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放置ゲーの錬金術師  作者: treetop
3歳です
10/20

お勉強をしよう3

「パパは…パパは…この宝物を一生大切にするよ」


 ディックの目はウルウルと潤み今にも涙が溢れそうだ。

 手に持つ紙には『パパ大好き アンナ』と書かれている。


「ね、凄いでしょディック。今日初めてペンを持ったとは思えないでしょ」

「ああ、本当に凄いな…」


 ズズーっと鼻を啜りあげるディック。


 夕食後の団欒の一時、ディックとマリラは居間のソファーにゆったりと座り寛いでいた。

 アンナはディックの膝の上である。


「それで?お姫様は他にどんな勉強をしたのかな?」


 ディックはアンナの頭を優しく撫でながら尋ねた。


「ママとおままごとしながらお勉強したよ」

「おままごと?」

「ディック、女の子はおままごとをしながら社会の知識を学んでいくものなのよ」


 マリラはドヤ顔で語っているがアンナは微妙な顔をした。


「へー、おままごとで勉強するんだ」

「そうよ、お店屋さんごっこでお金の数え方や通貨の種類を学んだり、お姫様ごっこでは綺麗な挨拶を学んだり」

「なるほど、おままごとってバカにできないものなんだね」


 ディックはちょっと自慢そうに話すマリラが可愛くて仕方がない。


「アンナおままごとは楽しかったか?」

 優しくディックは膝の上のアンナに問いかけた。


「お金がギーって言って、銅貨と銀貨と金貨があってミロは四角いお金なのは覚えたよ、でも…」


 アンナはマリラの欠落した経済観念では社会知識としては参考にならない事を言っていいのか迷った。


「でも?」

 言い淀むアンナにディックは先を促す。


「ママはパンを一つ下さいなって金貨を出すの。絵本では金貨を貰った貧しい少女はとっても喜んでたよ。金貨でパンを買うのは普通なの?」


 ディックはあちゃーとでも言うように片手で顔を覆った。しかしすぐに立ち直りキリリと顔を引き締める。


「パンにも色々な種類があるからね。ママはきっととっても美味しいパンを買うつもりだったんだよ。美味しいものは高いからねハハハハハ」


 ディックは愛する妻の些細なミスをフォローした。箱入り娘だったマリラがパンの値段など知らないことは簡単に予想がつく。


「そうなんだ…」

 アンナはディックのフォローを察して乗っかることにした。空気を読む日本人の技を出し惜しみなどしない。

 パンの値段など祭りで出掛けた時にチェックすればすむことだ。


「お金の他には何を覚えたのかな?」

 どうやらディックはパンの話題はさらりと流すことにしたらしい。


「えっと重さの名前がクルールとクラールで」


 マリラはティースプーンに砂糖を乗せこれで5クルールくらいであるとアンナに教えた。1000クルールで1クラールになる。

 アンナは目算でティースプーン1杯5グラムと見て取った。つまり1グラム1クルール。従って1キログラムが1クラールである。目算なので正確ではないかも知れないが大体分かればいいと思った。


「長さの名前がセルとラルなの」


 これは仕立屋さんごっこの際に採寸遊びで使った巻き尺を見せてもらいながら教えてもらった。約1センチが1セル、1キロメートルが1ラルと考えれば良さそうであった。


「そうか、沢山勉強したんだな。偉いぞー」

「うん、ママがね色んな事を教えてくれたの」

「マリラありがとう。君は素晴らしい教師だ、たった一日で娘がこんなに成長するなんて思ってなかったよ」


 マリラはうふふ、と笑いながら紅茶のカップに口をつけた。

 親にとって子供の成長ほど嬉しいものはない。

 マリラとディックは今日の成果に大満足であった。


「そうだ、忘れるところだった」

 そう言うとディックはズボンのポケットら1セル(約1センチ)ほどの大きさの石を一握り取り出した。


「パパそれグリーンスライムの…」

「うん、核だよ」


 青カビのような毒々しい色のゴツゴツした小さな石に見えるそれはアンナが今朝目撃したのと同じものである。


「まあ、懐かしいわ。私もそれを使って勉強したわ」

「え?」


 魔核で勉強?なぜ魔核?どうやって使うの?


 アンナの頭の中は疑問符でいっぱいだ。


「アンナ、核を3個取ってごらん」


 アンナはディックに言われるまま膝の上から手を伸ばし核を3個手に取った。


「次にもう1個取って」


 訳が分からないまま指示通りに更にもう1個取る。


「さあアンナ核は何個取った?分かるか?ちょっと難しいか?」

「頑張ってアンナ、ゆっくり数えればいいのよ」


 両親が見つめる中、アンナは固まってしまった。


 え?え?えーーーーっ!?


