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Season  作者: 田中 遼
25/67

真剣勝負


「だー!! 畜生!!」


順治は華の座っている木陰に転がり込むように入ってくると、その隣にどかっと腰を下ろし、仰向けに倒れこんだ。


「途中までは勝ってたのに!」


「甘いよ」


華は汗だくではあったが、余裕のある笑みを浮かべて順治を見下ろした。


「知らなかった? 自転車レースでは一番前が一番風を受けて、一番プレッシャーもあって、一番きついんだよ」


「マジですか!?」


順治は荒い息をしながら目を覆った。


「じゃあ、ずーっと後ろにいたのは作戦!?」


「うん、まぁ、そういうこと」


「ひでぇ!!」


華はケラケラ笑った。

荒い呼吸の中、順治は指の間からその姿をそっと窺う。


直視出来ないのに目が逸らせない。


彼は彼女の第一印象を思い出す。



人ではないと思った。

もちろん、悪い意味ではない。


背骨に沿って電気が走り、誰かの手に心臓を捕まれたような気がした。


衝撃だ。


皆の前でかなり慣れた様子で自己紹介をするところも、笑顔の隅にどうすることも出来ない緊張が残っているところも、黒板に書かれたやたら整った字も、おじきをした時にさらりと流れた髪も、名前も、髪型も、姿勢も、服も、目も、鼻も、口も、声も。

全部が 全 部 だ っ た。



華が笑顔で彼に答える。


「勝つためだよ。勝つために最善の努力をしただけ」


順治は咳き込み、自分の想いを隠した気になる。


「そんなマジな勝負だったっけ!?」


「この世に真剣じゃない勝負なんて存在しないの!」


と華は楽しげに言った。


これは彼女の母、紅葉の言葉だ。

「教え」とも言える。

本来紅葉であれば「恋もね」と片目をつぶるところなのだが、華はそこまでは続けなかった。


「何だよそれ!?」


順治は無邪気に笑う。


「それじゃあ何でも強いはず! 真剣度が違うじゃん!!」


「そうだよ?」


華はさらりと肩をすくめてみせる。


「私は真剣なだけ」


その時、華の口が「あ」と開く。

順治がその視線を追うと、ちょうど瞳がゴール地点に着いたところだった。


「行かなきゃ」


華は立ち上がった。

別に諦めているわけでも、残念な様子もない。

が、何か不自然だった。


「……そういえば、お前らいつも一緒だな?」


「そだね」


すでに光の中に出た華の顔は順治にはもう見えない。


「……そのうち変な噂立つぞ」


「二人はレズだって?」


言った後華はまた明るい笑い声を上げた。


「気をつけなきゃね」


順治の耳にその声が妙に意味深な響きに聞こえたが、真意を確かめる前に華は駆け出してしまっていた。





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