霙
小さな家にまた、鈴の鳴るような音が響いた。
しかし、先ほどから窓を見ながらじっとしていた少女は動こうとしなかった。
音は鳴り続く。
少女はしばらく窓に映る自分と、そこにとどまる自分の吐息と向き合っていた。
いつの間にか心で数えていた数が十五に達する。
音は鳴り続いている。
少女は大げさなほど大きくまた息を吐き、立ち上がると引きずるように足を動かし、部屋の隅に向かう。
「……はい」
「あぁ、お母さん――」
「降ったけど積もらなかったよ」
「……うん、まぁね」
沈黙があった。
重たく、よどんだ沈黙だった。
「……そういえば、ごく……お父さんたちの「企み」がなんなのか、分かったよ」
「……ううん、言えないの」
「口止めされたから」
「ううん。悪いことじゃないよ。大丈夫」
「……どうしたのって、何が?」
「……何もないよ。声? 気のせいじゃない?」
「嘘なんてついてないよ」
「……分かるって言われても……」
また少女が黙り込む。
受話器の向こうから、ぽつり、ぽつりと声が聞こえてくる。
手に力が入る。顔が下がっていく。
少女は目を閉じ、その場に立ち尽くしていた。
かくりと膝が折れ、電話台の前にしゃがみこみ、程なく手を放した紙が倒れるように床に横になってしまう。
身体の体温がじわじわと床にむしりとられてゆく。
少女は目を閉じたまま受話器を強く、強く耳に押し当てた。
そのくせ、何も耳に入ってこなかった。
「……何が?」
「……うん、大丈夫」
「あのね、お母さん」
「……お父さんが「会いたい」って言ってたよ――?」
「そう。私も」
「……そうだね 」
少女は一度目を開け、電話台となっている椅子の足を見つめた。
うっすら埃を被った金属の足。
「……そうだよね――」
少女は目を閉じた。
疲れ果てて眠るように。
安らかな寝顔のように。
刹那、その顔が歪む。
痛みをこらえるように。
嗚咽を、こらえるように。
少女は震えながら、口に笑顔の形を作る。
「――私は、翔太を、待たなきゃね――」
声はどこも震えていなかった。
涙はどこからもこぼれなかった。
外はまた、雨まじりの雪が降り始める。
積み上げようとした雪たちは水たまりに溺れ、追いかけてきたものに倒されてゆく。
何度も何度も。
そして彼らの残骸もまた、彼ら自身の邪魔をする。
早すぎたのかもしれない。
しかし、それがなんだと言うのか。
少女に地面は見えていない。
寝転んでいた少女は目を開き、窓の外、それも中の明かりが届く、ほんのすぐ近くを見、息を呑んだ。
雪は踊るように光の中をきらめき、通りすぎてゆく。
幾度も、幾度も。
まるで宝石のきらめきのように。
まるで空にあることがすべてであるように。
華は目をしばたいた。