分裂
「で、あなたたちが誘拐犯じゃないという証拠は」
あれからあなたたちは夢へと状況を説明した。
頼むから話を聞いてくれ。
そう土下座する勢いで頼み込めば傍らの男が折れてくれた。
夢もこちらの低姿勢を見て話を聞こうと考えたようだ。
そして出した結論がこれ。
どこまでも冷たい声音。
シベリアの永久凍土でもここまで刺すように冷たくは無いだろう。
見るからに情緒不安定な声色で理性を押さえるつもりもなく、こちらに論理的な要求を求めてくる。
ゴクリ。
トトがゆっくりとつばを飲み込んだ。
もしも、不用意な発言をしようものならば白昼堂々でも血の雨が降りかねない。
そんな危うさが夢にはあった。
あなたは机の真ん中にジャガイモのスナック菓子を置いた。
説明が面倒になったのでトトに丸投げし、自分はコンビニに買い出しに行ったのだ。
信頼関係を築くには同じ釜の飯を食うのが一番だ、という古い教訓を思い出しての行動だった。
夢の連れ、土御門武蔵とトトあなたの三人は気を使ってかお菓子を口に運ぶのだが、夢だけが目を向けようともしなかった。
「で、証拠は」
機会のように無機質な再度の問い。
処刑日程を告げたゆうな悪寒が駆ける。
「ならばこっちからも要求だ。
あなた方が桃子さんだったけ、その誘拐の犯人ではない証拠は」
「ふざけているのかお前!!」
ハイライトの消えた目で夢はあなたの胸をつかみかかった。
「無いだろう。俺たちは警察官じゃないんだ。
証拠を見せろと言われてンっ得できる証拠はない。
君だって、さらっていないと、この場で証明するのは無理だろ。
どんなに言葉を尽くしても水掛け論にしかならない」
「俺もそうだと思う。
納得したいというのはわかるが、今それをやるのは無理だぞ。
そうだな、ならこっちもいくつか妥協しよう。
そっちの片一方でいい。住所を教えてくれ。
もしも犯人だとして、俺らの中の誰かが襲われてもこっちが一方的に襲えるしな」
と言いつつ、彼も自分の住所を記入していく。
「これで、お互いの弱みは握ったぜ。片方が黒幕、もしくは裏切っても反撃が可能だと思われる。
夢、これなら話を進めてもいいよな。
どうしてこんなメモを残したんだ」
と言って、彼は蝙蝠の翼が書かれたメモを置く。
ここで聞かれている何故は動機についてだろう。
「いないとは思うけど、黒幕がいるのかどうかを疑っていたんだ。
黒幕ならメモを見て反応すると思ったんだ」
―――だけど、君の話を聞いて分からなくなってきた。
とは言わない。暴走しかねない人材と、疑っている人材がいるからだ。
とはいえ、何も話さないわけにはいかないので昨日襲われた直後に撮った写真を二人に見せる。
「暗いこと以外はおかしなところは無いですね」
そこはいつもどうりの光景が広がっていた。
毎日使っている人もいる、機能性のみを追い求めた場所。
だからこそ、今はよりいっそうに不気味に思えた。
この明らかに無害そうな場所であんな悲劇が起こったというのは、どんな場所であろうとも悲劇が発生するという証明なのだから。
「昨日丹念に調べたけど変わった所はなかったわよ」
「それはあんたらの捜査だろ。
俺はこういったことには詳しいんだ。
実家は有名な神社だぞ」
「で、本物の心霊現象に出くわした回数は」
「今回が初体験だ」
ジト目で言ったトトは実にさえている。
無意味だろと、声にこそ出さないが皆が思った。
「後、変わったことと言えば、……嘘くさいと思われるだろうから説明するのはいやなんだが。
というか自分でも後付の妄想でしかないと思うんだが、今回の事件を夢で見たんだ」
「成る程な、だったら次の宝くじのあたりを教えろ」
「お前はどこの守銭奴だ」
こういった風に証明が出来ないので説明するのが嫌だったんだ。
しかし話すと決めた。
もし黒幕が居たら自分と同じような力を持った人物を襲っているのではと思ったのだ。
これまで、同じ大学の生徒という共通があったが、もしかすると連続失踪事件が絡んでいるのかもしれない。
だとしたら犯人は本当に無差別に襲っていることになる。
しかし狙いがあるならば次のトトの襲撃はあなたとなり、保険を残していればかなり楽になる。
「現代のノストラダムスね」
「ああ、あの世界滅亡の予言が空振りして信用度がガタ落ちした」
何気ない言葉にトトは気分を害したようだ。
「嫌でもあの人ほとんどの予言は的中させてるし」
「予言なんてものはどんなことにでもあてはまりそうなことを書くんだ。
で当たったらすごい、間違っていたら理由をこね繰り返して実は正解だった敵な流れに変化させる」
「夢がないわね。
というか、あなたが予知なんてしたって痛いことを意から検討しだしたのに、どうして予言はインチキ扱いしだすのよ」
「そ、それはあれだよ。見てしまったものは性がないだろ」
「まことに~」
―――こいつうざい。
いつの間にかしどろもどろ対応する側が変化していた。
―――しかし、目立った変化はないな。
こうして見つめ合う機会を活用してトトの反応をうかがうが好きな偉人をコケおどされたことを怒っているように見える。
つまり、後ろ暗いところは一切見えないのだ。
「すまない、俺は予知能力って嫌いなんだ。
だから熱くなった」
「そうか?
