傘作りと錬金術
朝、宿の窓から外を見ると、大粒の雨が勢いよく地面に降り注いでいる。
そう言えば冒険者になってから雨に降られたのって初めてだ。
この雨じゃ森へ狩に行って訓練をするのも無理そうだし、かといって買い物などに行くにしても濡れるしな…。
そう、村に居た時は雨の日は室内で筋トレと魔力操作の日と決めていたので特に気にしてはいなかったけど、この世界には傘が無い!
雨の中を歩いている人も、革製のフードのような物を着ていたり、蓑を付けて速足で歩いている。
荷車を引いている人の中には上半身裸で濡れるのも気にしてないような人も居るけれど、やはり大きな街とはいえ雨の日は多くの人が家で過ごしているみたいだ。
傘か…。
日本では普通に使っていたけど、作ってみようと思うとどんな感じなのか思い出せないな…。
開いた状態の傘なら簡単だろうけど、うまく畳めるように作れるかな。
アイテムBOXに収納されている木を取り出しナイフで木を削り加工を始める。
流石に素人の作業だけあって上手く作れないな…。
そう思いながらもチマチマ木を加工しているとルイーズさんが後ろから覗き込みながら何を作っているのか聞いて来たので説明をすると、大笑いを始める。
どうやら、数十年前にも召喚者によって雨具として開発された物があったみたいだけど、その道具は平べったい長方形の板の左右にYのように加工した木の取っ手を取りつけ両手でそれを持つことで平べったい板で雨に濡れないようにする物だったらしく、置き場所にも困るうえ、重く両手がふさがり不便という事であっという間に誰も使わなくなってしまったらしい。
話を聞く限り、2本足のテーブルみたいな物を持って歩く感覚か?
流石にそれは…。
そんな物を作ってるのか? と言う質問に、自分が今使っているのは片手で持つ物で骨組みを木で造り他は布を使う事で、軽く便利な物と説明をする。
本当はビニールとかあればいいんだけど、異世界にはビニール無いし、それに似たものも無いので、布に油を染み込ませるか蝋を染み込ませるかして防水する必要があり、手入れが必要な気がするけど、狩りの際に急な雨などに降られた際には役に立ちそうな気がする。
作業を見飽きたルイーズさんが居なくなり、しばらくして試作が一つ出来たけど、手作業で木を削った為、芯や骨の部分は歪な形ではあるものの一応は傘と呼べそうな物が出来た。
後は、布に油か蝋を染み込ませ水を弾くようにするだけだけど、やっぱり傘を閉じれるようにするのは難しかった。
ワンタッチ式で開閉できる訳でもなく手で傘の部分を閉じないといけない分、不便さはあるけど一応、これで外出も楽になるはずだ。
それにしても金属なんかを簡単に加工とか出来ないかな。
錬金術ってあるみたいだし、覚えられないのものか…。
「それで、錬金術を私に教えろと?」
カトレアが怪訝な顔をしながら自分を見ている…。
「カツヒコ、あなたね~、私が何でもできると思ってるの? 以前ギルドで私のスキルを見たでしょ? その中に錬金術は無かったはずよ!」
「確かに無かった気がするけど、なにかしら知ってるかと思って…」
そんなやり取りをしているとルイーズさんが錬金術について説明をしてくれた。
一言で錬金術と言うも、出来る事が多岐にわたり、一人ですべてを網羅できる人間はほぼ居ないらしい。
話を聞く限り、ポーション作成などの調薬、金属の抽出、金属加工の3つに分かれるらしい。
そしてポーション作成等は、複数の工程を得意とする人が分担して作業をしているとの事だった。
金属抽出も魔力を膨大に要する為、数人でおこなわれ、金属加工においても一人が大まかな形にし、一人がそれを完成形に近づけて、もう一人が仕上げをおこない魔道具を完成させたりするといった感じらしい。
カトレアはそこまでレベルが落ちているのかと呆れていたが、ルイーズさんは普通そんなもんだろうという顔をしている。
カトレアが生きていた時代は、調薬、または金属抽出と加工が出来ないければ錬金術師と名乗っても3流どころか見習い程度としか認識されなかったらしい。
錬金術、多分王都にもそれなりに錬金術を扱う人か店があるだろうから錬金術を教えて貰えないかな…。
雨があがったら錬金術で物を作成してる店を探して教えて貰えないか聞いてみよう。
それにしてもルイーズさんもリーズも何で薄着なのかな?
宿の風呂に入り放題だからって、薄手のシャツ一枚で部屋をウロチョロするのはどうかと思う。
パンツは履いてるとは言え、ルイーズさんに至っては胡坐をかいて座ってるし、少しは恥じらいを持ってもらいたい。
と言うか男と同部屋なのを少しは意識してください!!!
翌日、昨日の雨がウソのように上がり、青空が広がっていたが、昨日の雨で森の中もぬかるんでいたりするとの事で、森へ狩にはいかず自由行動になったのでギルドに行って錬金術師がいる店を何軒か教えて貰いその店をまわり錬金術を教えて貰えないか聞いてみるもことごとく断られた。
どの店でも技術流出を防ぐと言うより冒険者が錬金術を覚えてどうするんだ? と言った感じで相手にして貰えない。
半ばあきらめつつも錬金術師が居るという潰れかけている感じの店に行き店主らしい白髪だらけの老婆…、よりは若そうな人に錬金術を教えて欲しいと頼むと1日につき銀貨5枚を支払えば教えてくれるとのことだ。
老婆…、と言うには少し若い感じの店主はキャサーリさんと言う名前で、主に調薬を得意としているが一人でポーションを作成してる為、ランクの低い物しか作れないとの事だけど、昔、見習いの際に金属抽出と金属加工もした事があるとの事で、自分が覚えられるかの保証は出来ないけど教えるだけなら教えてくれるらしい。
それにしても1日で銀貨5枚って…。
結構ボッタクリじゃない?
とは言え教えて貰えるのであればお金には困って無いので1日銀貨5枚でも問題は無いんだけどね。
その後、街を歩いていると、広場で買い食いをするカトレアと一緒に街をぶらつく。
特に何処に行くわけでもなく歩いていると、王城とは別に水堀に囲まれた大きな建物が目に入った。
「あの建物は…、教会? なんか大きいし造りもしっかりとして村の教会と大違いなんだけど…」
「当たり前でしょ、聖ジャンダーク教会の建物よ、流石に王都の教会ともなればこのぐらいは普通でしょ」
そっけなく言うカトレアに特に気を使うことなく思った事を口にする。
「昔カトレアが所属していた教会だったよね。 これって中に入って見学したりするのは駄目なのかな?」
「入って礼拝をするのは問題ないはずよ。 一応お布施は要求されると思うけど、銅貨1枚でも渡しとけば良いはずよ」
カトレアを殺したのもこの教会の関係者だったことを思い出し、さっきの発言を後悔するも、カトレアは気にする事なく教会に向かって歩いて行く。
教会って言うだけあって神聖な場所だろうけど、元アンデッドのカトレアが入っても大丈夫なのかな…。
入った瞬間に教会関係者に囲まれたりしないよね…。




