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Season  作者: 田中 遼
29/67

目覚め


翔太は目を閉じたまま目覚めた。


まぶたの裏に見える光で現実に戻ったと分かった。



彼は頑なに目を閉じたまま頭に残った夢の断片を探し始める。

夢が尻切れトンボになった残念感で一杯だったのだ。


いや、もしかすると違うかもしれない、と彼は思った。


……妙に悲しい夢を見てただけ?


夢の中身を忘れてしまったのに、それが何か重要なことであるような気配だけが残っている。

それはつかもうとすればするほど遠ざかっていく記憶だった。


―――ダメだ、思い出せない。


諦めた翔太は目を開けた。


―――あれ?


予想と違い、部屋は薄暗い。

翔太は時計を確かめ、愕然とする。


―――四時!?


馬鹿な、と思った。


一体どうして……? あ。


翔太は部屋の隅に置かれた大きな荷物を見て、ようやく思い出した。


今日から隼人一家のキャンプに着いていくんだった。

多分、こうやって忘れかけてたことを考えると、行くのが面倒になっているんだろうな、と思い、翔太は笑ってしまいそうになる。



ふと翔太は自分の部屋の扉の向こうに人の気配を感じた。


誰かが忍び足でそこに近づいてくる。


そしてそっと、聞こえるかどうか分からないぐらいのノックの音。



「翔太、起きてる?」


母親の声だ。


「うん、大丈夫」


翔太は身を起こした。


「今一瞬、キャンプのこと忘れてたけど」


翔太の母は控えめな笑い声を上げた。


「思い出せたなら大丈夫じゃない?」


言いながら彼女は扉の前から離れていく。

多分、朝食の仕度に戻るのだろう。


「うん、多分」


翔太は口のなかで呟くと、大きくあくびをしてから着替え始めた。




居間では父もすでに起きてきていて、眠そうな顔で新聞を広げていた。


「おはよう」


「んー。早いね?」


「そりゃあ、息子の旅立ちを見送らないわけにはいかないでしょうに」


「んな大げさな」


と翔太は笑った。


「いやいや、莉沙さんはもっとひどいぞ、なんてったって……」

「賢!」


莉沙の一喝に賢はひょいと首をすくめた。



麻地家でキャンプに参加するのは翔太だけだ。

両親は「どうしても」仕事の都合がつかず、彼を送り出すことになった。


「ま、多分大丈夫だとは思うけど、ちゃんと手伝うんだぞ?」


「うん、分かってる」


「準備は?」


「出来てるよ」



翔太は口の端を少し笑いの形に歪めた。


昨日からおんなじことを言われ続けている。

よほど心配らしい。


「そんなに心配なら一緒に来れば良いのに」


「だからぁ、どうしても人に会わなきゃいけないんだって」


賢は心底残念そうに顔をしかめた。


「田舎から出てくるチャンスがここしかないとかなんとかで!」


「聞いた聞いた」


翔太は軽く笑う。


「なんて人だっけ?」


「津村石人」


賢は大げさなため息をついた。


「ったく、ホント遠慮のない奴でさぁ」


「勝手に了承しといて」


「いや、それが……」


「ほら、翔太、朝ごはん食べちゃいな。もう結構ギリギリでしょ?」


台所から莉沙の声が響いた。

翔太は時計を見上げ、少し驚いた顔になる。


「……ホントだ」


「何分集合?」


「15分後に隼人ん家」


「ヤバいじゃんか」


賢はゲラゲラ笑った。



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