表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太宰治、異世界転生して勇者になる ~チートの多い生涯を送って来ました~【連載版】  作者: タカハシ ヒロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/49

どうだ明るくなったろう

 こうなった私に、できないことなど何もありません。

 風を切るように城内を駆け抜け、襲い来る兵士達をちぎっては投げ、ちぎっては投げの、まさしく一騎当千の働きでした。

 はじめのうちこそ、トミエは凄い凄いと黄色い声を上げていたのですが、途中で「ん? もしかして勇者様、本気になればいつでもこれくらい戦えたんですか? 少し甘やかしすぎたかな……?」と余計な事実に気付きかけたため、あえて苦戦しているかのような演技を加えながらの、激戦でした。これはもはや、自分との戦いと言えるかもしれません。

 やがて、兵士たちの顔に諦めの色が浮かび始めた頃、一際大きな扉が見えてきました。家柄を自慢するかのように、くっきりと北条家の三つ鱗が刻印された、観音開きの扉。川端家は金は無くとも武士の家系、と暗に自慢しているかのようで、見ているだけで腹が立ってくる紋章でした(我が津島家は、財力こそ県内屈指の規模を誇っていましたが、所詮は成り上がった地主に過ぎないため、血筋の高貴さとなると微妙なところで、つまり、的確に私のコンプレックスを刺激してくるのです)

「水上温泉」

 ノックするのも癪なので、水魔法で扉を吹き飛ばしてみると、穴の向こうから、

「いらっしゃい」

 と声がしました。

 玉座に腰かけた、川端と目が合います。

「そろそろ、来る頃合いだと思っていました」

 魔王の名にふさわしい、悠然とした身のこなしで、川端は立ち上がります。

「……私の門下に下りに来た、という雰囲気ではなさそうだ」

「貴方を終わらせに来たのです。それがお望みなのでしょう?」

「……」

「ここに来てから、何度も自殺未遂をしたと聞きました」

 顎に手をやりながら、川端は答えました。

「私がただ、盲目的に死にたがっていたとでも思うかね」

 なお、トミエは容赦がないので、会話の最中だというのに遠慮なく槍を投げつけたのですが、川端が最小の動きで回避したため、天井付近に深々と突き刺さり、取れなくなってしまったようでした。

 武器を喪失した以上、トミエには解説役に回ってもらうことになりそうです。

「太宰君も、心当たりがあるのではないかな。自殺未遂をするたび、強くなるのを感じたでしょう」

「それがどうしたというのですか」

「全ての召喚勇者は、自殺防止の加護がかかっている。過去、呼び出された勇者が、この世界に馴染めず、首を吊る事故があったようでね。それ以来、自害を試みると強制的に蘇生され、耐性が引き上がるようにされたのだ」

 衝撃の真実でした。なんと、私が死ねないのは、魔法による加護が理由だったのです!

「馬鹿な……僕はてっきり、子供の頃からいいものばかり食べてきたせいで、体が丈夫になったのだとばかり……」

 食べ物にそこまでの力はありませんよ、と川端は首を横に振ります。

「つまり貴方は……強くなるために、あえて自殺を繰り返していたと、そう言いたいのですか」

 川端の口元が、幽かに笑みを作るのが見えました。

 どこか挑発的な微笑でした。

「僕には、貴方がそんなちんけな人間だとは思えないのです。確かに貴方とは、何度も対立してきた間柄だ。けれども、とても力に溺れるような男だとは……」

「これを」

 言いながら、川端は懐から一枚の紙を取り出しました。

 繊細な筆遣いで、「芥川賞」と書かれているのが読めました。

「どうする、太宰君。今ここで私に忠誠を誓うというのなら、この場で芥川賞作家にしてあげても良いのですよ」

「貴方は……どこまで僕を幻滅させれば……っ」

 背後では、トミエがハツコに向かって、「隙をついて魔王を噛み殺してくだサーイ」と言い聞かせているのが聞こえます。

「もう、迷わないと決めたのです」

「……」

 川端は、紙を破り捨てる動きを見せました。

「あっ、待って」

「やはり欲しいのではないですか」

「いや、違う。今のは何でもないんです。そ、そんな紙切れ、これっぽっちも欲しくない。煮るなり焼くなり、好きにすればいいじゃないですか」

「なら焼くとしましょう」

「あっ」

 川端の手元で、芥川賞に火が点けられました。

 真っ白な紙が赤々と輝き、やがて黒ずんでいく様を、震えながら見つめます。

「どうだ明るくなったろう」

「川端ぁ!」

 それが開戦の合図でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11月25日、オーバーラップノベルス様より書籍が刊行されます。
↓の表紙画像をクリックでサイトに飛びます。
i358673
― 新着の感想 ―
[一言] 芥川賞に未練タラタラで笑う
[一言] なんつー厭らしい煽りなんだwww しかし、二人とも異世界に来てまで死にたがりやがってもー 居酒屋に来て取り合えず生中、レベルで自死を実行して来たんだよねぇ……ほんと、いい加減にしなさいよ …
[一言] 待ってました!! 体調お気をつけて下さい!ゆっくり楽しみに待ってます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