」


「三年連続優勝はタウンゼント騎士団のヒューゴ=オーウェルなんだってな。アズール様とは幼馴染なんだろう?」


「それだけじゃないわ! 孤児院にいた頃のヒューゴの才能を見出して育て上げたのがアズール様だというお話よ!」


「お二人はタウンゼント騎士団の双璧と呼ばれているわ」


「はあ……やっぱりステキねえ。憧れちゃうわ」


「……ふふ、ふふふ……」


……あああああああ!!!

気に入らない、気に入らない、気に入らない!!


私とヒューゴがセット扱いされていることも、三年連続であいつに負け続けていることも、何もかも気に入らない!!!


余計なことを聞いて気が重くなった私は、散歩を切り上げて屋敷に戻る。


敷地内に入ると、よりによって今一番会いたくないヒューゴに出くわしてしまった。


「お帰りなさい、アズールお嬢様。あれっ、どうしたんですか? 眉間に皺が寄っていますよ」


「そ、そうか?」


「はい。せっかくのお美しい顔が台無しですよ」


私が渋い顔をしているのは、こいつのせいなんだが……。


まあいい。理由は何であれ、私の美しい顔に変な皺がつくのは嫌だ。


深呼吸をして気を落ち着かせ、笑顔を浮かべる。


「やっぱりお嬢様は笑顔の方がステキですよ。……俺、お嬢様の笑った顔が好きだな。ていうかお嬢様自体が好きだな……」


途中から声が小さくなったので、なんて言っているのか聞き取れなかった。


何かを好きとか言っていたような……まあいい。どうせ大したことは言っていないだろう。


ヒューゴごときの言葉、わざわざ耳を凝らして聞いてやる必要もない。


私の笑顔がステキだとか言っていたから、きっと私の美貌に対する賞賛だろう。なら適当に話を合わせておこう。


「そうか、私も(自分の美貌が)好きだぞ」


「ええっ!? (俺のことが)好き!? ほ、本当ですかっ!?」


「何を驚いているんだ。そんなに(自分の美しさに誇りを持っているのが)意外か?」


「だ、だって……!」


なんだこいつ?


私ほど美しければ、己の美しさを自覚して誇りを持っていても不思議じゃないだろう。何をそんなに驚いているんだ。


それとも何か? 何年も私に近くにいたというのに、私の美しさに気付いていなかったのか?


……なんて奴だ。


ヒューゴは世俗の価値観から離れたところがある。勇者に選ばれるだけあって、浮世離れした男だ。


裏表のない性格で、明るく素直で善良。嫉妬心や闘争心や競争心といった感情を、まるで持ち合わせていない。


それなのに強い。誰よりも強い。アルスター武術大会で三年連続優勝して、来年からは殿堂入りという名目で出場禁止になった。


欲望も執着も嫉妬も見せない癖に誰よりも優れ、私が欲しい物をすべて奪っていく。


その上、私の美しさにも気付いていなかっただと? 


本当に腹が立つ! なんなんだ、こいつ!?


「鈍感にも程があるぞ! お前の目は節穴か?」


「申し訳ありません! これからは気をつけます!!」


「当たり前だ。私の美貌に気付かないなんて、鈍感の限度を超えているからな!」


「え、美貌? ……失礼ですが、お嬢様。さっきの発言はお嬢様の美しさに対して……ですか?」


「? それ以外に何があるんだ?」


「で、ですよねえ! あはははははは! ……はあ」


「人の目の前で溜息とは、いい心がけじゃないか」


「いや、違います! 今のは違います、お嬢様に対する溜息ではありません!!」


「では何の溜息だ? 言ってみろ」


「……自分自身の、愚かしさに対する溜息です……」


「お前のような者でも、時には自己嫌悪に陥るのだな」


「当たり前ですよ。俺を何だと思っているんですか」


「そうか、それもそうだな。……はははははっ!」


いやー、気分がいい。一気に気持ちが上向きになったぞ。

理由は知らないが、ヒューゴが落ち込む姿を見るのは気分がいいな!


こいつにも自己嫌悪に陥る時があるんだな。負の感情とかあるんだ。


新たな発見だ。嬉しい発見だ。私は気分よく笑い続けた。


「……まあ、お嬢様が喜んでくれたのなら、いいかな……」


また小声で何か言ってる。つくづく変な態度だが、今日は気分がいいから見過ごしてやろう!


私って寛容だな。これは勇者ポイントも加点されたに違いないな!

閲覧ありがとうございます!

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