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放置ゲーの錬金術師  作者: treetop
3歳です
9/20

お勉強をしよう2

「アンナこれ作ってみたわ」


 食後のお昼寝から目覚めたアンナに早速マリラが手作りの文字一覧表を見せた。


「わーい。ありがとうママ」

 とうとう絵本での自主勉強の卒業だ。


 ベッドから降りアンナは文字表をワクワクしながら見つめる。


 日本語の五十音とは違いアルファベットやハングルのように文字数は半分程度だ。

 数えてみると27文字であった。

 カタカナに相当するものは無いのかもしれない。少なくとも絵本では見たことがない。

 数字も書き込まれている。8人の魔女という絵本で1から8までは知っていたのでその先が気になっていたのだが、どうやら十進法らしくアンナはホッとした。

 ゼロの概念も存在しているようである。とりあえず9と10は今覚えた。


「どうアンナ、読めない文字はある?」


「ん~…たぶん全部読める。ママ、アンナが間違ってないか聞いて」

「そうね、間違えて覚えていないか確認しなきゃね」

「うん」


 コホンと小さく咳払いをして文字を読み始めた。最後まで読んでマリラの顔を不安気に見上げる。


「凄いわアンナ!」

 マリラはぎゅーっとアンナを抱き締める。


「本当に全部読めるのね。誰も教えていないのに」

 賢いねー、偉いねーと言いながら頬擦りしたり頭を撫でたりマリラは目一杯アンナを誉めまくる。

 沢山誉められると悪い気はしない。嬉しくなってアンナもマリラにぎゅーっと抱きつく。


「それじゃあアンナ、書く練習もしてみる?」

「うん、するー」

「ふふっ、分かったわ準備するわね。さてとお勉強はどこでしようかしら」


 マリラはアンナの部屋に置いてある勉強机に視線をやり次にアンナを見た。


「アンナあの椅子に座れる?」


 シンプルな木製の勉強机の方を指差す。

 アンナはトコトコと近寄り椅子に座ってみると机が高すぎて首から上しか天板から出なかった。


「アンナには机が高すぎるようね、そうねぇダイニングでお勉強しましょうか。あそこなら子供用の椅子があるものね」


「はーい」


 アンナはダイニングに移動しながら自室の机について考えていた。


 日本の学習机なら大抵セットの椅子は高さが変えられたのになぁ。

 あ、日本の学習机みたいに本棚や引き出しを自分好みにカスタマイズしたり、椅子の高さ調節が出来るものを作ったら売れたりして…。

 いや、でも我が家に無いだけでもうあるのかも。

 なら文房具とかどうかな?

 ライトノベルだと日本の物を真似て何かを作ったり料理したりするとお金儲けできるんだけどなあ。


 だんだん机のことから商売の事へと思考が移っていく。

 100円ショップの便利グッズの事を考え始めた頃ダイニングに着いた。


「ママは書くものを持ってくるから座って待っててね」

「はーい」


 ダイニングを出て行ったマリラは紙の束とインクとペンを持ってすぐに戻ってきた。予め用意していたのだろう。


「先ずはペンの持ち方からね」


 マリラがペンを持ってみせる。


 えーっ。何となく羽ペンだと思ってたのに違ったー。


 ちょっとガッカリするアンナ。

 異世界は羽ペン、と勝手に思い込んでいたのだ。

 ペン先は金属で軸は木製。インクに浸けて書く所謂つけペンが一般的に使用されているようだ。


 アンナもマリラを真似てペンを持った。


「最初はペンに慣れるために線の練習からよ」


 マリラはペン先をインク瓶に浸し瓶の縁で余分なインクを落とす。縦線や横線、くるくると円を描いてみせるマリラの手元をアンナは真剣に見つめる。


「さあ、やってみて」

「うん!」


 アンナはマリラの手本通りに線や円を描いていく。


「まあ、アンナ初めてなのにとっても上手ね」


 えへへ、とアンナは笑みをこぼす。


「じゃあ次は名前を書いてみましょうね」


 マリラが手本を書くとアンナは苦もなく真似をする。

 その後幼児特有の飽きっぽさ等全く見せずアンナはひたすら文字を書き続けた。まるで何年も文字を書いてきたかのように滑らかに動く指、そこから作り出される美しい文字にマリラは驚きを隠せない。


 いくら何でも初めたばかりでこんなに上手に書けるなんておかしいわ。もしかしてこの子…ディックが言うように本当に天才なのかしら!


