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Season  作者: 田中 遼
21/67

バス

日差しが恐ろしいまでの威力を発揮し、道路や家を焼き尽くさんばかりに照り付けている。

暴力的と言っても過言ではないだろう。


そんな中、一台のバスが高速道路を疾走している。

乗っているのは、はしゃぎたい盛りの小学六年生三十三人だ。

彼らは夏休み中の臨海学校に向かう最中だった。

言うまでもなく、「ほぼ」全員が興奮状態にある。



「ほぼ」。



歓声や無駄に大きな喋り声、それに笑い声が飛び交う車内で、一人だけ冷めた表情で窓の外を見つめている少女がいた。

女子の中で唯一、隣に誰もいないのだが、彼女が冷めているのはそういう理由ではなかった。


「白井!」


後ろから男子が怒鳴るように話しかけてきた。

華は気のない表情でそっちを向く。クラスメートの黒岡順治だった。


「なんだよ、その顔!」


「……どうしたの?」


「別に。つまんなそうだから話しかけただけ」


彼はニィッと笑った。


「退屈だろ? トランプでもやんねぇか?」


華はチラッと後ろをうかがった。

日ごろから仲良くしてくれている女子たちもそのメンバーの中にいるようだ。

何度か転校している経験上、これは断ってはならない誘いだと思った華はそっと微笑んだ。


「ありがと。もう少しで寝ちゃうとこだった」

「良いって。ほら、こっち来いよ」



順治はごく自然な感じで(と本人は思って)華を自分の横の補助席に座らせた。

涼しい顔をしていたが、なんとなく挙動がおかしい。

周りの仲間はそれを見てニヤリと笑った。




華は配られているトランプを受け取りながら、さっきまで頭にあった考え事を再開した。


(別に楽しくないわけじゃないんだけど……)


もしかしたら今この瞬間に何かが起こっているかもしれない。

そう思うと、落ち着いていられなかった。

「次」があるかどうかも分からないのに。


しかし、「だからこそ」とも言える。



「白井さん……白井さん!」



華ははっと顔を上げた。


女子の中で一番良く喋る、本庄 瞳が覗き込んできていた。

華と一番仲がいいのもこの娘だ。



「大丈夫? 配り終わったよ」


華は慌てて自分の手札をとった。


「あ、ゴメン……。なんだっけ?」


「そこから!? 大富豪だよ!」



華が手札を整える間もなく、ゲームが始まった。


その一瞬だけ、華は翔太のことを忘れた。




「―――白井、強すぎだろ!」


順治が舌を巻いた。


ゲームを始めてから八回連続で華がトップだったからだ。

しかも圧倒的勝負強さで。


「……ありがと」


華はまた少し微笑み、ちらりと時計に目をやった。


「もう止めたほうが良くない? そろそろ時間でしょ?」


「え、もう!? 白井さんの全勝じゃん!」


華は穏やかに微笑んだ。


「……後でまたやろ。多分出来るだろうから」


ちょうどその時、一番前に座っていた担任の教師が後ろを 振り返った。


「そろそろ着くぞ。降りる準備しとけぇ」


クラスメートたちが素直な返事をする中、華はまた窓の外 を見て、誰も気付かないほど小さく、溜息をついた。






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