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放置ゲーの錬金術師  作者: treetop
3歳です
4/20

【美しき光の勇者様】3

 朝食を食べ終わる頃シトシトと雨が降り始めた。


「ディック、雨が降ってきたわ」

「う~ん、じゃあ今日は畑を休んで」

「パパ~一緒にあそぼー」


 しゃべっている途中で会話に割り込むアンナ。


 さっきはチュウチュウ攻撃の後、流れるようにこちょこちょ攻撃に移行されたため笑いすぎてヘロヘロになってしまった。3歳児の体力などしれている。


 勇者社長に会った話を聞きたい。

 少しでも役立つ情報が欲しい。


 アンナは必死だ。


 ディックは少し考えると


「よし、今日はアンナと遊ぶか」


 そう言ってニカっと笑顔を見せた。


 マリラはカチャカチャと皿を回収し始める。


「じゃあディック悪いんだけど、アンナに絵本を読んであげて。私は昨日の作業がまだ残ってるから」

「了解」


 軽く答えてディックはアンナを抱き上げ絵本を持って居間へと移動した。


 ソファーに座りアンナを膝の上に乗せ絵本を開く。


「昔々神様の国に悪戯者の魔神、アプルスアルガーが住んでいました。アプルスアルガーは悪いことばかりするので怒った偉い神様に神様の国を追い出されてしまいました。ある日、アプルスアルガーは女神セルフィナ様が大切にしている人間の国へとやって来ました。アプルスアルガーは人間の国でも悪いことばかりしたので困った女神様は一人の男に特別な力を与え勇者様になってもらいました。勇者様はとても強く魔神アプルスアルガーを倒して封印しました。しかし1500年後封印が解かれてしまいました。魔神アプルスアルガーはまた人々を困らせます。そこでゼルグナード国に昔から伝わる大魔法で勇者様をお呼びすることになりました。勇者様のお名前はシャチョーです。勇者様とご一緒に4人の戦士も現れました…」


 アンナはディックの読むスピードに合わせて目で字を追っていく。

 一文字も漏らすまいと真剣だ。

 絵本なので絵もあるのだが、印刷技術のせいか荒い版画のようなものだ。デフォルメされており正確性には欠けるが多少の参考にはなりそうだ。

 ディックは抑揚を付けなかなかの演技力を発揮しながら読み進めていく。


「…おしまい」


 ほぅとアンナは息をつく。


「すごい集中力だなぁ」

 ワシワシとアンナの頭を大きな手が撫でる。


「パパ、もっと勇者様知りたい。会ったのどこ?」


 3歳児の会話能力を知らないアンナは、精一杯拙くなるようにいつも言葉を選びながら会話している。

 その様子は、幼い子供が自分の伝えたい事を一生懸命考えながら話しているように見え、なんとも微笑ましい。


「お城だよ」

「えっ」


 勢いよくディックの顔を見る。


「パパお城行ったことあるの?」

「え?」


 今度はディックがアンナの顔をまじまじと見つめる。


 その時、ガチャリとドアを開けマリラが居間に入ってきた。


「あら、二人とも見つめ合ってどうしの?」

 マリラの問にディックが反応する


「アンナがお城に行ったことがあるの?って聞いてきたんだ」

「あるって言えばいいんじゃないかしら」

「いやいや、問題はそこじゃなくて娘が父親の仕事を知らないってことだよ」

「何を大袈裟な事を言ってるの。幼い子供はみんな親の職業なんて興味無いものよ」


 興味ある!

 昨日迄は興味無かったけど、今はめっちゃある!

 異世界で農業やりながらスローライフってライトノベルでよくあるやつ!


 アンナの瞳がキラキラ輝く。


「興味無いって…そんなこと無いよな?アンナはパパのお仕事知りたいよな?パパが大好きだよな?」


 ディックは悲壮な顔である。


「ヨハンさんとこのお嬢さんが、父様ウザい、臭い、あっち行って、って言うって涙目だったんだ。俺あの時笑っちゃったけどアンナにそんな事言われたら立ち直れない」

「きっと反抗期なのね。学校で変な言葉を覚えてきたのかしら」

「反抗期怖え~」


 学校!?

 あるの?

 うそ~、何それ行きたいんですけど!

 みんなの憧れ異世界学園ファンタジー!ライトノベルの王道の一つ。行かない選択肢など無い!


