突風
「どう思う?」
舞が唐突に尋ね、隼人はキョトンとして彼女を見た。
舞は大真面目に続ける。
「可能性はあるのかどうか」
隼人は黙って対岸を見やった。
苦い。
唾が口の中で鬱陶しかった。
「……知らないよ。翔太に聞けば?」
「冗談でしょ」
舞は鼻で笑った。
「それが出来ないから聞いてるんじゃん」
隼人は真顔で舞の目を見た。
舞は思わずたじろぐ。
慣れている顔ではない隼人は、全く知らない人より遠かった。
隼人はフンと鼻を鳴らし、前を向いた。
「「可能性なんかない」つっても、「どんどん行け」つっても信じないくせに」
「……そんなことないけどさ」
とは言いつつ、舞は自分でもその嘘に気付いていた。
隼人はまだ表情を崩さない。
舞は遠い遠い、透明の膜の向こう側にあるような、その横顔をじっと見つめている。
「隼人……?」
その時。
二人を背中から突き飛ばすような風が吹いた。
風は土手を駆け下り、川面を揺るがし、桜の花びらを舞い上げて通り過ぎた。
いや、通り続けた。
二人ともが咄嗟に振り向き、風に向かって立ち上がった。
風は二人の額をなで、髪をくしゃくしゃに巻き上げて去っていく。
その最後の一瞬。
隼人は目の隅を掠めた何かに、反射的に手を動かし、それを掴み取った。