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放置ゲーの錬金術師  作者: treetop
3歳です
11/20

招かれざる客人1

いきなりの展開です。


酔っぱらいの会話が読みづらいと思います。申し訳ありませんが少しお付き合い頂ければ幸いです。

「れんれん酔っ払ってなんかいましぇん、らいじよーぶれす。あははは」


 勇者様一行のただ一人の現存する英雄、ミランダ17才。

 彼女はお世話になっている竜人族の男性と現在食事中である。

 各国の中でも先進国である竜人族の国は、若い女性の一度は訪れたい憧れの国

 トップスリーにランキングされる有名国である。


 そしてその国でミランダはベロンベロンであった。


 美しい真っ直ぐな銀髪に神秘的な金の瞳。年齢よりも若く見える彼女は大層可愛らしく男性の庇護欲をそそる。普段から少し表情が乏しいがそれもまた彼女の魅力であった。ただし現在は酔っている為表情は豊かである。陶器のようなつるりときめ細かい肌は思わず触れたくなるし、鈴を転がすような可愛い声はいつまでも聞いていたくなる。彼女を慕う男性は後を絶たない。

 そして彼女の魅力に囚われた男性がここにも一人。


 竜人族族長の長男ノア=エプシュタイン。


 竜人の国と言うだけあり、竜人族が治めている国である。その族長の長男ということは他国で言う王太子に当たる。しかし始祖であり国王でもある竜神が今も何処かで生きていると考えられているため、竜人族は大国であるにも拘わらず国の王に当たる人物を族長と少数民であるかのように呼んでいる。


 3ヶ月前に二年の留学を経てイヤイヤ地元に帰ってきてみれば自分の理想をそのまま体現したような美女が邸に客人として滞在していた。

 下がっていたテンションが一気に天に突き抜けた。


 ノアの父親、族長のカークから彼女の名前はミリーでカークの恩人の娘であると紹介された。くれぐれも粗相の無いよう丁寧に接するようにとしつこく注意されたがノアはそれどころではなかった。


 一目惚れだった。

 明らかに一目惚れだった。

 お手本のような一目惚れだった。

 それはもう周りがドン引きするほどの誰にでも分かるあからさまな一目惚れだった。


 竜人族で唯一、ミリーことミランダの正体を知っている族長のカークは最初こそこの事態に慌てたが、すぐにこの状況を肯定することに決めた。


 英雄ミランダを我が家の嫁にできればどれ程の名誉と利益が得られるだろうか、竜人族の今後がどれ程明るいことか。魔神復活により国は荒れ甚大なる被害を被った、今は国の為に是非とも明るい話題が欲しいのだ。


 今ではそれとなく息子をミランダに近付けている。

 そして今日は急用と称して妻と外出した。息子と二人きりで食事をさせる為だ。

 もちろん用事があるのは嘘ではない。魔神に潰された城の再建、国の立て直し、族長として寝る間も無いほど働いている。今夜の予定も前々から組み込まれていたものであったが晩餐を準備万端整えた後で緊急の事態を装い外出した。ミランダには折角の準備を無駄にせぬようノアと楽しんで欲しいと言い添えた。

 使用人達にも給仕が終われば最低限の人数を残し二人に近付かないよう注意してきた。


 カークは揺れる馬車の中でニヤリと笑い、つい言葉が出てしまった。

「ノアよ、上手くやれ」


 今頃首尾良くミランダを口説いていることだろうとカークは思った。

 少し強引なところがあるノアに対し奥手のミランダを気の毒に思わなくも無いがあれだけ惚れ込まれているのだ、嫁いで来ればノアに大切にしてもらえるだろうと安易に考えてもいた。


 勇者様を崇拝しているノアがミランダのことを知れば、きっと目の色を変え、おそらく自分を見失い手段を選ばず彼女を手に入れようとするだろう。さすがにそれはミランダの父である恩人ジョルジュに対し非礼である。紳士としてあるまじき行為だ。手厚くもてなすと約束して招いているのだ。ミランダが英雄であることは隠さねばならない。

 そもそもミランダが本気になればノアなどひとたまりもないのだ。テイムしたドラゴンでプチっと潰されてしまうに違いない。何処にいるのか知らないが呼べばすぐに飛んでくるらしい。いくら竜人族が頑強な体を持つとはいえ本物のドラゴンには到底及ばないのだ。先祖に竜神を持つとはいえ今では随分と血が薄まっている。

