七つの子
それからしばらくして華が笑顔を見せ、二人は他愛のないおしゃべりを始めた。
数少ない共通の思い出を話し、相手の知らない笑い話を口にしたのだ。
笑い声の中で時が早まり、二人が気づかない内に時計の針は進んでいった。
一際大きな笑い声の向こうから、かすかな音楽が聞こえてきた。
「……あ」
二人は驚いたような顔を見合わせ、時計を見上げた。
「もうそんな時間なんだ……」
「てかチャイム、四時半に変わったんだ?」
「あれ、昨日は五時だったよ、そういえば」
華は窓に近寄り、カーテンを開け放った。
外はまるで夜のような暗さで、華は少し驚いてしまう。
「わ、そういえば親に何も言ってない!」
「え、じゃあ早くしないと……」
と、その時、部屋の扉がノックされた。
「おーい。そろそろ帰らないと、親御さんが心配するよー」
二人の思考に横入りするような努の言葉にも過剰に反応することはなく、華は落ち着いた声を出した。
「分かってる。今から支度するから」
「よろしく」
努の気配が離れてから、華はため息をついた。
「なんでああやって、こっちがやる気でいることをわざわざ指示しにくるんだろうね?」
「アハハ、華でもそう思うんだ?」
「「戦争」が始まると気まずいから何も言わないけどね」
「「戦争」?」
「どちらかと言うと冷戦だけど。とにかく長引くんだよね」
「……ふーん?」
なんとなく想像がつく。
ぶつかろうとしない華が言葉を飲み込み、消化しきれないままただ黙りこんでいる姿が。
華にはそういうところがある。
瞳は自分の荷物を引き寄せながら謝った。
「……ごめんね、遅くまで」
「何言ってるの。楽しかったんだからノープロブレムだよ。あ、送ってくからね」
「え」
華は跳ねるように立ち上がり、瞳に手を差し伸べた。
「断ってもついていくから安心して」
「私に選択権はないの?」
瞳は苦笑いを浮かべたが、結局華のその手をつかみ、引っ張りつつ引っ張られつつ立ち上がった。
華も笑っている。
「あるよ。楽しく話しながら帰るか、私の強烈な視線を頭の後ろに感じながら夜道をびくびく歩くかのどっちか」
「怖いって!」
「知ってる。さ、帰ろ」
華はさっと向きを変え、もう歩き出してしまう。
瞳は勝ち目はないことを悟り、もう一度部屋を見回してから、彼女について歩き出した。
床のフローリングがヒヤリと冷たかった。
瞳は歩きながら、床に点々と残る温もりの足跡を想像した。