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放置ゲーの錬金術師  作者: treetop
3歳です
17/20

父の決断4

 ミランダは後悔と申し訳ない気持ちに押し潰されそうになりながらも気持ちを奮い立たせ自分のやるべきことを淡々とこなす。


 まずノア達の様態確認と身柄確保。

 昨晩派手に魔法を撃ち合っていたと思われるあちこち抉れた地面に無造作に放置させたままというわけにはいかない。


 幸運にも近くの獣や魔獣は高威力の魔法を恐れ逃げてしまったのだろう。血の匂いがしていたはずなのに一晩放置されても襲われていなかった。しかし重症であることには代わり無い。


 このまま放置していたらいずれ獣や魔獣に喰われてしまうのは目に見えている。


 嫌がるディックに頼み込んで邸内に入れてもらうことにした。


「但し条件がある。傷の手当てはするな。魔力封じの腕輪と口と手足を縛って転がしとけ」

 ディックはひどく冷たい声で吐き捨てた。


 ミランダはコクコクと頷き言われた通りに縛ってエントランスにノア達を寝かせる。


 ひどく空気が重い。

 当たり前だ。

 楽しい要素など何一つ無い。


 全て私のせいだ!


 竜人の国ハユーラディアでもディックにもミランダのせいではないと言ってくれたが、どう考えても責任が無いなどとは厚かましくて言えない。


 はぁぁー


 重いため息をつき次にするとことを考える。


 ゴギューーー、グエェェェーーーー


 相棒ルードルフの鳴き声にミランダはハッと顔を上げ表に出た。

 ディックも慌てて外に飛び出る。


「どうしたの、ルードルフ?」

 待機していて欲しいとお願いしていたはずのルードルフがなぜかグエグエと可愛らしく(ミランダには可愛く聞こえる)鳴き声をあげている。


 チャキッ


 どこかから剣を取り出したディックの瞳のハイライトが消えている。


「アンナが…今助けてやる、待ってろ」


 走り出そうとするディックの腕にミランダがしがみつく。


「待ってディック!あれは私の相棒のルードルフだから!人は襲わないからー」


「しかしアンナの部屋の窓に!!」


「何か理由があるはずだから!お願い、落ち着いて」


「あんなに大声で鳴いてるんたぞ、きっとアンナが怯えてる」


「アンナちゃんが可愛くてじゃれてるだけよ。ルードルフは可愛く鳴いて甘えてるだけだから、本当に大丈夫だから剣をしまって」


 グギュゥー、グボォォォと空気を震わせる大きな鳴き声が続いている。


「いや、可愛く鳴いてって…」


 一睡もせず体と心に疲労を貯めまくったディックの判断力は若干鈍っているとはいえさすがにそれはない!と思えるぐらいには頭は働いている。


 三才児に甘えるドラゴン?

 超絶可愛い俺の娘だがドラゴンが甘えるか?

 いや、可愛いからなぁ…。

 ドラゴンを魅了してしまったか?

 …あり得る…可愛いもんな!

 天使だもんな!

 全ての生き物の頂点に立つ愛らしさ!

 そりゃあドラゴンだって陥落するわ~


 ディックは考え込む。

 親バカすぎる残念イケメンは今日も揺るがない。

 安定の残念だ。


 害は無い…のか?


 アンナの愛らしさにやられて思わず連れ帰ってしまう…とか?

 あるかもしれない!

 まずい!


「アンナー」

 ディックは剣を投げ捨てミランダを振り切り階段を駆け上がった。






 ガラスの装置や薬瓶が並んだ棚。

 本棚にはぎゅうぎゅうに押し込まれた本や紙束。

 天井から吊るされた何かの草。

 所狭しと並べられた木箱。

 窓から入る日差しにキラキラと埃が反射されている。


 ここはディックの調合室。


 ディックは目の前の物体に目をやった。


 何だかんだで容易に手に入ったドラゴンの涙。

 …しかも樽に並々と。


 それは秘薬の原料。

 滅多に手に入らない極上素材。

 …以外と涙もろいので頼めば融通してもらえるらしいが。


 大量の魔力を含み全ての効果を増幅させると言われている。

 …あんなにぼろぼろ泣かれてはにわかに信じられないが。


 竜の涙は、下級の傷薬に一滴加えるだけでたちどころに上級傷薬に昇華する、あるいは弱い毒でも猛毒へと変化する。軽い眠気覚ましも数日眠くならないし、おまじない程度の魅了でも一瞬で恋に落ちる。良い効果も悪い効果も全て増幅させてしまう奇跡の素材。


