違う横顔
ほんの二、三分後、隼人の予想通り舞はけろっとしたようすで隼人に話しかけた。
「掴めた?」
「まだ」
隼人は珍しく真剣な表情で待ち続けていて、舞はそれを見て笑ってしまう。
「何笑ってんだよ!」
隼人は怒ったように言ったが、彼女に目も向けなかった。
舞は笑いながら言った。
「場所が悪いんじゃない? もっとたくさん降ってくるとこの方が確率は上がるよ」
「け、別にいいんだよ。ただの暇つぶしなんだから」
「そうじゃなくてさぁ」
舞はむっと唇を尖らせた。
「私がもっといい桜見たいの。どっかないの?」
彼女の言う通り、二人のいる場所は花見には向かなかった。
桜が住宅地に一本ぽつんと立っているだけで、何か下手なドラマの小道具みたいな鬱陶しさがあった。
隼人はしばらく黙って考え込むような間を取ったが、別に桜のスポットを探していたわけではない。
彼はさらりと言ってのけた。
「別に桜が手の中に入ってきても、翔太がそっちに向くわけじゃないぜ」
舞は一瞬言葉に詰まった。
こっちを見ようともしないで黙っている隼人の顔が全く違う様に見えた。
「……どういう意味?」
「さぁね」
隼人は肩をすくめ、クルリと舞の方に向き直った。
その顔を見て、舞は思わずたじろいでしまうほどに驚いた。
彼の顔にいつもの子供らしい(舞はよく「ガキっぽい」と揶揄していた)、顔のすべてのパーツを綻ばしているかのような笑顔があったからだ。
今の横顔は見間違いだったのか。
隼人は気付かなかったらしく、そのままの笑顔で言った。
「河原行こうぜ。桜といえばあそこだろ」