就寝時間
何事にも真剣勝負をする華の影響か、子供たちは皆、あらゆる行事にそのエネルギーのありったけをつぎ込んだ(水泳、カヌー、もの作り教室、レクリエーションなどなど)。
結果、大騒ぎして入った風呂の後は皆が皆、揃いも揃って眠たそうに目を擦っていた。
「しまったぁ……」
華も例外ではなく、大きなあくびを両手で押さえている。
「先生たちの計画にはまっちゃったぁ……」
「……ちょっと、夜は寝かさないってふあぁああ……」
瞳もかなり重症である。
もう点呼も布団敷きも終わり、あとは先生の最後の見回りをやり過ごすだけだった。
ちょうどそこに隣のクラスの担任である女性教師が入ってくる。
「ほら、さっさと布団に入る!」
「えーっ!?」
と華たち四人の不満ありげな声が響いたが、全員がその教師になついていたため、別に反抗するわけでもなく素直に従う。
「よし、全員入ったね?」
「ふあぁーい」
彼女は人数を確認し、「さぁ!」という感じで部屋の明かりのスイッチに近づく。
「じゃあ、消すから……」
「―――先生!」
瞳が寝転がったまま手を上げていた。
目は開いていない。
「……どしたの?」
「先生、どうしよう……」
瞳の心配そうな声は真に迫っていた。
何故か華と教師とが顔を見合わせたその時。
「このままだと、寝ちゃうよ、私達!」
一瞬の沈黙の後、忍び笑いのような笑い声がそれぞれの頭の辺りから聞こえてくる。
華が見ると、先生も笑顔だった。
「それで良いんだよ、バカたれ」
「ぱしっ」と顔をはたかれた瞳が「あう」と呻いた。
明かりが消え、そっと先生が出ていく。
華がすうっと眠りに落ちそうになったその時。
「……白井さん」
囁き声とごそごそと動く気配。
華が直感的に意図に気付き、反射的に右手を伸ばした。
案の定瞳の手がそこにあり、その手が華の手をつかんだ。
華は妙な気分ではあったがその手を握り返した。
華の手を道しるべに、瞳の身体がずりっずりっと近づいてくる。
「……ごめんね、白井さん」
「えっ……?」
華は身を強張らせたが、瞳は華が伸ばしていた右手の手前で近づくのをやめた。
見ると、ほとんど闇に近いその場所で、潤んだように光っている瞳の目がやたらはっきり見えた。
彼女の目は真剣過ぎるほど真剣で、華の眠気は少しだけ後ろに下がった。
「……あのね、ホントに違うの」
今、瞳の話を聞かないわけにはいかない。
華にもそれは分かっていた。
しかし。
(……あ、まずい)
視界がぐわりと歪むほど眠かった。
瞳の声が近くなったり遠くなったりする。
「ホントに「好き」って訳じゃなくて……あ、でももちろん……自分でも良く分からなくて……」
(……だめだ)
フェードアウトするように意識が消えていきそうになったその時、瞳の言葉が華の耳にするりと入ってきた。
「白井さんはね、私の憧れなんだ」
(……え……?)
驚いた華の頑張りもむなしく、彼女はそのまま眠ってしまった。