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太宰治、異世界転生して勇者になる ~チートの多い生涯を送って来ました~【連載版】  作者: タカハシ ヒロ


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レアドロップ

 目を凝らすと、先ほど魔物が立っていた場所に、棒切れが落ちているのが見えました。

 近寄ってみると、それは槍であることがわかります。よほどの業物らしく、柄も穂も黄金色に輝いており、直視するのもやっとなほどでした。

「売れば、ウイスキイ何本分になるんだろうね」

 かがみこんで持ち上げると、足元に万年筆が転がっているのを見つけました。こちらもまた、見事な装飾が施されていて、持ち主の身分をうかがわせる、贅沢な作りをしています。あのガーディアンとやらは、ひょっとすると地主の家に生まれたのかもしれません。

「ボスドロップでしょうか? レアアイテムだと思うんですけど、鑑定してみないことには、……」

「ステヱタス・オープンと呟けばいいのかい?」

 口にした瞬間、視界に二つの小窓が浮かび上がりました。

 それによると、槍の名は「神槍ゲイボルグ」というらしく、「筋力999上昇、即死効果、必中効果、防御無視」などと意味不明な記述が並んでいるのでした。

 ちょうど、パヴィナアル切れを起こした時の私が、こういった支離滅裂な文章を書いていた気がします。

 一方、ペンの名は「エターナル万年筆」といって、絶対にインク切れを起こさない、魔法の筆記用具とのことでした。

 二者選一の苦手な私ですが、今回はまったく迷わずに済みそうです。

「素晴らしいね。僕はペンを貰うから、槍の方はヒラメンティウスにくれてやろう」

 何考えてんですか、あれ絶対伝説の武器ですよ、槍を選んでください、とトミエがガックンガックン肩を揺さぶってきます。

 見かねたヒラメンティウスが、

「どっちもダザイさんの物でいいから」

 と申し出てきたため、どうにか事無きを得ました。

 まったく、トミエときたら、金品が関わると、途端に目の色が変わるのです。本当に欲深い。

 しかし、これまでの人生を思い返してみると、世の中の大体の女は、私より金銭感覚がしっかりしていたので、おそらくトミエの方が正しい選択をしているのだと思います。

 蓄財に関しては、自分が一番信用できないのですから、己の判断の逆を行けば、必ず財産が貯まるという、単純明快な理屈なのでした。

「僕が持っていても仕方ないから、その槍は君が使いたまえ」

「私がですか?」

「いつもの銛は、錆が目立ってきたようだからね」

 ゴブリンの頭蓋骨を貫いたり、森オーガにとどめを刺したり、シラクスの財務大臣を恫喝するために振り回したり(損害賠償はこれで防いだようです)と、ろくでもない使い方をしてきたので、錆まみれになってしまったのです。

 トミエの頑張りに報いるためにも、そのうち新調してやろうかと思っていたので、ありがたい拾いものでした。

「ありがとうございます。捗るなあ。勇者様にへんな女の子が近付いてきたら、これで……ちょっと、泣かないでくださいヨー! 陽気なマアメイドジョークに決まってるじゃないですかぁ」

 目が、笑ってないのです。

 静子(しずこ)の出産が発覚した時の、富栄みたいな顔をしているのです。

 私は、なるべくトミエの顔を見ないようにしながら、階段を駆け上がりました。暗闇から逃げたかったのです。トミエから逃げたかったのです。あるいは、自分の責任から逃げたかったのかもしれません。

 最後の段を上り終えると、懐かしい、地上の光が待ち受けていました。

 少し遅れて、ヒラメンティウス達が追いついて来ます。

「お疲れ様、あそこが出口だ。いやあ、ダザイさんがいて助かったよ。言動はへんだけど、とにかく強いからね。それじゃ、ここを出たら一杯やろう」

 約束のライム酒。

 その味を考えるだけで、足取りは軽く、言葉は饒舌になっていくのでした。

 私達は、ダンジョンからそう離れていない位置にある小村、ネオマイヅルに向かいました(元は別の地名だったそうなのですが、このあたりは川端の領土と近いため、改名させられた土地が多いらしいのです。最低のネヱミングセンスです)やたら風車が目に付く、閑静な住宅地で、建物は全て洋風、住民は全員が欧米人といった有様で、どこにも舞鶴市の要素がありませんでした。

 しかも、宿の名前がガストハウス表記ときていますから、元はドイツ風の村だったことが疑われます。

 住民に尋ねてみると、そんなことはない、ここは最初から京都だった、と必死に否定してくるのですが、引きつった顔で「グーテンタークでありんす」と挨拶してくるのを見ると、やっぱり付け焼刃の京都で上塗りしたドイツじゃないか、と思わずにはいられないのでした。

 けれども、見て見ぬふりをする優しさが私にもありました。

 きっと川端に歯向かうと、後々面倒なことになるのでしょう。自由な命名など、許されないのでしょう。

 検閲の恐ろしさは、私だって知っています。時には、逆らえないことだってあるのです。 

 戦後は、私だって伏字を使うはめになったのですから。

 ××××鬼、××××鬼。

「俺はこの店が一番好きでね。マダムは綺麗だし、酒も美味い。言うことなしさ」

 ヒラメンティウスに案内され、赤い屋根のガストハウスに入ると、ライム酒で乾杯を行ないました。

 天にも昇る味でした。

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11月25日、オーバーラップノベルス様より書籍が刊行されます。
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― 新着の感想 ―
[一言] ネオマイヅルとかグーデンタークでありんすで草。
[一言] いいもの拾いましたね マアメイドジョークのくだりが好き ライム酒飲めたりとかなんだかんだありつつ楽しくやってる感じにほっこりする
[気になる点] どうか続きますように [一言] 「エターナル万年筆」とはもしや即死効果、心中効果、防御無視、読者特攻LV99の伝説の武器でしょうか…
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