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Season  作者: 田中 遼
31/67

その時



隼人と舞は並んで荷物を抱えて歩いている。

翔太は二人の後ろで笑いをこらえながらついていっていた。


というのも 、さっきからずっと隼人と舞が言い争っていたからだ。

周り中で喚きたてる蝉にも負けないようなやかましさで。


車の中の不機嫌さは二人ともとっくに忘れているのに、また違う口実を見つけては二人で盛り上がっているのだ。


やけに熱い直射日光を浴びてイラついている、というより、 むしろ条件反射に近い。


そんな二人がおかしかった。



二人は車を降りたときのいざこざをネタに言い争っている。



「何も肘打ちすることないんじゃないの?」


「そんな昔のこと忘れた」



隼人が翔太の存在を思い出したように振り向いた。



「……翔太、お前、さっき舞とぶつかったろ? 頭蓋骨へこんでる様に見えるから後で 病院行こうか? 後であの石頭訴えて金もらおうぜ」


「あんたの頭見てもらった方がいいと思うけど? きっとなんか湧いてるから農薬でも入れてもらって来たら」


「「脳だけに」ってか? さぶいんだよ、この親父!」


「はぁ!? そんなつもりじゃなかったし!」


翔太はついにこらえきれなくなってクスクス笑ってしまった。


それで二人は同時に黙り、彼を向き直った。

翔太は悪びれず、ニッと歯を見せた。



「いやぁ、お二人さん、ホントに仲良いね!」


「ちょっと! 冗談じゃない!」



舞は親に言われた所に荷物を放り出した。


隼人は自分が持っていた段ボール箱をその横に置きながら、呆れたように彼女を見た。


「「仲良い」って言われただけでその拒絶反応? ひでぇな」



舞は目を細めて隼人を睨んだ。



「大体、それ以上の意味が込められてるから言ってんの! 」


「いや、でも、もうしょうがないでしょ」



翔太は笑いながら言う。



「「呪い」は結局解けなかったし、なんだかんだ二人とも一緒にいるしさ」


「麻地君!?」


「別に嫌じゃないんでしょ?」



翔太の言葉に二人は顔を見合わせる。


いや、睨み合うかのような目だった。


双方が「こんな奴!」という表情を作っている。

そう、作っていた。


翔太はまた笑ってしまい、首を振りながら車の方へ戻っていった。



「あ、待てよ!」


「二人で仲良くやってなよ。俺は遠慮しとくから」


「ちょっと、それどういう意味!?」


「しょーたぁ。舞を怒らせないほうが良いぞぉ」



舞に睨みつけられ、隼人はニヤニヤ笑いながら付け足す。



「……怖いから」


「隼人!!」



翔太もニヤつきながら、舞に言う。



「ホントだ」


「麻地君!?」



舞が本気で怒っているのを見て、男二人はさらに笑った。


それで舞は唇をかみ締める。


隼人が慌てて言う。



「冗談だって。舞、本気にすんな」


「別に本気にしてないし!」


「まーた意地張ってやがる」


「張ってない!」


「ハイハイ、ソーデスネ」


「張ってないってば!」


「別に誰も否定してないじゃん」


「してたでしょ! 口調が!」


「ハイ、スミマセン」


「隼人!!」



翔太はまた笑った。



「ホント、二人とも仲良いね! うらやましいぐらいにさ!」



舞に睨み付けられ、翔太は笑いをごまかすような咳払いをしながら足を速めた。


しかし、二人の姿が視界から消えた途端、彼の笑顔も吸い込まれるように消える。


翔太は二人に気付かれないように、そっと溜息をついた。



後半は本音だった。

うらやましかった。


向こうから同い年ぐらいの女の子が二人、歩いてくる。


翔太は急に華を思い出し、今更ながら「次の約束」がないことに気付いた。



春に顔を見合わせたときも、二人はずっと一緒にいただけだった。


何を話したのか今ではさっぱり思い出せない。


残っているのは華の笑顔と、それを思い出すたびに胸に走る痛みだけだ。



(もう会えないかもしれない)



翔太の喉の奥が冷たくなる。


そんな未来は想像したくなかった。



そして、その未来が一番ありえそうなことにも彼は気づいているのだ。




その時、突然に訪れた影に、翔太ははたと顔を上げる。


太陽がどでかい雲に遮られてしまっていた。



「もう!」



見ると、舞が口を尖らせて彼を見ていた。



「麻地君が変なところで笑うからだよ!」



すかさず隼人が口を挟む。



「何言ってんだ。日陰が出来てむしろラッキーじゃねぇか 」


「でも翳ったことには変わりないじゃん」


「このクソ暑い中日向にいたいわけ?」


「そういうことじゃなくて!」


「じゃあどういうことだよ?」


「気分の話!」


「じゃあ人に当たるなよ、このタコ」


「はぁ? 当たってないし!!」


「今まさに当たってるじゃねぇか!」


「あんたは「ヒト」以下じゃん!」


「おめぇは「サル」以下だけどな!!」



「あーうるさい!」



翔太がようやく遮った。


実に楽しそうに笑っている。



「二人だけで盛り上がるなよ!」



「俺だっているのに!」 と、続けようとした瞬間。


翔太ははっと目を見開いた。


目も眩むような強烈な光線とともに、今まさにすれ違いかけている少女の顔が目に飛び込んできたのだ。


一瞬思考が止まる。


少女の姿が視界の隅の方にすーっと流れていく。


驚きが全身を貫き、興奮が血管を駆け巡る。

しかし頭がそれに追いつかず、情報が合致しない。


あまりに唐突に訪れたその瞬間を彼は信じることが出来なかった。


彼女の姿が消えてすぐ、記憶が奔流のようになって蘇った。


間違いない、と思った。

しかし、信じられなかった。


彼の身体は歩き続けた。


振り向くことはおろか、立ち止まることすら出来なかった。


彼は歩き続ける。



馬鹿野郎、と自分に思った。


違ったかもしれない。

でも、違わなかったかもしれないじゃないか。



彼は歩き続けている。



翔太は突然立ち止まり、反射的とも見える早さで振り向いた。



彼はこっちを向いていた少女と目を合わせた。


ただ、それは彼の記憶にいる少女ではなかった。



「翔太?」



見ると、隼人が訝しげな顔をしていた。


翔太はもう一度目を上げ、遠くの少女を見やるが、もう視線は合わなかった。



「……なんでもない」



そうして歩き始めた翔太の後ろで、隼人が後ろを振り向いた。




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