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Season  作者: 田中 遼
12/67

花びら



「で?」



二人はずっと睨み合っていたのだが、隼人が均衡を破った。


すっと背筋を伸ばし、自分より少しだけ背の高い舞を見下げようと、ふんぞり返って言った。



「愛しの翔太がいないから一人でたそがれてた訳だ」


「な!」



舞は痛いところを突かれ、一瞬息が詰まる。


隼人はさらにその弱みを突いた。


「翔太が何しに行ったか知ってる?」


「知ってるよ!」


舞は苛立ちをそのまま口調に出した。


隼人は「ヘ!」と笑って見せ、舞にさらに睨みつけられる。


彼は楽しそうに笑いながら、彼女の大声に備えて耳に指を突っ込み、横を向いた。



しかし、舞の大声が聞こえてこない。



「……あれ?」



舞は隼人を睨みつけたまま、唇を噛み締めて身を硬くしている。


キョトンとして顔を上げた隼人は、舞の顔を見て「ゲ!」と慌てた。


「な、泣くなよ! そんなことで!」


「泣いてない!」



舞はぷいっと上を向いた。


隼人は慎重な表情でその顔を窺う。


「泣かれると面倒なことになる」ということが身に染みて分かっている隼人は、何も言わずに舞が落ち着くのを待っていた。



舞はこれ以上ないほど暗い表情で呟くように言った。


「女の子に会いに行ったんでしょ?」


「翔太?……そうだよ」



彼女は溜め息をついた。


そう、知っていた。


隼人が翔太をからかっているのを何度も聞いた。



何処か遠いところで翔太の出会った「雪の精」のことを。




隼人の目にいたわりの表情が浮かぶ。


彼を横目で見てそれに気付いた舞は、幾分の恥ずかしさと、幾分の防衛本能から、それを誤魔化そうとした。


そして、目の前を横切った桜の花びらを掴もうとしたのをきっかけに、落ちてくる桜の花びらを空中で掴もうと、必死で手を振り回しはじめた。


最初隼人は馬鹿にしてるように見ていたが、急にやる気になったらしく、ぱっと立ち上がると一緒になって騒ぎ出した。



「下っ手糞!」


「どっちが!?」




二人して、かなり長いことはしゃぎまわっていたにも関わらず、二人の手に収まってくれる花びらは、ごくわずかだった。





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