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Season  作者: 田中 遼
32/67

その場所





朝起きてからずっと、瞳はひたすら悔しそうにしている。


華と瞳の二人は、施設内の別の建物で行われていた午前中の予定を終え、食事をとることになっていた建物へと移動していた。


何故か、そのだだっ広い施設を横断するような建物の配置に苛立っているせいもあり、瞳は夜の話題を再び持ち出した。



「……もう、すっかり寝ちゃったよ!」


「アハハ、私も」



瞳は華のその様子が気に入らないらしく、突っかかるような物言いになる。



「……白井さん、起きてる気あった?」



瞳はじろりと華を見た。



「随分早く寝てたけど?」


「一応頑張ったんだけどね」



華は笑顔のまま悪びれる様子は一切なく言った。



「おかげで今日も元気に起きれたけど」


「それはそうだけど」



瞳は納得していないようだった。


それが普通なのかもしれない。

イベント事で楽しいのは、たいてい枠の外にいるときだ。


瞳は鼻息荒く華を覗きこんだ。



「今日はちゃんと起きてようね!」


「う? うーん……」



その微妙な反応に瞳はすかさず噛みついた。



「ちょっと、白井さん!?」



華はぽりぽり頬を掻きながら苦笑している。



「どうかなぁ。私、夜は苦手だし」


「……昼間は加減出来ないし?」


「それも、だね」



華は明るく笑った。


実際、ここまでも華は手を抜かず、昨日以上にはつらつとしていた。



「何? 何なの?」



瞳はふくれてみせる。



「白井さん、夜のは乗り気じゃないし、私の「気遣い」からは逃げるし」


「……私はむしろ、本庄さんが何をそんなに頑張ってるのか教えて欲しいんだけど。黒岡くんに頼まれたとか?」


「まさか! 順治はそんな奴じゃないよ!」



瞳は何故か怒った。



瞳の「気遣い」とは、ありとあらゆるタイミングで華と順治を一緒にさせようと試みることだった。


華があまりに上手く身をかわすので、ほとんど全てが失敗に終わってはいたが。



「なら、なんで?」



華の声に少しだけ糾弾するような響きが混ざっていた。



「……好奇心」



瞳は親に叱られた子供のように首をすくめている。



「好奇心?」


「そう。恋する乙女になった白井さんを見てみたかったの。どんな感じなのかなって」



「それは私も知りたい」と華は思いつつ、口にはしなかった。



「……じゃあ、なんで黒岡くん?」


「ほら、やっぱさ」



瞳は急に目を輝かせた。



「白井さんのこと一番好きなのは順治じゃん? だからプッシュしてあげたくなるの!」


「……ちゃんと理由はあるわけだ」



華が呆れたように呟いた。


それを聞いて瞳は笑ってしまう。



「アハハ、やっぱり怒らせちゃったか」



華は上手く笑えず、強ばり気味の表情になる。



「……白井さんにしては珍しいよね、そーいうの」



瞳は目を細め、華の表情をじっとうかがっている。


確かに華がこうしてボロを出すのは珍しいことだった。

ほとんどないと言って良い。


華自身、自分を隠せていないことを自覚していた。


いつもなら、と華は思う。


いつもなら、にこにこ笑ったままで適当な冗談にして切り抜けられるのに。



「そんなに苦手? この類の話?」


「いや、別にそんなことないけど……」



華はごまかしの言葉を探し出す。



「……やっぱさ、まだ早いよ。私達には」



華は本当はそんなことは思っていない。


それでも、もっともらしくもっともらしい嘘をつく。



「好いた惚れたって言っても、私達まだ小学生だもん」



華も予想していたが、瞳はその言葉にまったく納得しなかった。

むしろあからさまに顔をしかめ、敵のスパイを見るような目で華をにらんだ。



「小学生って言ったって、私達は六年だし、十二歳だよ?」



もう大人だと言わんばかりだ。



華は空を見上げた。


目を貫き、頭を通りすぎてそのまま地面に突き刺さりそうな太陽の光。

その太陽に大きな大きな―――とは言え、空を埋め尽くすほどではない入道雲が、じわじわと迫ってゆく。

それは光と影の戦いに見えた。


華はその雲が怖かった。


圧倒されてしまったのだ。



多分、瞳の言葉は真実だ。


確かに華達は十二歳だった。



ただ、そのことを声高に主張することが自分達を子供の枠に押し込められてしまうのだと、華は気づいていた。




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