 集中していたせいですっかり自重を忘れたアンナはどんどん単語を覚えていく。


 そもそもディックもマリラもエリートだったのだ。二人の子供が頭が良いのは当たり前なのかもしれない。アンナは桂川 百合の意識が無くとも記憶力の良い優れた人物であったのだろう。


「アンナ、少し休憩しましょうね。手が痛くなってしまうわよ」


 娘の優秀さに驚きつつも嬉しさが勝ってしまうマリラはウキウキとおやつの準備を始めた。

 アンナはペンを置きインクの蓋を閉める。


 ホントだぁ、気付かなかったけど手が痛い。


 アンナはグーパーグーパーと繰り返し指をほぐす。

 馴染みの無いつけペンについつい力を入れてしまっていたのだろう。


 こんなに力を入れてたら直ぐにペン先が駄目になるな、気を付けなくちゃ。


 ペン先はインクを染み込ませる為に縦に線が入るように割れている。いくら金属とはいえ割れている物に圧力を加えると直ぐに開いてしまい使い物にならなくなる。力の加減を知らない子供に持たせるとあっという間にペン先が割れてしまうので、到底初心者向きではないと日本人なら考えるところだ。


 アンナはペン先を見たが全く割れていなかった。


 良かった壊してなくて、初日から筆記用具を壊してたらいくつあっても足りないもんね。

 なかなか私のペンの扱いって上手いんじゃないの?

 ってかこのペン先って鉄?ステンレス?何で出来てるんだろう?硬さの中にも弾力があって、書き味が滑らかで凄く良かったんですけど。紙の質は良くないけどペンの質はめっちゃいい。


 疑問に思ったアンナはマリラに聞いてみた。


「ママ、これ何でできてるの?」


 ペン先を指して問いかける。


「ミスリルよ。ちょっと高いんだけど壊れ難いし書き味もいいの」


 oh…こんなところで異世界を実感するなんて。

 まあ確かに書き味良かったけどミスリルって…。

 ミスリルは剣って勝手に思い込んでた私が悪いんだろうけど何だろうこの残念感。初めて見るミスリルは剣であって欲しかった!


 何とも言えない目付きでアンナはペン先を見るのだった。


 そんなアンナの目の前にクッキーを乗せた皿とホットハニーレモンを入れたカップが置かれる。

 幼児にカフェインはまだ早いのだろう、この世界ではレモンの蜂蜜漬けとたっぷりの蜂蜜をお湯で割ったものか、果実を絞ったものが裕福な家の子供の飲み物の定番とされている。


 アンナはペンを置き、カップを両手で持つとふぅーふぅーと息を吹き掛け中身を冷ましコクリと一口飲み込んだ。とたんに口に広がる蜂蜜のまったりとした甘さと爽やかなレモンの風味に勉強での緊張がほどけていく。


「おいしい」


 無意識にアンナの口から言葉が溢れた。集中し過ぎて手だけでなく変に体にも力が入っていたようだ。


「ふふっ良かったわ」


 マリラが優しく微笑み返す。


「いっぱいお勉強したから今日はこれで終わりましょうか」

「えー、もっとお勉強したい」

「でも手が痛そうよ?」

「じゃあ違うお勉強がいい」

「違うお勉強?」

「うん、パパが言ってた算術がいい」

「算術?それはさすがに難しくないかしら」

「算術、難しい?」

「そうねぇ…」


 マリラは人差し指を顎に当てて斜め上の空間を見つめるように考えていたが何かを思い付いたのかパンっと胸の前で手を叩いた。


「おままごとをしましょ」

「おままごと…」


 アンナは若干浮かない顔だ。


 おままごとかぁ。3歳ってそういう年頃なの?

