心の中
「ねぇ」
しばらくして華が問い掛けた。
「家はどこ? この辺なんでしょ?」
翔太は首を横に振った。
「東京。今は父さん母さんの友達の家に来てるだけ」
「……そう……」
華は内心肩を落としたが、それをなるべく表には出さないようにしていた。
「いつ帰るの?」
「明日」
また華は心の中を隠そうとしたが、今度の方が難しかった。
翔太は何気ない口調で尋ねる。
「華はこの辺に住んでるの?」
「今は」
「……今は?」
翔太の問いかけに、華は少しだけ諦めたような笑みを浮かべた。
「よく引越すんだ。お父さんの「再出発」のたびに」
「ふーん」
翔太は彼女の方に顔を向け、じっと見てから言った。
「もしかして、来たばっか?」
言い当たられた華は目を丸くした。
「え、なんで?」
翔太は華の服を指差す。
「だって、それ、全部新品っぽいんだもん」
華は自分の服を見下ろし、困ったような顔になる。
確かにその通りだったが、普通、ちょっと見ただけで気付けるものではない。
「……すごいね。よく見てる」
翔太は照れたように笑った。
「それに、俺がここに住んでないって言った時、なんかがっかりしてたでしょ?」
彼の無邪気な言葉に、華は少しだけ息が詰まった。
彼女はそれをとっさに隠そうとしたが、まったく上手くいかなかった。
彼女の息を呑む声が、静寂に響く。
翔太に振り返られた華は小さく咳払いをした。
それでも翔太は彼女をじっと見ている。
「……よく見てるね」
華はしぼり出すように呟いた後、たまった息を一気に吐き出した。
息は冷気に触れて一瞬白くなり、手に落ちた雪のように溶けていく。
翔太はしばらく彼女の横顔を見ていたが、それ以上、何も言わずに空に向き直った。