初恋の次の初恋
「通じる?」
「……いや、ダメだ」
隼人はため息をついて携帯をしまった。
「電源切ってやがる。何してんだ?」
「まさか……」
「え?」
舞は目をキラキラと輝かせた。
「まさかのまさか?」
「え、ホントに?」
隼人は疑わしそうな顔をしたが、舞は笑顔のままで首を傾げた。
「そんな気がしない?」
うっと隼人が息を詰まらせる。
そうだ、畜生。
分かってるよ、畜生。
やっぱり自分はごまかせない。
多分、舞のことも。
「……お前、良いのかよ?」
「へ?」
隼人は憮然として言った。
「お前、あいつの事好きなんだろ?」
「はいぃ?」
舞は「ありえない!」という表情で彼を見た。、
「隼人、一体いつの話をしてるわけ?」
「いつって、ついこの間まで……」
「嘘だよ、違う!」
舞はきっと隼人をにらみつけ、怒った顔をそのままに顔を背けた。
「私の初恋は終わったの! とうの昔に!」
「なんでそれを知らないの!」と言わんばかりの口調だった。
知るかよ、と隼人は呆れながら思う。
そもそも、そういう系統の話を彼女から聞いたのは、翔太のことが最初で最後だ。
それだって小学生のときに聞いただけだ。
それ以来、彼女にはそういう噂はあがらず、雰囲気もなかった。
まぁもちろん、自分を除けば、の話だが。
ふと見ると、舞がきつい目でにらみつけてきていた。
わけが分からず戸惑っていると、彼女が低い声で吐き捨てた。
「……ばかやと」
「え、俺?」
「あんた以外に誰がいるの。この、ばかやと」
「はぁ?」
舞はまたぷいっと顔を背ける。
またその横顔を見つめながら、隼人は「やれやれ」と思った。
何を怒っているんだか。
ま、この会話って概ねいつも通り。
こうやって続いていく話もあるだろう。
そう願いたい。
だって俺は――。
隼人は言葉を飲み込んだ。
いつつかめるかも分からないきっかけをつかむために。
桜が降る。
降りしきる。
もし彼が目をつむり、手を差し出したなら、きっかけは舞い降りる。
実のところ、花びらはもう、掌の上にある。
彼は気づいていない。
ただ、握り締めれば、それはつかめる。
ただ、それだけの、それだけのことなのだ。