表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Season  作者: 田中 遼
55/67

あきらめ





「……誰?」



少女は答えず、ただ立ち尽くしていた。


彼女はほとんど同じ場面を見たことがある。 同じ場所、同じ姿勢で、ひたすらに待っていた少女がいた。


たった一日。

たった一日前だ。



「……遅いよ……!」


「え」



ポカンと口を開けた翔太の横っ面を、思い切り張り飛ばしたい衝動があった。


どうして、その一言で分からないのか。

もう遅いのだ。


奇跡は起きなかった。

「翔太」のせいで。


少なくとも、瞳はそう思っていた。


それで彼女は翔太の顔をにらみつけている。



「……華はもう、来ないよ」



彼は一瞬目の中に驚きを映したが、すぐその光が消えた。

翔太の視線がすっと下がり、「そっか」という呟きが口からこぼれた。


彼は立ち上がらなかった。

それも、そう出来なかったのではなく、しなかっただけらしかった。



「何それ」



翔太は瞳を見上げ、ぎょっと身を引きかけた。

彼女の敵意はあまりに唐突だった。

瞳自身にも自覚はある。

しかし、抑えられなかった。



「何なの? その、「知ってた」みたいな感じ」


「……いや、知ってたらこないよ」


「だろうけど! ちょっと落ち着きすぎなんじゃない、翔太くん!?」


「別に。……疲れただけだよ」



翔太はわざとらしいほど大きく息をつき、その行方を力のない目で追いかけた。


それがすべて解けた後で彼は瞳に視線を戻し、まだ彼女がきつい目をしていることに驚かされた。



「え、何?」



その、本気で戸惑っている顔を見て、瞳は反射的に顔を背けた。



なんでこんなにざわざわするんだろう。


自分のことでもないのに。

華も静かに旅立ったのに。


そうだ――。



「……翔太くんは華がどうなったのか聞かないんだね」



関心がないみたいに。

まるで諦めているかのように。


しかし、翔太は即座に答えた。



「どこかで元気にしてるんでしょ?」



見ると、翔太は頭を木に預け、目を閉じていた。

彼はそのままの姿勢で何でもないかのように付け加えた。



「何かあったんなら真っ先に言うだろうし」


「……その「どこか」を知りたくないの?」


「知りたいよ」



翔太は目を開き、何か言いかけた瞳を手で制した。

それからやけにゆっくりと身を起こすと、小さく首を振った。



「でも、君は言わなかった。華は君に言付けを頼んだわけじゃない。そうだよね?」



翔太は瞳がうなずくのも待たなかった。



「華は僕に伝えたかったわけじゃない」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