桜待人
しばらくして舞は、「疲れた!」と言って突然に桜の幹に寄りかかるようにして座り込んだ。
額や頬にうっすらと汗をかいていて、息も多少弾んでいるが、実際は「疲れた」というより飽きたのだ。
そもそも舞に付き合っていただけの隼人は「やれやれ」というように笑い、斜め上に手を差し伸べた。
それはさっきの舞とまったく同じ姿勢で、彼女は思わず「真似すんな!」と言いかけたが、どうやらそういうふざけた雰囲気でもない。
彼はひどく真面目な顔で桜を待っていた。
「……何してるの?」
「見て分かんない?」
隼人がニカッと歯を見せた。
舞はムッとしたように言った。
「分かるけど、それ以上の意味があるかもって思っただけ」
「はぁ?」と隼人が首をかしげる。
「それ以上の意味? なんだそれ?」
舞には答えられない。
何でもはっきり言葉にしなければ分かってくれない隼人が、このときばかりは苛立たしかった。
「舞?」
隼人に覗き込まれ、舞はぷいっと顔を背けた。
「はぁ?」
訳が分からない。
が、さすがは幼馴染といったところで、隼人はそれ以上追及せず、視線を桜に戻した。
大抵意味もないのだ。
それにまともに反応してもさらに面倒なことになるだけだし、どうせすぐにころっと機嫌を直すだろう。