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2:無駄なお茶会

 王族専用サロン。

 そこは王族と許可された者しか立ち入ることの許されない、学園内でもかなり特別な場所だ。

 ふかふかのソファに豪奢な調度品、天井には煌びやかに輝くシャンデリア。

 無駄に豪華なこのサロンで、トウカは主人の帰りを待つ。


 王太子ギルバートは学園での講義を終え、ひとりのご令嬢と自身の側近候補たちを連れて学園の敷地内にある王族専用のサロンへとやってきた。



「おかえりなさいませ、ギルバート殿下。そしてようこそいらっしゃいました、モートン様、アルダートン様、カーライル様」


 トウカは主人達を迎えいれる。

 彼らは当然のようにサロンに立ち入るが、フィオナだけは何やら不服そうにトウカを見ていた。


「もう!トウカさんっ!フィオナって呼んでくださいっ言いました!」

「…申し訳ございません。フィオナ様」

「はいっ!トウカさん」


 トウカが名を呼ぶと、彼女は花を撒き散らしながらあざとく微笑んだ。

 フィオナ・モートンと名を口にすることすら躊躇われるのに、ファーストネームで呼ぶように強要されたトウカはうっかり感情を表に出さぬよう気を張る。

 そんな彼女に、主人ギルバートは「今日も頼むな」とだけ声をかけた。



 ギルバートはここ最近、頻繁にこうしたフィオナ達とのお茶の時間を設けている。

 祖国の未来を担う同年代の子息子女との会合は、時に実りのある議論を生み出すため歓迎すべきことではあるのだが、ここにいる連中は少し頭が弱いために大体の場合が大した話にはならない。


 つまりは時間の無駄。


 そしてこの時間が自身の婚約に大きく影響していることも、この頭の弱い王太子はきっと知らない。



 トウカは使用人を連れていない令嬢のために椅子を引き、座るよう促した。

 すると彼女は、高い位置で2つに結ったピンクブロンドの髪をふわっと揺らして「ありがとうございます」と天使の微笑みで侍女に頭を下げた。


「…フィオナ様、以前から申し上げておりますように、私相手にそのようにへりくだる必要はございません」

「そうですか?でも年上の方には敬意を払うべきかと思うのですけれど」


 この娘、天使のような愛らしい風貌に『素直で従順な女性』と周囲は騙されがちだが、意外と我が強く自分の意見はなかなか曲げない。

 あまり腰を低くされるとこちらの方が困るため、進言しているのだが聞く気は無いらしい。

 しかしここで食い下がると面倒なので、トウカはこの辺りで引き下がる。


「君にへりくだる必要がないというのは同意するが、フィオナが平民の侍女ごときに敬意を払ってくれているというのに、何故それを素直に受け取れない?口答えするなど身の程知らずにも程があるだろう」


 自分にお茶を用意してくれている侍女に対し、尊大な態度でその発言を咎めるのはクリストファー・アルダートン。

 少し霞んだ金髪に翡翠の瞳を持つこの男は騎士団長の息子で、フィオナを妄信する生徒の筆頭である。

 学園一の腕っ節の強さがだけが自慢の何かと他者を見下す傾向にある脳筋野郎。



「まあ、僕としてはその平民という身分をわきまえているのは感心するけどね。そもそも本来ならば、殿下にお仕えすることすら許されない身分なのだから」


 続いてトウカを馬鹿にしたように嘲笑うのは、宰相の息子アーサー。

 赤茶けた髪に深い青色の瞳を持ち、それなりに整った容姿をしているこちらの男も、クリストファー同様にフィオナを妄信する生徒の一人。そして、婚約者最有力候補マリアの弟である。

 マリア同様に秀才ではあるのだが、いかんせん柔軟性に欠ける。教科書通りの思考しかできない頭の固い人間だ。

 彼がいずれ国を動かす次期公爵となるのかと考えると、祖国の未来に一抹の不安を覚えてしまう。


 この2人は身分に拘るが、そのくせ男爵令嬢を王太子妃にと押している。そして二人とも自身の言動が矛盾していることに気づいていない。

 故にトウカはこの二人にも主人同様に再教育の必要性を感じている。


(そろそろ宰相閣下と騎士団長に再教育を依頼せねば……)


 二人からのいつも通りの嫌味を右から左に聞き流しながら、トウカは黙々と自分の仕事をこなしていた。

 すると、その傍でフィオナは花のような笑みを浮かべ、再教育が必要な二人に声をかける。


「ダメですよ?クリス、アーサー。ギルの大切な侍女さんをそんな風に言っては。たしかに、フィーは先程自分が否定されたみたいで少し傷つきましたけど、でもトウカさんはフィーのためを思って注意してくださったんです。人に、それも自分より身分の上の人間に注意するって、なかなかできる事じゃないです!フィーはトウカさんの事を尊敬します!」


 自分のことをフィーと呼ぶあざとさ。

 王太子をまさかの敬称なしの愛称で呼ぶ軽率さ。

 自分のためを思い注意されたと理解しながらも、それを改めない我の強さ。

 トウカにはこれのどこが聖女なのか理解出来なかった。

 しかし、ぷんぷん、という擬音が似合いそうなあざとい顔をする聖女に諌められた二人は、「フィオナが言うなら」とトウカに対する敵意を内にしまう。


 トウカはその光景を目にし、


(…宗教かよ)


 などと、心の中で悪態をつく。

 そんな様子を横目で見ていた王太子ギルバートは静かに口を開く。


「身分は関係ないよアーサー、クリス。トウカは優秀だから俺の侍女なんだ。平民だろうと優秀な人間を重用するのは陛下の方針だからね。」


 言外に『トウカは国王陛下が認めた人材なのだ』、と側近候補たちに告げる。その声には微かに怒気が含まれていた。

 しかし、彼は自慢の侍女が入れた紅茶をひとくち嗜むと、すぐさま声色を戻し明るく言葉を続けた。


「それに、トウカがいつもしっかりしてくれてるから俺みたいなのでも王太子でいられてるんだ。いやー、トウカ様様だな!」


 ギルバートはヘラヘラと笑いながら、自虐ネタで場の空気を和ませた。

 彼の性格からして意識して発言したわけではないだろうが、こういうところがトウカが彼を見放せない要因の一つとなっている。


 過去にも凡庸な王子に取り入ろうとする貴族たちにとって邪魔な存在であるトウカは、度々嫌がらせを受けてきた。

 彼女自身はそんな事かけらも気にしてはいないが、主人であるギルバートはいつもそんな貴族たち相手に『()()()()()()()()()()自分がここに存在できる』と主張する。おそらく無意識に。

 いつも主人がそう主張するたびにトウカは胸が苦しくなる。



(…とりあえず、マリア様に手紙を出そう)


 トウカはこの箱庭で一番信頼できる、麗しの公爵令嬢に癒しを求めることにした。

読んでいただきありがとうございます!

クリスとアーサーとフィオナの関係は、『オタサーの姫』をイメージしてます(笑)

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