あきらめ
「……誰?」
少女は答えず、ただ立ち尽くしていた。
彼女はほとんど同じ場面を見たことがある。 同じ場所、同じ姿勢で、ひたすらに待っていた少女がいた。
たった一日。
たった一日前だ。
「……遅いよ……!」
「え」
ポカンと口を開けた翔太の横っ面を、思い切り張り飛ばしたい衝動があった。
どうして、その一言で分からないのか。
もう遅いのだ。
奇跡は起きなかった。
「翔太」のせいで。
少なくとも、瞳はそう思っていた。
それで彼女は翔太の顔をにらみつけている。
「……華はもう、来ないよ」
彼は一瞬目の中に驚きを映したが、すぐその光が消えた。
翔太の視線がすっと下がり、「そっか」という呟きが口からこぼれた。
彼は立ち上がらなかった。
それも、そう出来なかったのではなく、しなかっただけらしかった。
「何それ」
翔太は瞳を見上げ、ぎょっと身を引きかけた。
彼女の敵意はあまりに唐突だった。
瞳自身にも自覚はある。
しかし、抑えられなかった。
「何なの? その、「知ってた」みたいな感じ」
「……いや、知ってたらこないよ」
「だろうけど! ちょっと落ち着きすぎなんじゃない、翔太くん!?」
「別に。……疲れただけだよ」
翔太はわざとらしいほど大きく息をつき、その行方を力のない目で追いかけた。
それがすべて解けた後で彼は瞳に視線を戻し、まだ彼女がきつい目をしていることに驚かされた。
「え、何?」
その、本気で戸惑っている顔を見て、瞳は反射的に顔を背けた。
なんでこんなにざわざわするんだろう。
自分のことでもないのに。
華も静かに旅立ったのに。
そうだ――。
「……翔太くんは華がどうなったのか聞かないんだね」
関心がないみたいに。
まるで諦めているかのように。
しかし、翔太は即座に答えた。
「どこかで元気にしてるんでしょ?」
見ると、翔太は頭を木に預け、目を閉じていた。
彼はそのままの姿勢で何でもないかのように付け加えた。
「何かあったんなら真っ先に言うだろうし」
「……その「どこか」を知りたくないの?」
「知りたいよ」
翔太は目を開き、何か言いかけた瞳を手で制した。
それからやけにゆっくりと身を起こすと、小さく首を振った。
「でも、君は言わなかった。華は君に言付けを頼んだわけじゃない。そうだよね?」
翔太は瞳がうなずくのも待たなかった。
「華は僕に伝えたかったわけじゃない」