魔王の美のこころ
脇腹が痛むんです、と川端はぼやきます。
「生前から、胆嚢に石が溜まる体質でした。こっちに来てから、もっと酷くなった。大方、腫瘍にでもなったんです」
「探せば、治療法だってあるでしょう」
「この世界は、医学とおまじないの境界がはっきりしません。その程度の医療水準なのです」
「魔法なら、……」
「治癒魔法は、外傷にしか効きません」
今も痛むのです、と川端は言います。
「病の苦しみは、貴方にもわかるはずです」
「でも、僕には……無理だ」
「召喚勇者は、自殺を封じられている。だから、私を殺しうる誰かを待つしかなかった」
「嫌だ……僕は嫌だ!」
いったい、私にどうしろというのでしょうか。やっとわかり合えたというのに、その途端に、これなのです。
手をこまねいているうちに、廊下の向こうが騒がしくなってきました。城の兵士達が、主を守るべく集まってきているのです。
「ほら、まだ貴方には、人望が残ってるじゃないですか。あの部下たちを見捨てるんですか?」
「その部下のために死ぬのです」
いつの間に拾って来たのか、トミエが、ゲイボルグをおずおずと差し出してきました。
「やめろ! 絶対に使わないからな!」
はじめて、本気で怒鳴りつけたものですから、トミエは肩を震わせていましたが、それでも言うのです。
「おじいちゃんも、最後は病気で、痛い痛いって苦しみながら逝きました。あれを思い出して……」
楽にさせてあげるのも愛情ですよ、とトミエは言います。
「だが……」
川端は、感謝します、と目を瞑りました。
「なんで、僕なんだ?」
「他ならぬ、貴方に終わらせてほしいのです」
病に殺されるくらいなら、誰かに介錯してもらいたい。それ自体は、理解できるのです。
でも、だけど、だって、しかし、けれども。たくさんの言い訳を並べて、嫌だ嫌だと泣き喚いているうちに、トミエが槍を握らせてきました。
「一緒なら、できますか?」
トミエに腕を動かされ、槍が持ち上がります。
穂先は、川端の左胸に向けられていました。
「……心臓を刺すのかい」
「もう、楽にしてあげましょう」
頼みます、という、川端の懇願が聞こえます。その声色の弱々しさに、ようやく覚悟が決まりました。
「川端」
槍を振り下ろした瞬間、口をついて出た言葉は、
「僕に賞をくれたのが、貴方でよかった」
自分でも、思いがけないものでした。




