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Season  作者: 田中 遼
27/67

就寝時間



何事にも真剣勝負をする華の影響か、子供たちは皆、あらゆる行事にそのエネルギーのありったけをつぎ込んだ(水泳、カヌー、もの作り教室、レクリエーションなどなど)。


結果、大騒ぎして入った風呂の後は皆が皆、揃いも揃って眠たそうに目を擦っていた。


「しまったぁ……」


華も例外ではなく、大きなあくびを両手で押さえている。


「先生たちの計画にはまっちゃったぁ……」


「……ちょっと、夜は寝かさないってふあぁああ……」


瞳もかなり重症である。



もう点呼も布団敷きも終わり、あとは先生の最後の見回りをやり過ごすだけだった。


ちょうどそこに隣のクラスの担任である女性教師が入ってくる。


「ほら、さっさと布団に入る!」


「えーっ!?」


と華たち四人の不満ありげな声が響いたが、全員がその教師になついていたため、別に反抗するわけでもなく素直に従う。


「よし、全員入ったね?」


「ふあぁーい」


彼女は人数を確認し、「さぁ!」という感じで部屋の明かりのスイッチに近づく。


「じゃあ、消すから……」


「―――先生!」


瞳が寝転がったまま手を上げていた。

目は開いていない。


「……どしたの?」


「先生、どうしよう……」


瞳の心配そうな声は真に迫っていた。

何故か華と教師とが顔を見合わせたその時。


「このままだと、寝ちゃうよ、私達!」


一瞬の沈黙の後、忍び笑いのような笑い声がそれぞれの頭の辺りから聞こえてくる。


華が見ると、先生も笑顔だった。


「それで良いんだよ、バカたれ」


「ぱしっ」と顔をはたかれた瞳が「あう」と呻いた。


明かりが消え、そっと先生が出ていく。

華がすうっと眠りに落ちそうになったその時。


「……白井さん」


囁き声とごそごそと動く気配。

華が直感的に意図に気付き、反射的に右手を伸ばした。

案の定瞳の手がそこにあり、その手が華の手をつかんだ。


華は妙な気分ではあったがその手を握り返した。

華の手を道しるべに、瞳の身体がずりっずりっと近づいてくる。


「……ごめんね、白井さん」


「えっ……?」


華は身を強張らせたが、瞳は華が伸ばしていた右手の手前で近づくのをやめた。

見ると、ほとんど闇に近いその場所で、潤んだように光っている瞳の目がやたらはっきり見えた。

彼女の目は真剣過ぎるほど真剣で、華の眠気は少しだけ後ろに下がった。


「……あのね、ホントに違うの」


今、瞳の話を聞かないわけにはいかない。

華にもそれは分かっていた。


しかし。


(……あ、まずい)


視界がぐわりと歪むほど眠かった。

瞳の声が近くなったり遠くなったりする。


「ホントに「好き」って訳じゃなくて……あ、でももちろん……自分でも良く分からなくて……」


(……だめだ)


フェードアウトするように意識が消えていきそうになったその時、瞳の言葉が華の耳にするりと入ってきた。


「白井さんはね、私の憧れなんだ」


(……え……?)



驚いた華の頑張りもむなしく、彼女はそのまま眠ってしまった。






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