 あくまでも英雄と知らないノアが彼女を口説き落とし、彼女が恋に落ちて結ばれるのが理想である。


 カークは満足そうに顎を擦った。

 しかしカークの呟きを彼の妻は聞き逃さなかった。


「まあ、何てこと私は反対ですわ。いくら旦那様の恩人のお嬢さんでも竜人族以外の娘をノアに近付かせるなんて」

 カークの妻はミランダが気に入らないようである。

 もっとも彼女は誰が嫁になろうと反対なのだが…。


「お前もあの娘のことを知れば反対する気も失せるだろう」

「そんな日は一生来ませんわ」

 不機嫌そうに彼女は扇を取り出し顔を扇いだ。





 その頃ノアは焦っていた。


 まさかワイン一杯でここまで酔っぱらうなんて普通思わないだろ!


 一般的に成人は16歳とされている。国によっては15歳で成人とみなされる所もある。飲酒が法に触れるわけではない。しかし酒に弱い事を自覚しているミランダはワインを断っていた。だがノアは、「乾杯だけです」とか、「一口だけです」等となんだかんだ押しに弱いミランダを丸め込んで飲ませた。

 酒が入れば口も滑かになり謎の多いミリーについて少しでも知ることが出来るだろうと思ったからだ。父カークにいくら聞いてもミリーという名前と年齢、恩人の娘という情報以外何も教えて貰えなかったのだ。


 普段感情を抑制し、周りに気を使いながら大人しく生きているミランダはアルコールで感情が暴発していた。


「ミリー嬢、随分とその、えーっと陽気になられておいでのようです。少し水など如何ですか?」


 ノアはそれとなく水を勧めを正気に戻そうとした。


「え?水れすか?水ならここにあるじゃないれすか」


 ミリーことミランダは白ワインの瓶を持ってドバドバと自分のグラスに注ぎ始めた。


「ミ、ミリー嬢!?」


 ノアの止める間もなくワインはミランダの喉へと消えていく。

 ノアは呆然と空になったグラスを見た。


 さすがにこれは不味い!


 女性を泥酔させるなど紳士の風上にも置けない行為である。竜人族は竜神を祖先にもつ神話の時代から続く由緒正しい種族である。自慢の角に美しく縦に長い瞳孔を持ち、頑強な体に魔力量も豊富であり回復力が高く魔力耐性も高い。どの種族よりも優れた種族であると竜人は誰しもが誇りを持って生きている。それ故男性は常に紳士であり女性は淑女を目指し己を律している。


 しかし竜人が己に厳しく生きるのはもう一つ大きな理由が存在する。


 竜人とは大変気性が荒い種族でもあるのだ。すぐに頭に血が上ってしまう欠点を持ち合わせている。一度怒り出すと見境がつかなくなる。遥か昔の神話の時代、怒りに任せて戦争を起こし一つの種族を滅ぼしてしまった過去がある。しかもその戦争は冷静さを失い正しい判断が出来ず早合点をして勘違いをしたまま起こしたものであった。まさに竜人族が一方的に悪いものであった。それ以後竜人は自分達の感情をコントロールし怒りに任せた行動を禁じている。


 竜人は紳士であれ。


 ノアは父である族長にいつも言われていた言葉だ。


「ミリー嬢ワインもよいのですが、食事も如何です。シェフがミリー嬢のお好きな物を揃えていますよ」


 今が食事を食べ終えた後なら、いやせめて半分でも済んでいれば自室へ戻し休ませてもよかったのだが、如何せん食前酒での酩酊っぷりではお手上げである。彼女はまさしく湯水のようにワインを喉に流し込んでいる。


