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本気のバントに敵はない!  作者: 小走煌
2 まだ見ぬ仲間を探して
22/51

悩んだ末の決定

 それから二週間、えりかは宣言通り鬼のスパルタメニューを用意し、そしてチーム全員にきっちりと完遂させた。

 特に初心者の祥、優、咲に対しては繰り返し外野ノックを打った。あまりに続けるからマメが出来てしまい、それを見てその辺にしたらどうかと環が言っても聞かず、テーピングを巻いて続けた。

 その結果、三人はなんとか簡単なゴロとフライを捕球出来るまでになった。身を粉にして様々な打球を打ち続けたえりかも立派だが、辛い顔一つせず鬼教官について行き、守備の技をものにした三年生の先輩方にも頭が下がる。いったいなにが彼女達をそこまで駆り立てるのかは分からなかったが、少なくとも打球を追っている瞬間は真剣で、そして楽しそうだった。練習終わりにはくたくたになりながらも三人で集まっては笑い合っていた。

 しかし、そんな先輩達の姿がいくら眩しく見えたとはいえ、この二週間を環は思い出したくない。飛鳥の剛球を相手にうんざりするほどバントを決め、そしてうんざりするほど一塁守備の練習に明け暮れた。あれだけ兄と遊んだバントに思わず飽きそうになったが、それ以上に守備がしんどい。この二週間は人生で一番『練習』というものに没頭しただろう。

 環は電車の窓から外を見る。少し景色が変わった気がした。揺れる度につり革に掴まる手に力を入れバランスを取る。ふと周りを見ると、皆少し疲れた顔をしていた。

 車で先行している有江先生を除く全員による、一時間以上の電車移動。もうどれだけ乗り継いだか分からない。道具は有江先生の車に載せられたし、途中座れるタイミングもあったから多少は楽だが、それにしても長い。

 環の隣にはえりかがいた。なにやら考え込んでいる様子で、さっきから一言も発さない。ただ、公共交通機関内でぺちゃくちゃと喋られても困るし、一人あれこれ考えにふけるのは好きだからそれで助かる。

「決まったわ」

 そう思った矢先、えりかが急に口を開いた。騒がしくしてはいけないという意識があるのだろう、ボリュームは最小限に絞られている。

「決まったって、なにが?」

 環は聞き返した。すかさずえりかが「オーダーよ」と切り返して来る。

「着いたら正式に発表するけど、先に伝えとくわ。まず、アンタは一番ファーストよ」

「一番ファースト、とりあえず今までの想定通りってワケね」

「うん。ここは最初から決まってた。次、二番はキャッチャー、奏よ」

 えりかは遠くの方で空き席にちょこんと座る奏をチラリと見る。

「奏は野球を知ってるから、なんでも出来る二番がいい。ウチは初回の出塁は約束されたようなもんだから、奏が二番にいることで攻撃に広がりが生まれるわ」

「クリーンアップはどうする?」

「そこも決めた。三番にショートの京、四番にピッチャーの飛鳥、五番にセカンドの綾香よ」

 えりかはメンバーを確認するように辺りを見回した。横浜に差し掛かり人が増えたことによってそれぞれの距離が離れてしまい、姿は見えない。しかし三人とも、そして残りのメンバーもきっとこの車両にいるだろう。

「ウチで一番総合力の高い京が三番、長打力のある飛鳥が四番に座ることでバランスが取れるわ。綾香はまあ、空いたところに収めたって感じ」

「空いたところって、まだ四枠あるけど」

「そこはもう最初から確定のようなものよ。六番にレフトの祥先輩、七番にセンターの優先輩、八番にライトの咲先輩よ。三人とも二週間じゃあさすがにバッティングまで仕込めなかったから、下位を打たせるしかない」

「じゃあ、えりかは九番を打つわけ?」

「そう、九番サードはあたし。上位に効率よく回すためには、あたしが九番に入った方がいい。今日まで散々悩んだけど、現状だとこれがベストの打順のはずよ」

 そう言ってえりかは睨むように窓から外を見詰めた。ハイスピードで流れる景色だが、確実に雰囲気は変わっている。どうやらあと二駅で着くようだ。

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