朝
冷たい風に頬を赤く染め、少年が道を走っていく。
果てしなく晴れ渡る青い空、磨き上げたばかりのナイフのような空気、口から出てくる白い息。
待ちに待っていた季節。
彼はガチャガチャと派手な音を立てながら、木枯らしと同じく、転がるように校門をくぐり抜けていく。
そして校庭を横切り、玄関から入って下駄箱ですばやく靴を履き替え、ものすごい勢いで階段を駆け上がり、教室の扉を走り抜け、横にスライドするように自分の席に着地した。
彼は息を切らしながらも、満面の笑みで振り返った。
「五連勝!!!」
遅れて駆け込んでくる少年の呼吸も荒い。
「昨日は俺の勝ちだろ!?」
翔太はランドセルを下ろしながら笑った。
「いや、タッチの差で俺だった!」
「んだとぉ!?」
「あー、はいはい、うるさいよ、二人とも」
先に学校に来ていた舞が、読んでいた本から目を上げて笑った。
「しかしまぁ、こんな寒いのに元気だね」
「寒いかぁ?」
隼人が言った。
彼は当然のように半ズボンで、一応長袖ではいるもののまくりあげられており、あまり意味をなしていなかった。
翔太は上も下も一応は冬っぽい格好をしていたが、
「暑いくらいだよ?」と息を切らせている。
二人ともが汗をかいた顔を手で扇いでいたが、暖房の効いた教室の中では大して意味はなさそうである。
隼人がうんざりしたように言った。
「翔太、廊下で涼もうぜ」
「だな」
「あっきれた。季節感を大事にしてよ」
「時代は変わりつつあるんだよ!」
隼人がそう言って教室の外に駆け出した。
翔太も笑いながらそれに続く。
舞はそれを見送った後、「やれやれ」と首を振り、また本に視線を落とした。
しかし、目が文字の表面をなぞるだけで、全然頭に入ってこない。
彼女はしばらく靴で床を叩きながらそのページと向き合っていたが、ついには諦め、パタンと本を閉じると、立ち上がって廊下に出ていった。
翔太と隼人は壁に背中を預けて床に並んで座り、声を上げて笑っていた。
舞が「ちょっと!」と言いながら二人の前に仁王立ちすると、二人ともが目をぱちくりさせた。
「え?」
「床に座んないの! 汚いでしょ!」
「いや、でもさぁ」
隼人は掌で床をぺちぺち叩く。
「この冷たいのが気持ちいいんだよ。な、翔太」
「そうそう」
二人に動く気配がない。
「やれやれ」と思った舞は、二人の横にしゃがみこんだ。
いや、正確に言うなれば、隼人の隣だった。
翔太のではなく。
本当に無意識のうちで、翔太以外は、舞本人ですら気付いていない。
翔太は何も言わずに微笑んだ。
「寒!」
舞は両腕をさすりながらぶるっと震える。
「しゃがむと余計寒いんだけど」
「じゃ、立ってれば良いじゃん。てか教室戻れば?」
舞は隣の隼人の肩を、拳で押すように殴りつけた。
「イテッ! てめぇ!」
隼人が反撃しようと舞の方に向き直ったが、目を丸くして動きを止める。
舞は床に尻餅をついていた。
「……何やってるわけ?」
「……別に」
翔太は隼人の向こうにいる舞を見て笑った。
「隼人殴った反動でこけちゃったんだよね」
「翔太君、余計なこと言わないでよ! 」
彼は構わずケラケラ笑った。
隼人は半ば呆れた視線を舞に投げ、舞は眉をひそめてその視線を受け止める。
「……何?」
「間抜け」
「うっさい、ばかやと!!」
舞は反動をつけて起き上がり、隼人を突き飛ばした。
「イッテェッ!!」
完全に他人事の翔太はまたケラケラ笑った。
「自業自得だな、「ばかやと」くん?」
「な、なにぃ!?」
翔太はしばらく笑っていたが、「トイレ!」と言って立ち上がった。
そして並んで座っている二人をじっと見た後、ニッと歯を見せ、スキップでも始めかねない雰囲気で廊下を走っていった。