「お好きな物?」


 ミランダはワイングラスを手に料理を見渡した。


 ノアは使用人がうろうろと周りをうろつくと気が散るので、まあ、正直に言うと二人きりになりたかったのでコース料理を一気に運ばせて使用人を下がらせていた。

 テーブルには前菜からデザートまでところ狭しと豪華な料理が並べられている。


「お好きな物はここにはないれす、ヒック」


 そう言うといきなりミランダの目に涙が込み上げてきた。


「ちょっ、ミリー嬢!何故いきなり泣くのです。お好きな物が無ければ作らせますので何でも仰って下さい。どうか気分を沈めて」


 おたおたと焦るノアだが酔っぱらいに理性的に話したところで通じるわけがない。


 ミランダはキョトンとした顔でノアを見て、

「泣いてないれすよこんなに楽しいのに~。ノア様は変なことを仰いましゅねぇ。うふふ」


 そう言って酒で赤く染まった顔で可愛く笑いポロリと涙を流した。


 いよいよ不味い。意味が分からない。飲ませるんじゃなかった。


 ノアは少し前の自分を殴りたかった。

 これでは全く楽しめない。嫌だというミリーに強引に勧めた自分が悪いのだ。ミリーの情報を引き出したいという自分の浅ましさが招いた結果である。


 はあぁぁぁ


 ノアは重い溜息をついた。

 今晩の夕食会を楽しみにしていたのだ。父親のお膳立てというのは気に入らなかったが、断るという選択肢は無かった。

 一つ年上なのに可愛らしくどこか放っておけない美しい女性。

 少し表情が乏しいがたまに見せる笑顔は花が咲いたようだった。

 いつも一歩引いたところがあり父の大切な客人であるのに偉ぶったところがなく、使用人にも優しい。

 礼儀も正しく、会話も博識で知性を感じられた。特に世界情勢に詳しく、ノアの知らない国やとても遠く伝説のような扱いになっている国さえまるで見てきたように語って聞かせた。


 ノアはミリーが好きで好きで好きすぎて堪らなかった。

 恋とはこんなにも楽しく切ないものだったのか。

 ノアは初めての感情にどうしていいか分からなかったが、兎に角ミリーの気を引こうと一生懸命で涙ぐましい努力をしていた。


「ノア様わらしのおしゅきなものは、ちゅくれるものではにゃいのれすヒック」


 駄目だ、もう言葉もかなり怪しくなってきた。

 どうしたらいいんだー。


 16歳のノアには酔っぱらいの相手など荷が重過ぎた。


 こっそりと様子を伺っていた従者のエリックが見かねてそっと室内に入ってきた。


 自分の手に余る状況を知られるのが情けなくなったノアはキッとエリックを睨んで、


「呼んでないぞ」


 と憮然と言い放った。


「申し訳ございません。ノア様一旦食事は中断しては如何でしょうか。庭によい風が吹いております。風に当たられるとミリー様の酔いも少しは醒めるでしょう」


 今の状態で食事を楽しむのは誰が見ても無理があった。エリックはノアにとっとと外に連れ出せ、と指示を出した。手を振ってシッシッと追い払うジェスチャーをする。主従関係ではあるが乳兄弟でもある彼らは一般的な上下関係ではなかった。