 と、本に書かれていた。


 レア中のレアな素材なためディックも初めて目にしたのだ。


「マリラ、待ってろ」


 人体にとって非常に良いものでも取りすぎると逆に劇薬になることもある。

 ディックは慎重に調合していく。


 上級傷薬は既に試したがマリラには効果が無かった。

 否、全く効果が無かった訳ではない。傷口は治っているのだ。

 表面的なものではない?

 内服させるのか?

 何と合わせる?

 体温上昇、活力上昇、疲労回復、気付け薬…

 興奮作用が大きそうだ…精神安定剤も足すか?

 何かしら効果が出そうなものをとも思うが一気にあれこれ詰め込むよりも様子をを見ながら少しずつがやはり基本だろうし…


 初めて扱う素材に天才の名をほしいままにしてきたディックでもさすがに自信がない。


 自分の命より大切な妻の生死が掛かっているのだ、慎重の上にも慎重に事を運びたい。


 人体実験したいところだがそう簡単に怪我人なんか…


 いや、いるな。

 あいつらで試してみるか。


 ディックの頭の中でエントランスに放置した不審者が思い浮かぶ。


 ぼこぼこにした二人を思い出しただけでまた殺意が込み上げてくる。

 何があっても許すなど言語道断。

 どんな誤解があったとしてもだ。

 若気のいたりで済まされる事ではない。


 アンナの前世の世界では人体実験など非人道的な行いになるかもしれないが、こちらの世界ではそうでもない。正当防衛の解釈はかなり緩い。殺す覚悟があるなら、殺される覚悟をしなければならない。人を襲えば仕返しされても文句は言えないのだ。


 出来上がった数個に薬瓶を手にディックは不審者竜人の元へ向かう。


 傷だらけの若者を見下ろしてギリッと奥歯を噛み締める。


 先ずはと片目が潰れた方の竜人の口に薬を垂らしてみる。


 みるみるうちに傷が塞がる…が目は覚めないようだ。

 損失した目は失わされたままで新たに眼球が出来上がることはなった。部位欠損を補える程の奇跡の薬では無いようだ。


 次の瓶を続けて試してみる。


 凍傷や火傷で変色していた皮膚に血色が戻るもののやはり意識を失っている。

 体の傷が随分良くなったのでこの様子では普通の気付け剤でも目を覚ますかもしれない。

 面倒なのでこの男にはここまでとする。


 三つ目の薬瓶をもう一人の男の口に垂らす。


 瞬く間に傷が治り目を覚ます。


 なるほど、これはいけるかもしれない。

 ディックの目がキラリと光り手応えを感じる。


 目が覚めた男は身動きが取れず魔法も封じられたことを理解したらしい。ゴソゴソと動いた後諦めるような表情になり動かなくなった。


 最後の薬瓶も一応試したいが二人とも目立った傷は治っている。

 少し迷ったがやはり試して見るべきかと片目が潰れた男の口にまた薬を垂らす。


 もう一人の男が毒でも盛られたとでも思ったのかウゴウゴ言って慌てているが知ったことではない。


 片目の男は目を覚ますとぼーっとしているようだ。

 ふつふつと額に汗が浮き出てきているところをみると体温が上がっているらしい。


 この薬も候補に上げて良いかもしれない。


 ディックは二人をガン無視してマリラの元へ向かうのだった。





 アンナ、ミランダ、何故か窓からドラゴンが見つめる中ディックは薬をマリラの口内へと垂らす。


 皆沈黙して見つめる中、ディックはそっと首に触れ心拍を確かめる。


 辛うじて打っていた脈は徐々に力強く打ち始め、頬に血色が戻ってくる。


 助かったのかもしれない!


