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Season  作者: 田中 遼
36/67

海を見ている少年






一方、隼人たちはようやく翔太の口を割ったところだった。


彼らは波止場に腰掛け、目を突き刺すような西日の中にいた。


ついに根を上げた翔太はその太陽を睨み付けている。


その要因の多くは舞のしつこさだが、決定打になったのは隼人の鋭さだ。


食い下がる舞を軽くいなす翔太に、隼人が一言だけ尋ねたのだ。



―――さっきの、「雪の精」だろ?―――



翔太の息が止まる。


ほんの一瞬。


それで隼人には十分だった。


確証を得た隼人は舞を何度もけしかけ、翔太を諦めさせた。



「ほー。やっぱりそうか」



翔太は頑なに太陽を見つめている。


隼人からのからかいをはね飛ばすようなつもりだったのだが、予想に反して隼人はニコリともしなかった。



「で、お前、何やってるわけ?」



「え」と、本気で驚いたらしい翔太は固まってしまう。


隼人の声には本気で糾弾するような響きがあった。



「ごちゃごちゃ悩んでねーで、さっさと会いに行けよ」



隼人の言い方はかなりなげやりだったが、それは彼が柄にもなく真剣だったせいだ。



「分かってんだろ? これは奇跡だ。偶然なんかじゃない」



今まで隼人がこんな言葉を発したことはなかった。


こんな口調で話したこともなかった。


舞は顔をしかめ、おかしなものを見るような目で隼人を覗き込んだ。



「隼人?」



隼人はそれを無視し、相変わらず柄ではない真剣さで翔太に訴えかける。



「翔太、これを逃しちゃいけない。会いに行け」



翔太はまだその驚きから覚めていない。


予想外の言葉が核心をつき、それを認めたくない自分がそこにいた。



「……んなこと言ったって」


「引率の先公にでも言えば許可してもらえるから」



「確かに」と翔太は思った。


それにしても、隼人はやけに必死だった。


気圧された翔太がのけぞりそうになってしまうほどに。


彼がちらりと見ると、舞もいぶかしげな顔をしている。


翔太は視線を隼人に戻し(彼は相変わらず妙に真剣な視線を翔太に向けている)、呟くように言った。



「でも、会ってどうするんだよ?」


「はぁ?」



会いに行く理由も、会ってからかわす言葉も、翔太には分からなかった。


会ってどうしようというのか。


何も出来ない。



「俺たちは子供過ぎるんだ」


「子供?」


「何かを積み上げていくにはさ」



翔太は自分たちの日常が一話完結の物語だと思っていた。


自分たちは過ぎた一日をたやすく忘れてしまうからだ。


一日ごとに物語は終わり、元いた位置に戻っていく。


そうやって同じ場所を回り続ける物語が、どこかに向かうことは決してないのだと。



しかし。



「それがいつまで続くと思ってるんだ?」



隼人は苛立ちを隠そうともせず、翔太を睨み付けている。


そう、このループはいつまでも続くわけではない。


いつか彼らをとどめている絆は断ち切れ、それぞれがそれぞれの方向に飛び出してゆく時が訪れる。



翔太にも分かっていただろう。



しかしどうしても分からなかった。




翔太は黙りこくり、色の変わった水面を見つめている。


海の匂い。

波の音。



彼は自分の思いがよく分からない。


考えてようとしても、心がどこかへさまよってしまうのだ。


どこか。


どこかに。



翔太はふと右手の砂浜の向こうの、防風林らしい木々に目をやった。


今額に触れた風よりずっと強い風が、木々を激しく揺さぶっている。


激しく揺らされながらも風に立ち向かっている曲がりくねった木に、翔太はただならぬ何かを感じたが、彼はその正体に気づかなかった。


風は強く吹き抜けてゆく。




彼が見つめている林の向こうにある建物に、隼人と舞は気づいた。




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