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Season  作者: 田中 遼
34/67

奇跡の後で





「……なんか変だよな」



隼人と舞は難しい顔でこそこそ話している。


五メートル以内に近づいている二人としては珍しく、「戦争」が勃発していない。


舞が心配そうに頷いた。



「うん、上の空だよね、なんとなく」



彼らの視線の先に、 拾ってきた長い棒切れを手の中でもてあそんでいる翔太がいた。


さっきから妙に口数が少なくなり、極端に笑顔が減った。

どうやら何か考えているらしい。



「……でも、ビックリしたね。知らない人に突然声かけるんだもん」


「クソ度胸だな。いきなり「ねぇ、そこの!」って……俺は無理」


「私も。相手もめっちゃ警戒してたし」


「あの男子、結構やる気満々だったしな」


「どうしたんだろ?」


「さぁ」


「というか、声かけてからあの子の顔が険しくなってたのはどういうことなの?」


「さぁ。なんか「知らない奴、警戒!」から「こいつは敵、警戒!」って変わってったような気もするな」


「分かる。何話してたか聞こえた?」


「いや。あんまり」


「なんだったんだろ?」


「翔太に聞く?」


「聞ける?」


「いや」


「ダメじゃん」



舞は顔を見合せてから、もう一度翔太の方を見た。



彼は深く考え込んでいる。






「ちょっと!」



順治は胸ぐらをいきなり掴みかかられ、そのまま壁に押し付けられた。



「うげ!?」


「あんた、一体何を言ったの!?」



瞳の剣幕が物凄く、順治は抵抗すら忘れてしまう。



「何って……そこであったことを話しただけだよ」


「そこであったこと?」



瞳の力が緩んだが、順治はやはりされるがままになっている。



「……さっき、知らない奴に声をかけられて、「華って子、いない?」って聞かれたんだ」


「はな?」


「白井のことだろ?」


「あ」



瞳は華の下の名前を忘れていた。


多分、記憶にとどめたことすらなかった。



「……今思えば、他の奴の可能性だってあったんだけど―――確か後二人ぐらいそう呼ばれかねない奴いたよな?――― そん時は「白井のことだ!」としか思わなかったんだ」


「……それも逆にすごいけど。それで?」


「別に。警戒心丸出しにしたら、「やっぱりそうか」って一人で納得して、俺に言付けを頼んできただけ」


「なんて?」


「「翔太が声をかけてきたって伝えて」」


「それだけ?」


「あぁ。「それだけで分かるはずだから」って」



確かにそれだけで十分だった。


華はその言付けを聞くと、顔全体に動揺を走らせた。

華の顔は喜びを感じ、驚きも感じ、後悔と迷いをどこかに秘めていた。


華は「翔太」の雰囲気を言い当て、声の感じを言い当て、話し方を言い当てた。

そしてそれだけでなく、ただ一度「すれ違ったかもしれない」というだけで、この日の「翔太」の服装も順治以上に正確に記憶していて、彼を驚かせた。



彼女は「翔太」の確証を得たその瞬間から、笑顔を作ることも忘れて猛烈な勢いで頭を回転させ始めた。


順治も瞳も、そんな華を見たことがなかった。


瞳はあの時振り返っていた男の子のことを思い出していた。

華がそちらを向く寸前に視線を戻してしまった男の子。



(……あれが白井さんの)



不思議と顔は思い出せない。

もう一人の子の方が格好よかったと思う。



(その程度ってことじゃん)



瞳は気にくわない。


「翔太」が彼女を「華」と呼び捨ていたことも、華の見たことのないような真剣さも、ありえそうにないこの「偶然」も。


「負けたくない」と思った。




彼女の視線の先に、突破口を探す追い詰められたヒーローみたいな目をした華がいる。


彼女は窓の外の斜めに傾いた太陽を、まるで敵のシンボルであるかのように睨み付けている。


華は負けないだろう。



彼女は決して諦めない。


決して。





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