灰色の空の下
少年はまた大きく息を吐き、手袋越しに手を温めた。
ポケットの中のカイロはすでにごわごわに固く、冷たくなってしまっていた。
必要以上に着込んでいたはずなのに、背中から、首もとから、寒さが忍び寄ってくる。
少年はぶるりと震え、すでに小さくなっている身体をもっと縮めようと、自分の足をさらに強く抱き寄せた。
彼はひょろりと細長く、斜面にあるようにねじくれた木に寄りかかっている。
そのねじくれが風のせいに思えるほどの冷たい風が吹きつけていた。
少年は待っていた。
ひたすらに、ただひたすらに。
空一面の灰色が、じわりじわりと濃くなってゆく。
彼は自らの知らないところで起きた出来事を必死で考えている。
良くないことが起きたのは分かった。
病気、事故、その他もろもろ。
そして、心が離れたということ。
少年の中に、冷たい何かがしきつめられてゆく。
少年は目を閉じ、上着の中にもぐりこむように襟元に顔を隠した。
彼は心から言葉追い出そうとする。
一番痛い言葉を。
しかし本当にそうできるはずもなく、彼は自分に言い聞かせた。
――そんなはずはない。
そんなはずは。
ダメだ。
そんなことは考えちゃいけない。
もうこのまま、ずっと目を閉じていよう。
そうだ。
目を閉じれば、あの子はやってくる。
どこからともなく、あの時のように。
きっと、そうだ――。
その時、彼はひとつの足音を聞いた
いや、感じた、というべきかもしれない。
地面を通して、誰かが歩いてくる気配が伝わってきたのだ。
少年は目を閉じたままで、近づいてくるその気配に耳をすます。
確かにこちらに向かってくる。
始めはそろそろと、それがだんだんだんだん早くなる。
近づく。
もっと近づく。
――もしかして。
もしかして――。
足音の主は少年のすぐ近くまで来て急に減速した。
そして、のぞきこむようにしながら慎重に近づいてくる。
少年の中で鼓動が高まる。
少年はまぶたを下げている力をさらに強めた。
何故。
彼は怖かった。
何がかも分からない。
相手は彼のすぐ目の前で止まった。
小さな息づかいが聞こえる。
少年は息も止めて待っている。
少女がすっと息を吸い込んだ。
「……翔太――くん?」
翔太は目を開いた。