 まさかこれって小学校1年の時に使う算数セットのおはじき的な感じなの?

 マジかー!

 何故魔核でやるの?

 贅沢過ぎるじゃない!


「あー、ごめんアンナそんなに悩まなくていいから。いきなり算術は難しいよな」

 ディックはアンナの戸惑う顔を見て勘違いした。


「そうよアンナ。最初は分からなくて当たり前なのよ」


 マリラも優しく慰めるようにフォローする。

 しかしアンナはそれどころではなかった。


 まさか…。

 いや、でも…。


 アンナは真剣な顔でディックに話し掛けた。


「パパ、どうして数を数えるのに核を使うの?」

「ん?悩んでるのはそっち?核を使う理由が知りたかったの?」


 コクコクとアンナは頷く。

 やはり顔は真剣なままだ。


「まあ、昔からそうするもんだってことも有るけど理由はいくつかあるな。」


 アンナの真剣さに気圧されるようにディックが話し出した。


「先ずスライムの核は小さくて子供の手でも扱い易いし場所も取らない。大きさが大体揃っていて数え易い。色が派手で目立つからなくしにくい。そして一番の理由が使い道が無いからさ」


「核は子供の勉強道具以外に使わないものなの?じゃあ何故わざわざ魔物から抜くの?」


「核は何かの拍子に瘴気に触れてしまうとまたアンデッドの魔物になってしまうんだ。だから結界のある場所に置いておかなくちゃいけないんだよ。だからアンナ核で勉強するのは念の為に家の中だけだよ」


 アンナはコクンと頷く。


「街の中なら結界に覆われているからどこで使っても問題ないんだけどね」


 ディックは苦笑いする。


「アンナは算術よりも沢山の核に驚いちゃったのね。確かに見ようによっては気持ち悪い色だわ」


 マリラは核を一つ手に取ると繁々と眺めた。


「私達魔物に慣れ過ぎてしまって、核に驚く感覚なんて無くしてしまっていたのね」

「そうだな、言われてみれば俺も初めて核を見た時ドン引きしたわ」

「そうなの?」

「俺の家ではレッドスライムの核だったんだけどあれ血の塊みたいな色だろ」

「私の家ではブルースライムだったわ」


 ディックとマリラはほっこりと昔話を始めたがアンナはドキドキと心臓を高鳴らせていた。


 手の中の4つの魔核。そしてテーブルの上に無造作に置かれた30個はありそうなグリーンスライムの魔核。


 魔核には使い道が無い。

 それってつまり…まだ魔核の重要性が発見されていない?

 ヤバイ、どうする私。

 どう動くのが正解なんだ?

 私だけの秘密にする?

 何かの切り札みたいな使い方をする?

 それとも世のため人のために一般公開する?


 いや、先ずは魔核を使って実験からだ。

 本当に使い物になるか試さなくちゃ。


 ふふっ、ふふふふ、うふふふふ。


 我慢できなくてとうとうアンナは笑い出してしまった。


「どうしたアンナ?」

 難しい顔をしていた娘がいきなり笑いだしたためディックは驚いた。


「なんでもない」

「なんでもないって、何か面白いものがあったか?」

「なんでもないんだけど、えーっとレッドスライムやブルースライムの核も見てみたいなぁって」

「あら核に興味が出たの?」


 マリラも不思議そうである。


「うん、興味出たー。パパ、アンナもっと色んな核が欲しい」

「おっ珍しいな、アンナが物を欲しがるなんて」

「本当に珍しいわ、今までオモチャにも服にも興味無かったのに」

「よし、じゃあ保管部屋を見に行くか?」

「うん!」

「待って駄目よ」


 マリラが慌てて止めに入った。

 反対されるとは思っていなかったディックはキョトンとする。基本的にマリラはディックの行動を止めることは無い。無茶をしたり明らかにやり過ぎた行動には抑制をかけるが大抵の場合は微笑んで容認してきたからだ。

 駄目だと言われたことはほとんど記憶に無い。


 …あ、でもアレの時は駄目って言いながら色っぽい声でむしろ誘いかけるような吐息をこぼして、ほんのりピンクに染まる肌が艶かしくて、ってゴホンゴホン今はそれを考えるな、俺!


