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『10年ぶりに再会した友人が女の子だった件』/

作者: 赤葉忍

twitterとかでこういうタイトルの漫画を見ていいなぁと思ったので書いてみました。恋愛系はあまり書いたことがないから描写がいまいちなところはあるかもしれませんが、暖かい目で読んで頂けると幸いです!

僕は、空を眺めるのが好きだ。地面に仰向けに寝転がって、空を見上げると、空が僕に話しかけてくれている気がする。


『こんにちは。お元気ですか?』


「うん、元気だよ」


 青空は穏やかな口調で話しかけてくる。雨の日は少し悲しげに。嵐の日は荒々しく。今日は随分と穏やかだ。


 勿論、空が話しかけてくるなんて僕の妄想でしかなく、僕の返事もただのひとりごとでしかない。でも、空に消えていくだった僕のひとりごとは、その時初めて形のあるものとなって僕に返ってきた。


「なあ、そんなところで寝転がって、何やってるんだ?」


 真夏の空のようなエネルギッシュな声が、空から降ってきた。寝転がる僕をじっと見下ろしているのは、麦わら帽子を被った、黒髪の少年。


 ちょっぴり驚いたけれど、その子の目はいつも見上げている空みたいに澄んでいて綺麗だったから、自然と会話することができた。 


「空とお話ししていたんだ」


「へ~。それって、面白いの?」


「面白いかどうかは分からないけれど、飽きたことはないよ」


「そっか。じゃあ、おれもやってみる!」


 そう言って彼は、僕の横にポスンと音を立てて倒れる。そのまま少しだけ空を見上げていたけれど、雲がほとんど動かないうちに、がばっと上半身を起き上がらせた。


「飽きた! お空、全然話してくれないじゃん!」


「初対面だから、緊張しているのかも。僕も、最初はあんまりお話できなかったから」


「それよりもおれ、君ともっとお喋りしたいな! おれ、真昼っていうんだ。君は、なんて名前なの?」


「僕は、えっと⋯⋯、空。空って名前だよ」


「空! だからお空とお話できるんだね。これからよろしく、空!」


「うん、よろしく、真昼」


 それから真昼は、ほぼ毎日のように僕の元へ遊びに来た。僕たちは性格はあまり似ていなかったけれど、何故か気が合った。


 のんびりと一緒に空を見上げたり、砂場でおおきな城を作ったり、ブランコで靴とばしをしたり⋯⋯流石に雨の日は来なかったけれど、それ以外はほぼ毎日、真昼は僕に笑顔と元気を届けてくれた。


「ねえ空、これ見てこれ! じゃじゃーん!」


「これは⋯⋯花? 綺麗だね。どこから持ってきたの?」


「えっとね~落ちてたのを拾った!」


「なにそれ」  


 あっけらかんと笑う真昼につられて、僕も思わず笑ってしまった。


「これ、空にやるよ」


「え、いいの?」


「もちろん!」


 差し出された花は、一輪だけだったけれど、凄く綺麗な花だった。僕は花には詳しくないからなんて花なのかは分からなかったけれど、そんなの分からなくても真昼からのプレゼントというだけで凄く嬉しかった。


「真昼、ありがとう。大事にするよ」


「おう。ずっと持っててくれよ!」


 花なんて貰って嬉しいのは女の子だけだと思っていた。でも、こうやって自分が貰う立場になると凄く嬉しい。たぶん、大事なのは何を贈られたかじゃなくてそこに込められた気持ちなんだ。


 その次の日、僕は貰った花を太陽の光に透かして見つめながら、真昼が遊びに来るのを待っていた。


「ごめん空、ちょっと遅れちゃった! 母さんが宿題しろって五月蠅くてさぁ」


「全然平気だよ、真昼。僕はいつでもここにいるから」


 少し遅れてやって来た真昼と、いつものように遊ぶ。


 いつものように晴れた空。いつものように楽しい時間。でも、空の機嫌が急に変わるように、そんな時間は突然奪われてしまう。


「真昼、いつまで遊んでいるの。早く帰ってきなさい」


「あ、お母さん! ちょっと待ってよ。今お友達と遊んでいるからさ」


 いきなり現れた女性を、真昼は『お母さん』と呼んだ。成程、確かに髪の色とかが真昼にそっくりだ。


 しかしその母親は、何故か急にぎょっと目を見開いたかと思うと、真昼の元に駆け寄り、その腕を力強く握りしめた。


「何言ってるのあなたは! 早く⋯⋯早く帰るわよ!」


「い、痛いよお母さん、離して!」


「ちょっと、真昼が痛がっているじゃないですか。離してあげてください」


 痛がる真昼を見て止めようとしたが、真昼の母親は僕に目を合わすことすらせず、そのまま真昼を引っ張って去って行ってしまった。


 ――そして、その日から真昼は僕の元に遊びに来なくなった。




 あの日から、10年の月日が経過した。僕は相変わらずこの場所で、空を見上げている。変わったことと言えば、夏の空が話しかけてくる声が真昼の声に変わったことくらいだ。


 真昼と会うことは、結局この10年で1度もなかった。今頃、どこで何をしているんだろうか。あれ以来多くの人と出会ったが、結局僕に話しかけ、僕のことをちゃんと見てくれた人は真昼ただ1人だった。