 ほぅーーっと詰めていた息を吐き出したのは誰だったのか、いや皆かもしれない。


 それぞれの顔に安堵が広がる。


 後はマリラの瞼が持ち上がり美しい瞳をを目にするのを待つだけだ。


 待つ。


 じっと待つ。


 開かない瞼を見つめてただ待つ。


 しかしディック達の願いも虚しく意識が戻らない。


「次の薬を…」


 ディックが呟くと


 グボォォォ


『待たれよ、ご尊父殿』


 ルードルフが待ったをかけた。


『拙者の鑑定魔法では竜の涙の摂取は本日はこれ以上は無理でござる。日を改められよ』


「は?え?声???」


 混乱気味のディックにミランダがドラゴンが念話できる事を伝える。


「しかし竜人で試したが複数回試しても何も無かったんだが」


『竜人はそもそもドラゴンとの親和性が高い上に体が頑強でござる。しかしご母堂殿の様な繊細な人族には拙者の涙はきつかろう』


「なら、このまま何も出来ないのか…」


 ディックの声に絶望が染まる。


『暫し待たれよ。未々修行中の若輩者ではござるが拙者の鑑定魔法でできるだけ状態を読み取ってみるでござる』


「そんな事が…ありがとうございます。宜しくお願いします」


 ディックは窓から覗くドラゴンに深々と頭を下げた。


 キラーンとルードルフの瞳が光るとマリラの体の上を青い光が行ったり来たりする。


 あ~何かスキャンしてるみたい。

 アンナは青い光を目で追いながらコピー機を思い出す。


『フムフム…ん?…あ…いや…え?…ああ…なるほど…』


 いやそういう独り言っぽいのまで念話で流す必要無いよね?

 アンナの思いは尤もだ。


『大体のことは分かり申した…ような気がするでござる…かな?』


「ルードルフ、それはつまり解ったの?解らないの?」


 相棒のあまりに頼りない回答にミランダが焦ってしまった。


『うむ、まぁ率直に言って命の危険は今のところ無いと断言できるでござる』


「よかった…」

 ディックが思わず呟くと


『して、ご尊父殿よ。ご母堂殿が最後に受けた魔法はアイスニードルでこざったか?』


「はい、そう聞こえました。途切れ途切れに呟くとような感じに」


『その魔法は不完全であったのでござろう。アイスニードルに余計なものが混ざり今の状態が引き起こされているのでござる』


「余計なものとは?」


『始祖の魔法の名残でござる。術者は魔法の才がござったのであろう、命の危険に無意識に冬眠の魔法が混じったのでござるよご尊父』


「冬眠の魔法?初めて聞きます…」


『ご尊父が初耳なのは無理も無かろう。今や竜人も使わぬ魔法でござるよ。食料が不足したときや、大怪我をしたときなどに使われた太古の延命魔法でござるがドラゴンはまれに使う者もおったので拙者にも解明できたでござる』


「つまり解除できると言うことですか?」


『できないでござる』


「何故ですか?」


『冬眠の魔法とは起きる時期を設定するものなのでござる。例えば暖かくなるとか、1年後あるいは体が回復したらとか多岐に渡り設定できるのでござる。しかし命を守るための魔法であるので誰でも解除できたら外敵に攻撃されるかもしれぬのでござる。そこで術者しか解除できぬように本能で組み込まれておるのでござる。始祖の用心深さが滲み出ている魔法でござる』


「ではあの竜人なら解除できるということですね」


『本来はそうであるのでござるが、無意識下の魔法の解除などあやつなどにできるとは思えんでござる。あのような竜人の風上にもおけぬ粗忽な阿呆で下賎な不埒者など今回の事が終われば拙者が成敗してくれるわ」


 ルードルフ、何気にご立腹である。

 竜人の国でミランダに秋波を送っていたノアにずっとイライラしていたのだ。

 挙げ句の果てには酔い潰すなどとんでもない!

