63/67
交錯点
「ただのアナグラムだよ」
と弘は笑った。
「名前入れ替えただけ。「ひねるならもう少しひねれ」って言ったんだけど」
「あ、そういうこと。ありがちだね」
弥生は笑った。
弘はもっともらしくうなずいた。
「そ、アイツは単純なの」
「アハハ!」と笑い声を上げた弥生は、すぐに「あれ?」と首を傾げた。
「ところで、そっちの電話は?」
「ああ、賢だよ。なんかさ、息子が我が家に向かってるらしい」
「え」
「ま、別に大丈夫だよな? あの子なら」
のほほんとしていた弘はふと妻の方を向き、びくっと身を強張らせた。
「え……?」
「ん……?」
唖然として見つめ合う二人の間を、桜の花びらが一枚、通り過ぎた。