「そうだな、そうしよう。ミリー嬢庭を散歩致しませんか?」

「庭におしゅきにゃものがあるのぉ?」

「あるといいですね。さあエスコート致します」


 ノアが立ち上がりミランダに向かって手を差し出した。


「庭にしゅきなもの?…ディック?ディックがいりゅの?」


 ピキリ


 いきなり出てきた男の名前に空気が凍りついた。


 笑顔を保ちながらどす黒いオーラを背中から発散させるという器用なことをしながらノアは問いかけた。


「ディックとは誰のことですか」


「ディックわぁ…ゆーしゃさま」

 ろれつが回らないミランダが答える。


「え?勇者様ですか?」

「ディックわぁ、じぇるぐーなーどーのぉ、ゆーしゃさま支援とくべちゅ隊のぉ、しゅごく大切なひとー」


 ピキピキッ


 更に空気が凍りつく。


「ゼルグナード国の勇者様支援特別隊に所属していたディックですね」


「そうれす。ディックわぁしゅてきでぇ、優しくてぇ、わたしを大事にぃしてくれてぇ、いちゅも一緒にぃいてくれてぇ」


「十分ですミリー嬢、それ以上のろけは聞けません。僕の心が死んでしまいます」

 ノアはがっくりと肩を落とした。


「ノア様大丈夫ですか」

 さすがにエリックも何と声を掛ければいいのか分からない。主人の失恋現場の対応など難しすぎる。


 しかし酔っぱらいは空気を読まない。


「ディックのぉ奥しゃんわぁとっても綺麗でぇ、私わぁ…私わぁ…」


 ボロボロボロボロ。


 ミランダの目から滝のように涙が溢れだしてきた。


 ピキピキピキピキ、パキーン。


 ノアの口から冷気が溢れだしてきた。ノアの得意とする氷魔法が無意識に薄く発動している。

 明らかに魔力が漏れだしている。

 拗らせた遅咲きの初恋は木っ端微塵に吹き飛ばされた。その反動はノアの中で荒れ狂う。

 頭に靄がかかる。

 心の中がどす黒く染まっていく。

 はぁはぁと荒い息をはくノアにさすがに不味いとエリックは慌てて肩に手をかけ声をかける。


「落ち着けノア!」


 ただならぬ様子を察知したのか執事と数名のメイドが側に扉を開けて入ってきた。


「いかがなさいましたか、ノア様」


 困惑した執事が問いかけるがノアの耳には入らない。

  

「落ち着け、冷静になれ!竜人の在り方を忘れるな!」

 

 グラグラと肩を揺すられノアはハッとする。

 意識が闇に飲み込まれそうになっていた。

 

「そうですよ坊っちゃま、落ち着いて下さいませ」

 一人のメイドが背後に立ち気遣わし気に背中をさする。


 その時ノア首にチクリと痛みが走った。

 痛みを感じた途端意識が正常に保てなくなる。

 またしても腹の底から込み上げる押さえきれない怒りがノアの意識を乗っ取る。

 もうノアには自分の感情が押さえられなかった。


「落ち着いていられるか!妻を持ちながらエリー嬢に手を出していたんだぞ、許せるものか!」

 興奮したノアの目は焦点が合っていないのだが、誰もそれに気付かなかった。


「しかしそれはエリー嬢とディックとやらの問題でお前には関係無い」


「うるさいっ!」


 ノアはドンっとエリックを押し退け執事やメイドを押し退け部屋から出て行ってしまった。


 キャー

 ノア様、お気を確かに!


 廊下から騒ぎ声が聞こえてきたと思ったらメイドが部屋に飛び込んできた。


「エリック様、ノア様をお止め下さい。殺してやると叫びながら飛び出して行かれました」


「あのバカ!すまないエリー嬢を頼む」


 今入ってきたメイドにそう言うとエリックは慌てて走り出した。


 空気を読まない酔っぱらいの独演は続く。


「私わぁ、ディックをーお兄しゃんと思ってぇマリラをーお姉しゃんとぉ思ってぇ、初めてぇ家族のぉあいじょーを教えてもらってぇ、わらしわぁおとーさまとわぁ、ほとんどぉ会ったことがなかったしぃおかーさまわぁ私を産んでぇすぐに女神様の元へ旅立たれたのれぇ記憶に無いけれどぉ、ディックとマリラわぁほんとーのきょーだいに思えてぇ」


 ミランダの話は聞き取り辛くとりとめがないが酔っぱらいとはそういうものなので、メイドは口を挟むことなくウンウンと聞くしかない。


「一緒にご飯を食べたりぃ、ゲームをしたりぃ、落ち込んだ時わぁ優しく慰めてくれたりぃ、そうだ!マリラわぁお腹にぃ赤ちゃんがいたのぉ。いもーとかおとーとができるのぉ」


 兄妹の子供は姪か甥であって妹や弟ではない。しかしメイドはもちろんそんなことは指摘しない。


「そうですか、こ兄妹が増えることは宜しゅうございますね」


 ボロボロ溢れる涙が止まらないがミランダはとても嬉しそうな顔をしている。


「たいしぇつな家族がぁできたみたいでぇ、嬉しくってぇ幸せでぇ、生きてぇきた中でぇディックとマリラのことわぁ一番大しゅきな思い出でぇ」


「それはようございましたね」


 メイドはミランダのほっこりする話を聞きながらどこに怒って飛び出して行く要素があるのだろうと首を傾げるのであった。





 大混乱の屋敷の中でニンマリと笑う一人のメイドがいた。

 彼女はノアのグラスに興奮剤を入れ、トドメとばかりに背中をさするふりをしてノアのうなじ近くにある竜の逆鱗を引きちぎったのだ。

 

 そう、竜といえばお約束!と言っても過言ではない漫画でも小説でも有名なアノ怒りに我を忘れる竜の逆鱗である。


「任務終了。頑張って暴れて下さいませ、お坊ちゃま」

小さな声で呟くメイドの声を拾う者は誰もいなかった。






 

やっと登場人物が増えました。

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