 恥ずかしいんだけど…。


「そうよ、楽しいわよおままごと。お買い物ごっこなんかも勉強になるのよ」


 あー、まあ確かにお金のことは知っておきたいかな。

 いや待って、私お店なんか行ったことどころか見たことも無いのに成立するの?その遊び。


「ママ、アンナお金見たこと無いよ。お店も知らない」

「そうね、先ずはゼルグナード王国で使えるお金を教えるわね。おやつが終わったら遊びながらお勉強しようね」

「はーい」


 おままごとは気が重いが基礎知識を分かりやすく教えてくれようとするマリラには感謝しかない。


 その後マリラに実物を見せてもらいながら流通している貨幣について教えてもらった。

 お金の単位はギーという言葉だった。

 1ギーは銅貨1枚

 10ギーはミロ銅貨1枚

 ミロとは古い言葉で四角を表す意味があり、文字通り四角い銅貨であった。

 100ギーは銀貨1枚

 1000ギーはミロ銀貨1枚

 10000ギーは金貨1枚

 10万ギーがミロ金貨1枚


 銅貨1枚が日本円でどの程度の価値なのか分からないアンナではあるが金貨をおままごとに使っていいはずがない、という常識くらいは持ち合わせているつもりであった。だがマリラには無かったようだ。


「お店屋さん、パンを一つくださいな」


 と笑顔で金貨を差し出すマリラ。


 はぁ?パン一つを金貨で買うの?今ゼルグナードはインフレなの?


「ママ、パンっていくらするの?」

「さぁ、知らないわ。適当でいいんじゃない?」


 それでいいのか主婦!

 アンナは心の中で盛大にツッコミを入れる。


「ママ、普段お買い物ってどうしてるの?」


 さすがに不安になってアンナはマリラに聞いてみた。


「注文して配達してもらってるのよ」


 なるほど、今までママが買い物に出てるのを見たことがないのはそのせいだったのか。ん?でも配達人なんて見たこと無い。


「いつ配達されてるの?」

「十日に一度くらいかしら」


 えーっ!そんなに来てたの!!

 何で今まで会ったことないの?


 もしかして意図的に会わせなかった?


 子供がポロっと余計な事を言わないようにってことなのかな。

 さすが秘密ラボ、徹底してるわね。


 国の威信をかけた一大事業の片鱗を見たような気がしたアンナだったが、家族以外の人にも会ってみたいという気持ちは止められない。


「アンナ良い子にするから会ってみたいに」

「ごめんねアンナ、ママもほとんど会ったことが無いの」


 マジか、そこまでとは!


 マリラにそう言われてしまえばごねるわけにはいかない。


「じゃあお買い物のお金はパパが払ってるの?」

「絵本みたいな贅沢なものは別だけど、大抵宮廷薬術研究所から出てるわ」


 地方への赴任手当てと考えればいいのかな?よく分からないけど絵本が贅沢品ってことは分かった。

 そしてママの経済観念が怪しいことも理解したわ。


「ママはお買い物したこと無いんだね」


 アンナはマリラにそう尋ねた。


「そんなこと無いわ。パパとよく本屋に行ってお買い物したものよ」

「支払いどうしてたの?」

「後で屋敷に取りに来てもらうか屋敷の者に使いを出して支払いに行ってもらってたわ」


 あ~なるほどね。つまり平民でもお嬢様は現金を持ち歩かないってことね。そしてかろうじて知っているのは本の値段ってことかな。

 本は金貨で買う物なんだろうな。凄くお高い物なんだわ。

 きっとママの基準は本で、お買い物とは金貨でするものと思い込んでる…と思うんだけどあながち間違いじゃないと思う。常識として貨幣の種類は知っているけど使ったことは無いとみた。

 よくそんなお嬢様が家事をこなしているわね、ママ努力したんだろうな。不自由な生活になる事が分かっててもパパと一緒にいたかったんだろうなぁ。


 思った以上に微妙な空気が漂うお買い物ごっこではあるが、それでもアンナはほっこりした気分になったのであった。







ママが殆ど商人 (変装している騎士) に会っていないのはディックが美人の嫁にのぼせ上がる商人を見たからです。

お前らなんかに俺の大切なマリラを見せてやるか!という独占欲ですね。

大人気ないです。

アンナが会ったことが無いのは文中の通り子供のポロリ発言を恐れての事ですが、上司の指示です。

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