表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/115

7:初恋は叶わないらしい(2)

 トウカは目を丸くして固まりつつも、精一杯の力を振り絞り、何とか言葉を発する。


「………は?」


 その灰色の瞳が零れ落ちてしまいそうなほどに目を見開いて驚いている侍女の姿に、ギルバートはとても気まずくなる。


「いや、その…、お互いにきちんとそういう話をした事がなくてだな…。何となく周りがそう捉えるから、何かそんな雰囲気になってるだけというか……」

「は?」

「まだ友達以上恋人未満くらいの関係というか…。俺としてはむしろただの友人としか見ていないというか…」

「は?」

「彼女のことは好きだけど、それが友人としてなのか異性としてなのかと問われるとなんとも…」


 辿々しく説明する主人をトウカは半眼で見る。


「今さら何を……」


 自分にここまで言わせておいて、と。


「えっと…では、お二人はただの友人だと言いたいんですか?」

「今は…まあ、そういうことだ」


 トウカはその場に崩れ落ちた。

 呆れ果てて、もう何も言いたくない。

 しかし、侍女として補佐官として、言わなければならない事がある。


「では、何故にフィオナ様と常に行動を共にされていたのですか」


 トウカは彼を見上げながら、半ば呆然として尋ねる。

 当然の疑問だ。恋人でないと主張するのなら、毎日行動をともにする意図がわからない。


「…友人なら行動を共にしていてもおかしくはないだろう?」

「同性の友人ならばおかしくはありませんが、婚約者でもない異性を常にそばに置いていれば#そういう関係__・__#なのだと思われても仕方ありませんよ?」

「しかし、そう宣言したわけではない。周りが勝手にそう噂しているだけなのだから問題はないだろう。異性だろうが同性だろうが、友人は友人だ」


 ここにきて男女の友情は成立するか、などという無駄話したくない。

 問題はそこではないのだ。

 何もわかっていないギルバートに、トウカは頭を抑えながら深くため息をついた。


「殿下の行動は問題しかありません。いいですか?お二人の関係が()()()()()()どういう名前のものであろうとそこはどうでも良いのです。問題は()()()()()()二人がどういう関係に見えるかです」


 それこそ、最近は距離のあるマリアだって、ギルバートにしてみればただの幼馴染でも、周りからは『ギルバート王子の妃候補』でしかない。


 二人が恋人だろうとそうで無かろうと、側から見ている第三者には関係がない。

 周りから見て恋人に見えたのなら、それはもう恋人だ。

 そして、たとえ本人たちがそれを否定しようと広まってしまった噂は覆らない。

 なぜなら、噂を広めた彼らは当事者でないのだから。真偽がどうであろうと周囲はそれを訂正しない。


 だからこそ皆、異性の友人と交流を持つ際は気を遣っているのだ。1対1で会わないとか、話しかける時は同性の友人を伴ってとか。


 ましてやギルバートはこの国の王太子。 


 皆がその動向を気にし、彼が誰を側に置き、誰を重用しているかは常に話題になる。



「…ただの噂なら、何故ここまで大きくなる前にどうにかしようと思わなかったのですか?」

「噂は所詮噂だ。どうにでもなると思っていた…」


 トウカは嘆いた。考えが浅すぎる。


(先に再教育が必要なのは、フィオナではなくこいつだったか…)


 トウカは、ギルバートはフィオナを妃にするつもりなのだと思っていた。だから特に手は打たなかったし、なんだかんだ文句を言いつつもそれを受け入れる覚悟だってしていた。

 なぜ、ちゃんと確認をとっておかなかったのかと、トウカは過去の自分を叱責したくなった。



(嬉しかったのに…)


 ギルバートが恋をしたことが。

 だから多少のことは大目に見ていた。

 

 新しい恋に浮かれているだけだと。

 ギルバートの覚悟が決まれば、あとは全力でサポートするだけだと。


 言外にフィオナ・モートンをどうにかしろと言われた時も、彼女を排除する事が自分のためだと理解しながらも彼女を知り、理解し、矯正する道を瞬時に模索した。


(……あ、やばい。ちょっと泣きそう)


 トウカは緩みかけた涙腺を引き締める。


「お、俺だって気をつけていたんだぞ?それなのに周りが騒ぎ立てるから…」

「気をつけていたとは具体的にどのように?」

「その、2人きりにならないように、とか?」


 その言葉に、阿呆とは思っていたがここまでとは思わなかったトウカは、出そうになっていた涙が引っ込んだ。


「毎日のように王族専用のサロンに彼女を連れ込んでいて何を…。あんな所連れてきたら『王太子の特別な女性』と公言しているようなものですよ」

「まじか」


 所謂、『鳩が豆鉄砲を食ったような顔』をして固まる主人。

それを蔑むような、もしくは憐れむような、そんな目で見る侍女。


 呆れて言葉も出てこない。

 あのサロンは特別な場所だ。王族とそれが認めたものしか足を踏み入れることは許されない。

 その意味は入学時にも散々説明したはずだった。

 トウカは自分の教育足りなかったのだろうか、何が間違っていたのだろうか、と深く反省した。



 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


ギルバートは恋に恋する王太子でした。乙女…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