「…学校」


 思わずアンナは呟いてしまった。


「学校って言うのはね、沢山のお友だちとお勉強する所よ」

「…お友だち…お勉強」


 異世界学校におけるお友だちって、貴族のイザコザがあってお嬢様が婚約破棄されたり、学力差別があってそれを底辺クラスが努力と根性で伸し上がっていったり、あるいは特別な能力を持つ生徒が何だかんだでハーレム作ったり、そういう人達のこと言うんだよね。知らないけど。


 お勉強って魔法学科や騎士学科があったり、【グレーゾーンサーガ】の世界の歴史を学べたりするんだよね。知らないけど。


 もう、山ほどのイベントの匂いしかしない!

 ひゃっふー、面倒臭いからイベント参加はしないけど見学させて頂きたい!


「なあマリラ、アンナはずっとこんな辺鄙なところで生活してるから、友達や勉強って知らないんじゃないか?」

「そんな事はないわよ。お友だちの出てくる絵本も読んだことあるもの」

「アンナは絵本の中でしか友達を知らないのかぁ。」

「仕方ないわ。そういうことも分かっててこの仕事を引き受けたんだもの」


 ハッ、そうだった。仕事の話から変な方向に会話が進んでる。

 勇者社長との出会いを聞いていたはずなのに。

 危ない危ない、異世界の学校なんて魅力的なワードが出てきたから忘れるところだった。


「パパ、勇者様のお話は?」

 アンナは会話の軌道修正を試みる。


 ディックとマリラは顔を見合わせた。

「そうだな、今日はアンナと遊ぶんだもんな。難しい話は置いておこう」

「そうよね」

「よし、パパがお城で勇者様に出会った話だよな」


 ディックはニィっとイタズラっぽく笑った。


「アンナ、驚くなよ。実は勇者様方は最初はとっても弱かったんだ」


 まぁそうだよね。召喚された時点ではレベルは1のはず。

 アンナは心の中で納得する。


「騎士団長や魔術師団長に戦い方を教えてもらってたんだよ」


 フムフム、チュートリアルね。


「勇者様といえども初めは弱いスライムから戦ったんだ」


 所謂始まりの町だもんねぇ王都ゼルグナードは。町の周りには最弱モンスターのスライムばかりが湧いてたはず。


「勇者様方をサポートする特別隊が王都で編成されてね、その中にパパとママはいたんだよ」


 そうだよね、普通に考えると召喚してすぐに放り出したりしないよね。

 って、パパとママが特別隊?

 パパって騎士なの?それとも魔術師?


「紺のローブを着て杖を構えるママの姿はキリッとしてるのに可愛くてそれはそれは素敵だったんだ」

「いやだ、ディック子供に何言ってるの」

「何って真実だからしょうがないよ。マリラは世界一美人だ」


 マリラは「もう」と言いながら満更でもなさそうにディックの肩を叩いてからアンナの顔を見た。


「ねえアンナ、パパはこんなことばっかり言ってるけど本当はとっても凄い人なのよ」


 ニッコリとマリラは顔を綻ばせる。


「宮廷薬師の中で薬師長に次ぐ実力者だと言われているのよ」


「きゅうてーやくし?」


 アンナの知らない単語だった。

【グレーゾーンサーガ】には沢山のジョブがあり、途中でジョブチェンジも可能であった。しかし薬師という職業はジョブ一覧には無かった。


 戦いに直接関係しない職業だから、ゲームには出てこなかったってことかしら?

 サポートをする特別隊って戦うサポートだけでなく医者や料理人とかも含まれていたってことかな?


「パパが作るお薬はとっても良く効くの。勇者様はパパの作る傷薬をとても誉めていらしたわ」


 傷薬(下級)は10%、傷薬(中級)は30%、傷薬(上級)は50%の回復力があったはず。

 誉めてたってことは傷薬(上級)を作っていたってことかしら。ゼルグナード国の商店には傷薬(上級)は置いていなかったはずだからパパ達宮廷薬師から特別支給されていた?


「今パパが畑で作っているのは新しい薬草なの。それを使ってもっともっと凄いお薬の研究をしてるのよ。でもこの研究はゼルグナード国が他所の国に秘密で研究している事だから内緒にしなくちゃいけないの。だからね、お家の周りには人が住んでいなくて…子供がいないからアンナにはお友だちがいないの」


「結局難しい話なっちゃったな。今は理解できないかもしれないけど、少しずつ分かってくれたらいいからな」


 つまりここは新薬開発ラボでスパイ対策のため現在孤立状態を維持しているってことね。

 オーケー理解したわ。

 ゼルグナード国は始まりの国だったもんなぁ。周りのモンスターが弱いだけでなく入手できる武具やアイテムも各国の中で一番ショボかった。これって国力が弱いってことなのかな。国的には新薬を開発して輸出品を増やしたいとか?国家間で少しでも優位に立てる決め手の商品が欲しい?

