美しい最期の私
ここに魔王は討たれ、勇者は、芥川賞作家となった。
長きにわたる冒険に、ようやく終止符が打たれたのです。
「やりましたネー!」
トミエは、実に開放的な喜びを見せ、勢いよく抱き着いてきました。
「おめでとうございます! 今日からは勇者様が新たな魔王デース!」
「物騒な発言はよしたまえ。……えっ、まさか本当にそういう制度なのかい?」
「違いますけど、せっかく勝ったんですから、城や身分は貰っちゃいましょうよ。ドロップアイテムってやつデース」
亜人が差別される原因は、この図々しさにあるのではないか、と不謹慎なことを考えていると、ハツコが川端の顔を舐めているのに気付きました。
「噛み殺せって命令したのに、結局何もしませんでしたね、この子」
「さすがに前の飼い主をがぶりとやるほど、恩知らずではないだろうさ」
トミエの肩を借りて、よたよたと川端に近付きます。
「いつまで寝ているのですか」
「……」
川端は、うつ伏せに倒れたまま、ぴくりとも動きません。
「川端……?」
嘘だろう、と血の気が引いていくのを感じます。
咄嗟に川端を抱き起こし、口元に手を当ててみると、まだ息があると判明しました(なぜ自分が安堵しているのかは、考えないようにします)
「そうさ、僕ら召喚勇者は、ほとんど不死身みたいなものじゃないか」
川端は静かに目を開けると、
「とどめを刺してくれると助かります」
と、他人言のように言うのでした。
「馬鹿なことを言わないでください。僕にはもう、貴方を討つ理由など、……」
私は、川端を逃がすつもりでいました。恨みつらみを全てぶつけたあげく、作家としても認めてもらったのですから、殺す理由がないのです。
それなのに、川端はどこまでも強硬で、
「魔王が生きていては、示しがつきません」
「示しなんてどうでもいいでしょう!」
「なんのために悪政を敷いたと思っているのです」
「なんのため……?」
「仕方がありませんな」
川端の目は、トミエを見ていました。
「太宰君ができないというなら、彼女にやってもらいます」
「トミエを巻き込むのか!」
「あの少女を巻き込まなくては、駄目なのです」
「……どういうことですか?」
「亜人の少女が、悪の魔王を討つからこそ意味があるのです」
その言葉で、何もかもを理解しました。
この男が何をやりたかったのか、どうして執拗に私を挑発し続けたのか。いえ、薄々そうではないかと思っていたところもあるので、疑念が確信に変わったと言うべきでしょうか。
「そうか。貴方は……」
川端は、あえて暴君として振舞っていたのです。憎しみを一身に引き受けたところで、勇者に討たれるために。なにせ勇者には、人魚の相棒がいるのですから、魔王討伐の功労者に、亜人の名が連なる事となります。そうすれば、彼女らの地位が改善されるかもしれない……。
「死んだ時に人を悲しませないのが、人間最高の美徳なのです。私が死ねば、大勢の人が喜びます」
「死にたいのは、それだけが理由ではないんでしょう」
「……」
「貴方は病気だと聞きました」