 ディックはできるだけ爽やかに見える笑顔を作った。


「何か不味いことでもあるのかな?」

「だってディックのお兄様が…」

「兄貴が何?」

「子供が欲しがる物をすぐに与えては駄目だって仰っていたじゃない。何でもすぐに手に入ると我儘な子になるって」

「ご褒美やお駄賃にして、何かを得るには何かをしなければならないって教えろって、あれか?」

「ええ」

「うーん、アンナにはまだ早いだろ。それに俺は物に釣られて動くような人間になってほしくないな」

「それはそうなんだけど…せっかく子育ての助言を頂いたからできれば守りたいわ」

「そうか、うーんどうするかなぁ」


 ディックは膝の上に大人しく座っているアンナの顔を見た。


「アンナはどうしたい?」


 知らんがな。


 アンナは心の中でツッコミを入れた。


 教育方針はそっちで決めていいよ。

 パパのお兄ちゃんが言う、物には対価が必要ってのも分かるし我儘防止作にもなると思う。でもパパの物に釣られる人間になるなってのも分かる。


 両親の悩みがちゃんと理解出来るのでアンナはどう決まっても文句を言うつもりは無い。


「ディック、アンナに聞いたって答えるわけ無いじゃない」

「そうだな…俺達は初めての子育てだし経験のある兄貴の顔を立てるか」

「でも何に対してのご褒美にしたらいいのかしら」

「アンナは良い子だからなぁ、取り立ててご褒美って言われてもなぁ」

「そうねぇアンナに出来るお手伝いってあるのかしら」


 ディックとマリラは頭を悩ませる。さすがに3歳の子供に出来るお手伝いとなると中々思い付かない。


「お掃除もお洗濯も魔法を使っているし、やっぱり食事の準備かしら?」


 何ですと?掃除、洗濯は魔法って言った?

 そういえばママが洗濯してるところとか見たこと無いかも…。

 何で今まで気付かなかった!


 アンナは頭を抱えて悶絶したかった。

 こうも身近に魔法が使われていたなど思いもよらなかった。しかしそれは仕方がない。0歳はほぼ寝ていたし1、2歳も割りと寝ていた。今でもたっぷりお昼寝しているので一日の半分は寝ている。母親は子供の寝ている間に効率良く家事をするものだと勝手に思い込んでいたのだ。正直家事に興味はなかった。


「ママ魔法でお洗濯してたの?知らなかった」

「うふふ、ディックは汚れを落とす魔法がとっても上手なのよ」


 しかも洗濯してたのパパ!

 尚更気付かんわ!


 あう~とアンナは口から呻き声をあげそうだ。


「どこの家でも魔法でしてるの?」


 アンナは聞かずにはいられなかった。【グレーゾーンサーガ】の世界で使われる魔法と言えば戦闘に関するもの、回復に関するもの、呪いに関するもの等で生活に密接な魔法など出てきたことがなかったからだ。


「ディックみたいに器用に錬成魔法を使いこなして家事に役立てる人なんていないと思うわ」

「マリラの綺麗な手が水仕事で荒れるなんてあり得ないからね」


 当然の事だと言わんばかりのディックの態度である。


 そっか、我が家独特の魔法なのね。それなら知らなくても仕方無いわ。すっごく便利そうだから大きくなったら教えて貰おう。


 アンナの心の中のメモが追加された。


「じゃあアンナご飯のお手伝いするね」

「そうね、カトラリーを並べてもらおうかしら」

「ああ、それは良いな。それならアンナも上手に出来るだろう」


「あとね、朝起きたら自分でお着替えする」

 アンナは今朝のチャレンジを思い出していた。

「でも木箱の蓋が重くて持ち上がらないの」


「まあ、アンナとっても素晴らしいわ。お洋服はママが出しておいてあげるわね。でもお着替えが難しかったらママがお手伝いするから無理しないでね」

 マリラは嬉しそうに微笑む。


「うん、あとは…えーっと、そうだ。さっきの算術のお勉強頑張る。そしたら核を貰ってもいい?」


 アンナの問いにディックはアンナの頭を撫で回しながら答えた。


「アンナは本当に頑張り屋さんで偉いな。もし出来なくても努力したならそれで良いんだよ、核はちゃんとあげるからね」

「ありがとーパパ」


 アンナはディックに「ぎゅー」と、声に出しながら抱きついた。


 ふとアンナはディックの胸から顔を上げる。


「そうだパパ、3個に1個を合わせると4個だよ。算術答えたから核を1個貰っていい?」


 ちゃっかりさんなアンナであった。







次回は 招かれざる客人 です。

とうとう三人以外の人物が…( *´艸`)


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