雪遊び
先に我に返った華は、まだ遠くを見つめている翔太の脇腹を突いた。
「かまくら作ろ」
翔太は一瞬言葉が出てこない。
ぼうっとしていたこともあるし、自分の真横、その目の奥に映る自分の姿が見えるほど近くにいた華の姿に驚いたこともある。
華はにこっと笑い、もう一度言った。
「かまくら。ね?」
翔太は一度銀世界に目をやり、それからもう一度華に目をやった。
「かまくら?」
「うん。作りたい」
目がキラキラ輝いている。翔太は思わず笑ってしまったが、結局は首を横に振った。
華は「えぇ?」と抗議の声を上げたが、翔太は真剣な表情で「ダメ」と言った。
とはいえ、その隙間から笑顔がこぼれているのを見て、華は何かを期待することが出来た。
「かまくらはスコップがいるでしょ? それよりさ……」
彼は手袋をはめなおした。
「雪ダルマ作ろう」
華は先ほどと同じく目を輝かせて頷き、暗くなっていく雪国の平原で二人は雪玉を作り始めた。
最初は交代交代で転がしていた雪玉が、しばらくすると一人では動かせない大きさにまでなった。
そして二人で力いっぱい押してもうんともすんとも言わなくなり、翔太は汗だくの体を雪の上に投げ出した。
「ひゃあぁぁぁぁ……疲れたぁ!」
ひんやりとした冷たさが、熱い身体に心地いい。
華はまだ雪玉を押していた。
「華ぁそん位で良いじゃん」
実際、雪玉は翔太の腰位の高さまで大きくなっていた。
それでも華は押し続ける。
唸りながら彼女は言った。
「大きい方が!……長く!……残るから!……う゛う゛ぅ……」
しばらく翔太は華を呆れたように見ていたが、不意に立ち上がり、手伝い始めた。
二人で唸っていると、重い雪玉がのそりと前に進む。
途端に翔太は力が抜け、雪の上にうつぶせに倒れた。
横を見ると華も同じ様になっている。
彼女は翔太の方を向くと汗をかいた顔でニヤっとした。
「動くって分かったし、もうちょっと大きく出来るね」
「え!?」
華は声を上げて笑った。
「冗談だよ、冗談!」
翔太は怒った振りをして大声で言った。
「笑えない!」
「ゴメンゴメン。さ、頭」
翔太はさっと立ち上がると、雪を手ですくい、雪合戦でつかう様な雪玉にした。
華がポカンと見ていると、彼はそれを胴体部分にぽんと置いた。
「はい、完成!」
そう宣言した彼は伸びをしながらぶらぶらと歩きだした。
華は一瞬呆気に取られていたが、次の瞬間、地面の雪を左手ですくい、右手でバッと雪だるまの「頭」をつかみ、投げる。
「痛!」
翔太は頭をはらって振り返り、続けざまに飛んできた雪玉を顔面で受けた。
華はガッツポーズをして笑う。
もちろん、翔太が即座に応酬し、白い弾と二人の楽しげな喚声が飛び交い始めた。