温かな家
鋭く、鋭く。
夕闇の中を刀のような風が吹き抜ける。
斬られた気がして身体中を叩いてみたくなるような冷たさである。
しかもそれは、止めどなく吹きすさび、枯れ葉を引きちぎり、木々を揺さぶり、家々の扉という扉を、窓という窓を、壁という壁を叩くだけ叩き、行き過ぎたかと思えばまたやってくる。
その風に取り囲まれ、ガタガタと震えている小さな家がある。
あらゆるものから切り離され、多くの田や畑の中でぽつんと孤立しいる様子は見るからに寒そうであった。
が、その家は芯から冷えきっているわけではない。
窓にはめられたガラスは曇り、家の中の黄色い明かりをぼんやりと通している。
その明かりを少女の影が幾度となく横切り、どこともなく温かな雰囲気が染み出していた。
と、その時。
鈴が鳴るような軽やかな音が鳴り始め、家の中に流れていた静寂が一時途絶える。
続けてぱたぱたという軽い足音が響き、少女の姿が部屋の隅へと向かった。
「はい、もしもし?」
「――お母さん!」
「うん、大丈夫。元気。お母さんは?」
「よかった。ごくさん? おじさんとこ」
「なんかね、なんかたくらんでるみたい。よくは分からないけど」
「まぁね。とにかく何か起こるような感じはあるよってこと」
「うん。――え、月?」
「見えないよ。綺麗なの?」
「そっかー……ストーブ? つけてるよ? 窓? え、なんでそんなこと分かるの?」
「せ、設定温度? 大丈夫だって。ちゃんと……低いし」
「えっと……寒いのが好きだからこそ、家の中はあっためておきたいなって……」
「……うん、はい。節約、エコね。はぁーい」
「うん、大丈夫。無理はしないから」
「大丈夫だって」
「アハハ、心配しすぎ! 自分で言ったのに」
「あぁ、そうそう、こっちの天気予報でも言ってたよ」
「――今夜初雪かも、って」