 ルードルフの相棒に!

 大切な大切なルードルフ相棒に!

 愛して止まないルードルフの相棒に!


 この煮えたぎる嫉妬心のせいでアンナに聞いた未來の話に思わず号泣してしまったのだろう。


「成敗ですか?それは譲れませんね」

 光の消えたほの暗い目をしたディックの背後にユラリと魔力が溢れ出す。


「パパ、アンナも一発入れていいかな?」

 アンナの瞳にもハイライトが消えている。


「もちろんさ、アンナも好きなだけ殺るといい」


 やるが殺すになっている!


 唯一冷静かもしれないミランダが慌てて止めに入る。


「お願いだから皆落ち着いてぇ。ルードルフ、解決策はあるのよね?あるんでしょ?あると言って!」


 ミランダは若干涙目である。3才のアンナに殺人なんてさせられない。


 必死のミランダにルードルフがハッとして答える。


『勿論あるでござる。世界の果てにある泉の水ならたとえ冬眠の魔法といえども解除できるでござる』


「やっぱりそうなってしまうのね」


「半年は長すぎる。ミランダ、世界最速のドラゴンでもそんなにかかるものなのか?」


「ディック、距離の問題ではないの。世界の果てでの時間軸はこちらと違うのよ」


「時間軸?」

 ディックには初めて聞く言葉である。

 アンナにはなるほどそれでも半年なのか~と納得の答えなのだが。


「世界の果ては女神様の憩いの場で人間が迂闊に立ち寄れる場所ではないの。世界の果てでは時間がとてもゆっくりと流れていて数分過ごしただけでも世界の果てを出ると何日も過ぎてしまっているの」


「とんでもない場所だな」


『ここからが大事な話でござる。冬眠の魔法は体を仮死状態に近い状態にする魔法でござる。本来であれば飲み食いせずとも半年程度で体はどうこうなり申さんのですが、ご尊父の薬剤により仮死状態を脱し眠ってはいるものの、栄養を摂取せねばならぬ状態になっておられるのでござる』


「俺は余計な事をしてしまったのですか?」


『そうではござらん。ご母堂が仮死状態でギリギリの生命維持状態になると、腹のお子に栄養がいかなくなり危険でござる』


「え?腹の…子ですか?」

 呆然とするディックを置いてルードルフの説明は続く。


『魔神討伐の旅で竜人の国に寄った折りにアコライト.クボタ殿が開発した点滴なるものが存在するでござる。それを使えば寝ていても栄養が取れるのでござる』


 なるほど!そういえばあったわ、そんなイベント。

 異世界召還の勇者ならではの現代医療知識イベント!


 アンナはポンと手の平を拳で打った。

 あれだけイチャラブの夫婦だいつ妊娠してもおかしくない。

 アンナは納得しているが、ディックはそうではないようだ。


「子供…えっと…え?」


 あの時の?

 いやあの時か?

 うーんあの時かもしれない?

 待て、あの時か!


 心当たりがありすぎる。


 今やディックの頭の中では18禁映像がグルグル回っている。

 マリラの状態に何とか対応出来そうだと思った安堵感から一気に気が緩んでしまったのか。


 こんな時に何を考えているのやら。緩んだディックの顔を見たアンナは想像がついてしまった。


「パパ?」

 絶対零度の冷たい声にディックの緩んだ表情がスンっと消える。


「マリラの竜人の国への移動手段を考えてたんだ」


 絶対違うよね!


 アンナは心の中で盛大に突っ込んだのだった。







ストックが切れたので更新がちょっと不安定になります、ごめんなさい。


ところで 初めてポチっと評価を押して頂きました!!!

もう嬉しくて泣きそうρ(・・、)

評価して頂けるなんて…

ありがとうございます。


評価して頂いた方も、読んで頂いた方も 拙い文章にお立ち寄り下さって本当にありがとうございます。

書くのは遅いのですができるだけ頑張ります。

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