バス
日差しが恐ろしいまでの威力を発揮し、道路や家を焼き尽くさんばかりに照り付けている。
暴力的と言っても過言ではないだろう。
そんな中、一台のバスが高速道路を疾走している。
乗っているのは、はしゃぎたい盛りの小学六年生三十三人だ。
彼らは夏休み中の臨海学校に向かう最中だった。
言うまでもなく、「ほぼ」全員が興奮状態にある。
「ほぼ」。
歓声や無駄に大きな喋り声、それに笑い声が飛び交う車内で、一人だけ冷めた表情で窓の外を見つめている少女がいた。
女子の中で唯一、隣に誰もいないのだが、彼女が冷めているのはそういう理由ではなかった。
「白井!」
後ろから男子が怒鳴るように話しかけてきた。
華は気のない表情でそっちを向く。クラスメートの黒岡順治だった。
「なんだよ、その顔!」
「……どうしたの?」
「別に。つまんなそうだから話しかけただけ」
彼はニィッと笑った。
「退屈だろ? トランプでもやんねぇか?」
華はチラッと後ろをうかがった。
日ごろから仲良くしてくれている女子たちもそのメンバーの中にいるようだ。
何度か転校している経験上、これは断ってはならない誘いだと思った華はそっと微笑んだ。
「ありがと。もう少しで寝ちゃうとこだった」
「良いって。ほら、こっち来いよ」
順治はごく自然な感じで(と本人は思って)華を自分の横の補助席に座らせた。
涼しい顔をしていたが、なんとなく挙動がおかしい。
周りの仲間はそれを見てニヤリと笑った。
華は配られているトランプを受け取りながら、さっきまで頭にあった考え事を再開した。
(別に楽しくないわけじゃないんだけど……)
もしかしたら今この瞬間に何かが起こっているかもしれない。
そう思うと、落ち着いていられなかった。
「次」があるかどうかも分からないのに。
しかし、「だからこそ」とも言える。
「白井さん……白井さん!」
華ははっと顔を上げた。
女子の中で一番良く喋る、本庄 瞳が覗き込んできていた。
華と一番仲がいいのもこの娘だ。
「大丈夫? 配り終わったよ」
華は慌てて自分の手札をとった。
「あ、ゴメン……。なんだっけ?」
「そこから!? 大富豪だよ!」
華が手札を整える間もなく、ゲームが始まった。
その一瞬だけ、華は翔太のことを忘れた。
「―――白井、強すぎだろ!」
順治が舌を巻いた。
ゲームを始めてから八回連続で華がトップだったからだ。
しかも圧倒的勝負強さで。
「……ありがと」
華はまた少し微笑み、ちらりと時計に目をやった。
「もう止めたほうが良くない? そろそろ時間でしょ?」
「え、もう!? 白井さんの全勝じゃん!」
華は穏やかに微笑んだ。
「……後でまたやろ。多分出来るだろうから」
ちょうどその時、一番前に座っていた担任の教師が後ろを 振り返った。
「そろそろ着くぞ。降りる準備しとけぇ」
クラスメートたちが素直な返事をする中、華はまた窓の外 を見て、誰も気付かないほど小さく、溜息をついた。