「真昼⋯⋯また会いたいなぁ」


 こうやって1人で呟くのも、何度目だろうか。最近は、空と会話してもあの頃ほど楽しくなくて、すぐに飽きてしまう。


「⋯⋯うん、私も会いたかったよ、空」


 僕の声に応えるように、不意に背後から聞こえてきた声。それはまるで、真昼と初めて会った時の再現みたいで。


「真昼!?」


 勢いよく振り返ると、そこに居たのは髪の長い女性だった。しかも、凄く美人の。でもおかしい。真昼は男の子だったはずだ。


「ははは、驚いた顔してる。無理もないよね、私、あの頃男の子みたいな格好してたし、喋り方もお兄ちゃん達の影響で男の子みたいだったもん」


「え? ということはつまり⋯⋯君、本当に真昼なの? なんか、その⋯⋯色々と大きくなったね」


 見上げると、そこにはたわわに育った大きな2つの果実がそびえ立っていて、以前はなかった影を形作っている。僕の視線に気付いたのか、真昼は顔を赤くして手で胸を隠す。


「もう、どこ見てるのよ。⋯⋯空のえっち」


「い、いや、これはその、違くて。つい目線がいっちゃったというか、その⋯⋯」


「ふふ、冗談よ。驚いた?」


 僕をからかうようにして笑う真昼。その笑顔には、確かにあの頃の面影があった。


「もう、からかわないでよ⋯⋯。とにかく、また会えてよかった。話したいことがたくさんあるんだ」


「私も、会えてよかった。⋯⋯ねえ、私の方から話していい? あの時、どうして母さんが私を連れて行ったのかとか、あれからずっと空に会うことが出来なかった理由とか」


 真昼が話そうとしていることは、僕も知りたかったことだから、頷いて先を促す。



「ありがとう。⋯⋯そうだね、どこから話そっか。まず、母さんが私を連れて行ったのは、帰りが遅い私のことを心配してたから。まあ、あれは行き場所を言っていなかった私が悪いよね。そして、私があれから空に会えなくなったのは⋯⋯私が引っ越したから」


「どうして急に引っ越しなんて⋯⋯前から決まっていたの?」


「ううん。母さんが勝手に決めたこと。ここに長く居るのはよくないって言って」


「なんでそんなことを! それで、真昼はお母さんの言うことを聞いて引っ越したの? 僕にお別れの言葉も言わずに⋯⋯そんなの酷いよ!」


「うん、私もそう思う。だからね、今日はお別れを言いに来たの。もしかしたらもう居ないかもって思ってたけれど⋯⋯空はやっぱりここに居たね。あの時から、全然変わってない」


 真昼は、そう言って鞄から何かを取り出した。それは、あの時真昼が僕に渡したものと同じものを束ねた花束と、桜色の数珠だった。


「ねえ真昼、それ何? なんでそんなものを持っているの?」


「あの時は私、まだ小さかったから、公園に花が置いてある意味が分からなくて、勝手に持ってきちゃったんだ。でも、今なら分かる。『蒼衣空』、それが空の本当の名前なんだよね」


「真昼、さっきから何を言ってるの? 分からない、僕、真昼の言っていることが全然分からないよ!」


 やっぱりこの女の人は真昼じゃないのではないか? さっきから話していても全然楽しくない。それどころか不安が増すばかりだ。


 空が、曇ってきた。


「お母さんが驚くのも当然だよね。だって、お母さんには私しか見えていなかったんだから。私のお父さんは体質的に『視える』人だったから、私のは遺伝かもしれないって、しばらく経ってからお母さんが話してくれたわ」


