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Season  作者: 田中 遼
51/67


冷たい風に頬を赤く染め、少年が道を走っていく。


果てしなく晴れ渡る青い空、磨き上げたばかりのナイフのような空気、口から出てくる白い息。


待ちに待っていた季節。

彼はガチャガチャと派手な音を立てながら、木枯らしと同じく、転がるように校門をくぐり抜けていく。

そして校庭を横切り、玄関から入って下駄箱ですばやく靴を履き替え、ものすごい勢いで階段を駆け上がり、教室の扉を走り抜け、横にスライドするように自分の席に着地した。

彼は息を切らしながらも、満面の笑みで振り返った。



「五連勝!!!」



遅れて駆け込んでくる少年の呼吸も荒い。



「昨日は俺の勝ちだろ!?」



翔太はランドセルを下ろしながら笑った。



「いや、タッチの差で俺だった!」


「んだとぉ!?」


「あー、はいはい、うるさいよ、二人とも」



先に学校に来ていた舞が、読んでいた本から目を上げて笑った。



「しかしまぁ、こんな寒いのに元気だね」


「寒いかぁ?」



隼人が言った。


彼は当然のように半ズボンで、一応長袖ではいるもののまくりあげられており、あまり意味をなしていなかった。

翔太は上も下も一応は冬っぽい格好をしていたが、

「暑いくらいだよ?」と息を切らせている。


二人ともが汗をかいた顔を手で扇いでいたが、暖房の効いた教室の中では大して意味はなさそうである。


隼人がうんざりしたように言った。



「翔太、廊下で涼もうぜ」


「だな」


「あっきれた。季節感を大事にしてよ」


「時代は変わりつつあるんだよ!」



隼人がそう言って教室の外に駆け出した。

翔太も笑いながらそれに続く。


舞はそれを見送った後、「やれやれ」と首を振り、また本に視線を落とした。


しかし、目が文字の表面をなぞるだけで、全然頭に入ってこない。

彼女はしばらく靴で床を叩きながらそのページと向き合っていたが、ついには諦め、パタンと本を閉じると、立ち上がって廊下に出ていった。


翔太と隼人は壁に背中を預けて床に並んで座り、声を上げて笑っていた。


舞が「ちょっと!」と言いながら二人の前に仁王立ちすると、二人ともが目をぱちくりさせた。



「え?」


「床に座んないの! 汚いでしょ!」


「いや、でもさぁ」



隼人は掌で床をぺちぺち叩く。



「この冷たいのが気持ちいいんだよ。な、翔太」


「そうそう」



二人に動く気配がない。


「やれやれ」と思った舞は、二人の横にしゃがみこんだ。

いや、正確に言うなれば、隼人の隣だった。


翔太のではなく。


本当に無意識のうちで、翔太以外は、舞本人ですら気付いていない。


翔太は何も言わずに微笑んだ。



「寒!」



舞は両腕をさすりながらぶるっと震える。



「しゃがむと余計寒いんだけど」


「じゃ、立ってれば良いじゃん。てか教室戻れば?」



舞は隣の隼人の肩を、拳で押すように殴りつけた。



「イテッ! てめぇ!」



隼人が反撃しようと舞の方に向き直ったが、目を丸くして動きを止める。

舞は床に尻餅をついていた。



「……何やってるわけ?」


「……別に」



翔太は隼人の向こうにいる舞を見て笑った。



「隼人殴った反動でこけちゃったんだよね」


「翔太君、余計なこと言わないでよ! 」



彼は構わずケラケラ笑った。


隼人は半ば呆れた視線を舞に投げ、舞は眉をひそめてその視線を受け止める。



「……何?」


「間抜け」


「うっさい、ばかやと!!」



舞は反動をつけて起き上がり、隼人を突き飛ばした。



「イッテェッ!!」



完全に他人事の翔太はまたケラケラ笑った。



「自業自得だな、「ばかやと」くん?」


「な、なにぃ!?」



翔太はしばらく笑っていたが、「トイレ!」と言って立ち上がった。


そして並んで座っている二人をじっと見た後、ニッと歯を見せ、スキップでも始めかねない雰囲気で廊下を走っていった。





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