 あっそうか、今までは国力が弱くても勇者召喚ができる国ってことで一目置かれていたのかも。世界の驚異が去った今その有効切り札の威力が弱まったから焦ってる?

 考え出したらキリがないわね。

 うーん、でも孤立する程の場所ってママは買い物とかどうしてるんだろう?

 一番近い町か村迄どのくらいかかるのかしら。

 それに今も宮廷薬師に在籍しているような話し方だったのに報告とかってどうしてるの?


 一つ何かが分かると複数疑問が浮かぶ。

 でも今一番伝えたいのはこの一言。


「パパのお仕事カッコいい」

 てっきり農夫だと思っていた。決して農夫がカッコ悪いと言っている訳ではない。秘密裏に行っている研究というのが卒業したと思っている厨二心に刺さるのだ。


「…えっ、アンナ何て?」

 ディックが聞き返した。


「パパのお仕事カッコいい」

「もう一回。アンナ、もう一回言って」

「パパのお仕事カッコいい」


 く~~~ディックは目を瞑ってアンナの言葉を噛み締める。

「勇者様方がお持ちだった声を留める道具があれば今のアンナの言葉を留めておくのに」


 ボイスレコーダーかスマホの事だろうか?


「でもね、勇者様方はすぐに強くなってむしろママ達は足手まといになってしまったの。この国を旅立たれる頃には6人で何でもこなしていらしたわ」

「そうそう流石は勇者様一行だよな。反則なくらい早くレベルが上がって行ったのには感心したもんだ」

「6人?絵本は5人って書いてたよ?」

 アンナは疑問を口にする。


 そうよ、【グレーゾーンサーガ】は6人PT(パーティー)で冒険するゲームだった!

 私が欠けたところに誰かが入ったってこと?


「あー、そう言えば絵本は5人になってるな」

「ミランダちゃん恥ずかしがりだったでしょ、劇場や本で自分の名前が出されるのを拒否してるって聞いたわ。何でもほとぼりが冷めるまで何処かに隠れ住むって」

「勿体ない、若い女の子なのに」

「仕方ないわよ本人の希望ですもの」

「ミランダちゃんって?」

「ミランダちゃんはテイマーって言って色々な動物さんと仲良くなれる子なのよ」

「ミランダはドラゴンとだって友達なんだぞ」


 あー、知ってる!ゲーム後半で出てくる少女。

 彼女を仲間に入れると飛竜で移動できるようになってグンと移動速度が上がるのよ。

 高い山も飛び越せるようになる。

 いや、待てよ彼女はこの国の国民じゃなかっはず。

 どうやって序盤から仲間に?


 いや愚問だな。


【グレーゾーンサーガ】を表も裏(非公開情報)も最も知り尽くしている彼らのことだ。愛するあまり暴走したに違いない。イベントフラグを悉く回収してガンガンクエストをこなしたことだろう。全てのダンジョンを淘汰し宝箱を開けまくっている姿が目に浮かぶわ。顔はあんまり覚えて無いけどノリの良さと一部性格は覚えてる。

 レベル70で倒せるはずのラスボス魔神に、レベル99のカンスト状態で挑んで俺tueeeを実践しながらボコったって聞いても疑わないよ。

 だってきっと私ならそうしていたから…

 ラスボス封印後は必ず元の世界に帰れるって前提なら、何でもありでやらかしまくったはずだもん。

 今の私みたいにこの世界で生きて行かなければならないのなら自重したかもしれないけど。


 その後も勇者様一行の大冒険を両親に語ってもらったアンナ。

 話の途中にちょいちょいいちゃつく会話が挟まれたが今さらなので気にしない。

 予想通りの勇者様一行のハチャメチャっぷりに頬が引きつったけれど。


 でも帰る前に桂川 百合のことを社長達が頼んでくれた話には胸が熱くなった。

 名乗り出る気は無いけれど、素直にありがたいと思った。

 万が一何かがあった時の保険だと思ったら心に少し余裕が生まれた。


 ありがとう、美しき光の勇者様…


 って、あははははやっぱないわ~その呼び方(笑)






【美しき光の勇者様】編はこれで終了です。

楽しんで頂ければ幸いです。

次回は 薬草畑 です。

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