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Season  作者: 田中 遼
35/67

夕日の中の少女





瞳が華に近づこうとすると、順治は気後れしたらしく、なんやかんやと言い訳を呟き、仲間の方へ戻っていった。


瞳は顔をしかめてそれを見送り、その後唐突に大声を出した。



「白井さん!」



華ははたと振り向き、笑顔を作る(一度ボロが出たせいで、それが作り物であることがはっきり分かった)。



「何? どうしたの?」


「「翔太」くんってどんな人なの?」



華の笑顔が消えた。



「え」



瞳は目を見開き、たじたじと後ずさった。


華はそれを異常に鋭い目で見ながら、しんと辺りが静まるような(実際、声の届く範囲にいた多くが目を丸くして振り向いた)冷たい声を出した。



「誰に聞いたの? 黒岡くんが喋ったの?」



華は静かに怒っていた。


瞳の身体がさらに後ろに下がる。


「え、あの……」


「言って欲しくなかったのに」



切り捨てるように言った後、華はそのままふいっと顔を背けた。


静けさがその迫力を増していた。




華は自分の怒りに自分で戸惑っていた。


理由も分からず、しかも今までにないほど強烈だったからだ。


華の怒りは突如燃え上がり、一瞬にして彼女の頭の中を真っ白にした。


そして理由が分からない故に納めどころが分からない。


険しい表情も上手く隠せなかった。



華は既に後悔していたのだが、それを知らない瞳がしゅんと小さくなりつつ、くどくど謝り始めた。



「……ごめんなさい。白井さんの様子が変だったから、私が聞いちゃって……」


「そう」



華はその媚びるような謝り方にも苛立ちを覚えてしまい、たった一言でそれを遮った。


彼女は再び太陽を睨み付けている。


そのオレンジの光が、華の目の中で燃えているように見えた。



瞳は恐る恐る弁解を続ける。



「あの、でも、白井さんをからかおうとか、そういう意図じゃなくて、ただホントに心配で……」


「うん、分かってる。ごめん」



と言いつつ、華の表情はまだ固い。


それで瞳がもう少し言葉を探そうとすると、先回りするように華が口を開いた。



「ごめん。でも大丈夫。もう怒ってないから」



瞳は心配そうに、華の横顔をじっと見た。


彼女はまだ窓の外を見つめている。



「……そうは見えないけど」


「気持ちの整理が出来てないだけだから」



それはつまり、まだ怒っているということじゃないかな、と瞳は思った。


華はそれを横目で見て感じ取ってはいたものの、まだ笑顔は作れそうになく、どうしようもなかった。


彼女はしばらく迷っていたが、結局、感情のサインとして怒りの引き金となったその話題を自分から切り出すことにした。



「……翔太はね、大事な友達なんだ」



そう言うしかなかったとはいえ、それが限りなく真実に近い言葉だった。


瞳が想像しているのは別の、二人の現状を少し通り越した向こう側にある表現であることも知ってはいたが、華はそれを口にはしなかった。



瞳は言いにくそうに尋ねた。



「……会いたいんじゃないの?」



華は唇をきゅっと結ぶ。


太陽の色が少しずつ赤みを増してゆく。


痛いほどの眩しさだったが、華は目を背けなかった。



どんな言葉も浮かんで来ない。


どんな未来も想像出来ない。


分からなかった。



会いに行く方法なら幾らでも思い付く。


脱走するにしても、交渉するにしても、上手くやれる自信はある。


それでも、分からなかった。



気づくと怒りはもう消えていた。


変わって生まれた奇妙な痛みが、華の胸の奥に居座っている。






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