表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Season  作者: 田中 遼
11/67

幼馴染


風が吹き抜けた。


たくさんの花びらが枝から手を離し、ヒラヒラと舞い始める。


その中の一枚は「運良く」、冷たく湿った地面ではなく、温かで柔らかい少女の掌に行き着いた。


少女はその一枚を手でそっと包み込んだ。



少女は先ほどからずっと、右手を差し伸べたまま待っていた。


団地の真ん中の桜の木の下で、舞い散る桜をじっと見ながら、ただひたすらに待っていた。


ある意味「おまじない」というか、「願掛け」に近いものがあったのだ。


「待つだけで花びらを掴むことが出来たなら」。


とはいえ、それっぽっちのことで悩みが晴れるわけでもない。


少女は一瞬嬉しそうな顔をしたのだが、あっという間にそれは消え、元の深刻そうな顔に戻ってしまう。


彼女は大げさなほど大きな溜息をつき、ふてくされたように一人で呟いた。


「麻地君、もう出かけちゃったかなぁ……」



その耳元で声がした。


「翔太がどうしたって!?」


「うわぁ!!!」


少女の声が辺りに響き渡った。


この少女、黙っていればおとなしそうで「おしとやかなお嬢様」といった感じであるのだが、とにかく声が大きい。


その上、様々なこと(急な音、向かってくるボール、虫、「お化け」などなど)に若干過剰に反応するところがあり、この時もそうだった。


声をかけた少年は鼓膜をやられ、耳を押さえて少女を睨みつけた。


「いきなりそんなでかい声出してんじゃねぇよ!!」


少年は黒い顔(日焼けなんだか、汚れなんだか、判別するのが難しい。恐らくは両方だと思われる)、半袖半ズボン(春になったとはいえまだ肌寒い。普通の感覚で言えば)と、どこから見てもやんちゃな元気少年だった。


しかし、少女も負けていない。


彼女は大声でやり返した。



「じゃあいきなり後ろから声かけんな!」



彼らは、今にも取っ組み合いを始めそうな勢いでお互いを睨みつけている。


しかしこの程度のこと「いつものこと」であり、二人ともなれたものだ。



誰か同じ学年の(いや、もしかすると、同じ「学校の」)子どもが、誰か見ていたところで呆れ半分に笑うだけだっただろう。




彼らは所謂「幼馴染」というやつで、親同士の付き合いもあり、幼稚園から小学五年生の今まで、ひたすら(ありとあらゆるところで「呪い」と話題になるほどに)一緒だった。


少年の名前は風間隼人、少女は桜田 舞。



新六年生になる今春、二人ともが「最後のチャンス」と言って、最後のクラス替えにかけていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