「何⋯⋯言ってるのさ。真昼、僕に分かるように話してよ」


「ごめんなさい、空。あの時気付いてあげられなくて。ごめんなさい。こんなに⋯⋯待たせちゃって。そして、さようなら」


 真昼が数珠を手に持ち、ふっと僕にかざす。すると、僕の身体がふわりと浮き上がった。


「さようなら、空。私は、あなたのことが好きだった」


 僕が最後に聞いた真昼の声は、とても悲しげで。ああ、僕は君のそんな声が聞きたくてずっと待っていたわけじゃないのに。


 ポケットに入れていた花が地面に落ちる。いつの間にか降り始めた雨が、真昼と花を濡らしていく。でも、僕の身体は全く濡れることがなかった。


 ああ、そうか。そういうことだったんだ。全てを理解した僕は、そっと目を閉じた。


「ありがとう、真昼。僕も、君が好きだった」


 そっと呟いたその声に、返事がくることは、もう無い。




〇〇〇〇




 私が空と初めて出会ったのは、公園の砂場だった。お空と話していたと語る彼は、独特な雰囲気を持った少年だった。


 そんな空に、私は興味を持ち、会いに行くようになった。いつどんな時に行っても、空はいつも同じ公園にいた。


 1度、私は尋ねてみたことがある。どうして、いつも公園にいるのかと。すると、空は不思議そうな顔をして首をかしげ、こう言った。


「なんでって⋯⋯ここは僕の居場所だから」


 その時はそうなんだーとしか思わなかったが、今になって思えば、その時にもっと疑問に思っておくべきだったと思う。



 あの日、母さんが私を連れ帰った日。私は、母さんから全てを聞いた。


 昔、あの場所で空という男の子が亡くなったこと。そして、公園に置いてあったあの花は、献花といって亡くなった人に供える花であることを。


「病気で亡くなった父さんも、そういう幽霊とかが視える人だったのよ。私は霊感とかは全く無いから、あなたのそれは、きっとあの人の遺伝ね」


 仲良くしていた友達、しかもほんのりと好意を抱いていた相手が幽霊だと聞かされ、私はショックでしばらく立ち直ることが出来なかった。


 だから、母さんから幽霊とあまり関わるのはよくないという理由で遠くへと引っ越すことを聞かされた時、特に反対も出来ずただ頷くことしか出来なかった。



 それから少ししてようやく立ち直った私は、空を救ってあげたいと思うようになった。空はきっと、自分が死んだことにすら気付かないままあの場所に居るのだ。そして、私が話しかける前までそうしていたように、1人でずっと空を見上げているのだろう。


 そんなの、悲しすぎる。


 私の兄も、霊感がある人だったらしく、幼い頃出会った幽霊の友人のことを話すと、成仏させるために必要な方法を教えてくれた。


 幽霊を成仏させるには、ある程度の霊力が必要らしい。私は学校に通うかたわら、霊力を鍛える修行も平行して行った。初めは反対していた母も、私の決意を知ると納得してくれた。


 そして、10年間修行してようやく必要な霊力を身につけた私は、空と初めて会ったあの公園へと向かった。


 そこには、あの時と変わらない姿の空が、立ったまま青空を見上げていた。


 その姿を見ると、胸が張り裂けそうに痛む。ズボンのポケットからはみ出しているしわしわにしおれた菊の花を見つけて、私の胸はますます痛んだ。


「⋯⋯私も会いたかったよ、空」


 その言葉は、自然と口から出ていた。空は、最初は私が真昼だということが分からなかったみたいで、目を丸くさせていた。その様子がおかしくて、ついついからかってしまったりもした。


 本当は、空が私を見上げているのは私の方が背が高いからだ。いくら私が女だといっても、当時6歳だった私と同じくらいだった背丈のままの空に背丈で負けるはずがない。


 改めて、10年という月日の長さを感じる。あまりの申し訳なさに、私の口からは謝罪の言葉が飛び出していた。


 ごめんなさい、空。こんなにも待たせてしまって。ごめんなさい、空。私が中途半端に友達になってしまったせいで、余計あなたを苦しめることになってしまった。


 私は⋯⋯あの日会った日からずっと、空のことが好きだったんだと思う。だから、永遠にさよならしなくちゃいけない今になって、涙が溢れて止まらない。


 本当は、さよならなんてしたくない。でも、私は空のことが好きだから。だから、こんなところにずっとひとりぼっちにはさせたくない。


「さよなら、空。私は、あなたのことが好きだった」


 既にほとんど身体が消えかかっている空に、そっと囁く。返事は、期待していなかった。


 でも、空の身体が消える寸前。私の耳に空の声が聞こえてきた。


「ありがとう、真昼。僕も、君が好きだった」


「空っ⋯⋯!!」


 もう一度、顔を見ようとした時には、既に空は成仏してしまっていた。いつの間にか降っていた雨が、頬を濡らす。私は、雨が止むまで、公園で1人泣き続けた。



雨が止んだ時、空には虹がかかり、私はその上を歩く10年前に出会ったかけがえのない友人の姿を見た気がした。


「⋯⋯こんにちは、お元気ですか?」


『うん、元気だよ』


 耳を澄ませば、そんな返事が聞こえる気がして、私はいつまでも、虹を見上げ続けた。


 

/『10年ぶりに再会した友人が、幽霊だった件』

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