俺だったら大喜びだぞ」
もしもあったのなら武蔵は宝くじのナンバーを調べたり、思わせぶりな態度をとったり、多くの人に未来の情報を伝えたりするだろう。
と、超能力に関してはあまりに胡散臭いので流すことにした。
「さてと、どう捜査するかなんだけど。
野生の悪魔が何らかの理由でここにやってきて、食事のために人を殺しまわっていると謎の魔術師が儀式の遂行のために悪魔を使役して生贄を集めているのどっちがいい」
「まるでゲームの選択肢みたいね」
「まあね、実際参考にしてたし」
「おい!!」
夢があなたに掴み掛ってきた。
彼女の状況を思えば責める気にはならない。
「言っておくけど、僕はこれが捜査の上で最も有力な仮説だと思っている。
現実に悪魔が現れたなんてゲームの世界の出来事だ。
だったら実際の事件かゲームの事件どちらかを参考にするのか選べとなるとね」
夢の劇場を柳のように受け流し落ち着いた調子で返した。
「まあ、これは性がないぜ。
正直、ゲームを参考にしたっていうのは胡散臭いが他に倣うもんがないんだから」
「それにだ、たとえこれが間違っていても俺はいいと思っている。
その時はこの仮説が間違っていたと証明できる。
それだけでも大きな前進だ」
普段の10日分くらい話したので、少し喉が痛くなりあなたは水を少量含んだ。
「一つ聞きたいんですが、犯人探しはしないんですか」
「9割犯人は野生動物だと思っている」
行って、あなたは後悔する。
もしそうなら、被害者は確実に死んでいるからだ。
「それにだ。仮に黒幕がいたとしても今調べられるのは悪魔の動きくらいだろ。
未だに尻尾すらつかめていないいるあどうか分からない黒幕の調査と、確実に存在する悪魔から調査。
どっちから開始するのがいいと思う」
「悪魔ですね。人の命がかかっていなければ」
明確な不協和音がテーブルの上に鳴り響いた。
……。
海のように深く重い沈黙が落ちてくる。
皆が、確固たる意志を持った夢以外がこれからどうするかを考え込んでいる。
落ち着くための周囲の様子を見て、あなたは一つの決断をする。
「人数も多いことだしそれぞれで調査しよう。
俺たちは悪魔を、こっちは行方不明者が何処に行ったのかを」
「それが最善だと俺も思う」
「ええ」
「構いません」
ぎくしゃくとした潤滑油が差されていない歯車はいずれ崩れ落ちるのが確定的な未来である。
ならば、分割してしまえばいい。
消去法だが、ベターな判断だと皆が胸を降ろす。
「連絡先とかは……」
「形態でいいだろう。ただし連絡先は偽名にしろ。
というよりも万が一を考えればその偽名を本名と考えたほうがいいだろう」
身内に怪しい人物がいると分かった時点で、その人物をどうにかしなければ調査というのは進まない。
排除か、それとも信じるか。
―――万が一トトが裏切った場合に備えて土御門と夢には別行動をお願いしないとな。