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奴隷の悪あがき

「私って昔から鏡ってものが好きではなくてね。

 いや、確かに鏡ってものは便利だし。いつも持ち歩いているのよ。

 でもね、何でもかんでも。いいことも悪いことも映し出すものだからどうしてもじっと見つめることが出来ないのよ」

「そう言いつつ、桃子は私よりもお化粧に時間をかけていますね。

 しかも、お化粧の腕は私よりも上」


「なんといっても元が違うしね」


 ニッコリと笑いながら、彼女の両の掌は自分よりも二回りほど小さい柔らかいお椀状の物体に伸びた。


「な、何しやりますか!!」


 夢は面白いほどに顔を硬直させ、桃子をポカポカ殴る。


「ごめんなさい、私はただ夢さんの成長具合を確かめたっかたのよ。

 決してやましい気持ちは無かったのよ」


 ほら私の瞳をご覧と清く澄んだ視線を夢にさらす。


「これがやましい気持ち、邪念を持った人間の目に見える」


「見えます」


 言葉を尽くして説得したものの一刀両断されてしまう。


「成る程、どこまでもあなたは私の道を阻むようね。

 さあ、夢。私のおっぱいをもむのです」


「どうしてそういう話になるのですか!」


「簡単です~。

 あなたは私のパフパフという成長を確かめる遂行な行為を邪念の塊だと判じましたね。

 だったらあなた自身がそれを実践して一切の邪念を催さない遂行な……」



「お仕置きデコピン!」


 女の子の顔をグーで殴るのは最低な行為だと夢も自覚しているが、今の状況なら許されると夢は断言する。


 オデコをさすりながら桃子は夢を恨めしそうに見つめる。


 そして先程鏡が好きではないとの言葉道理、今日は荷物にてあが見すら入れていなかったらしい。

 下敷きをゆがませてどうにかこうにか鏡の代わりとして活用していた。






 少しでもいいから情報を集めよう。

 その覚悟は監禁され身動きを封じられ何時暴力を加えられるのか分からない少女にとって、どこまでも常識的でありながら非凡な決断だった。


 ―――でも、どうしよう。


 決意を固めたが、現実という分厚い壁は今も桃子の前進を妨げた。


「なにからしらべていけばいいのよ」


 檻の中にいる。大事なことだからもう一度言うが檻の中にいるのだ。


 自由に動けない。


 加えて誘拐犯も警察の捜査を警戒しているのか、この地下から動いていない。


つまり、何かあれば男が駆けつけてくるのだ。


「お話しするのが一番確実だけど、流石にね」


話し合いましょう。

やっぱりお前は死ね。


桃子の脳裏に、必死に媚を売る自分と、そんな自分をあっさり殺しに来る誘拐犯が容易に想像できた。


本日の妄想劇場は失敗でしたと、無常なアナウンスが流れてくるほど。


「相手は今現在私を監禁している。

こういった異常者は自分が優位に立っているという優越感を最大限に利用してくるし。

だったら、こっちが僅かでも気に入らない動きを見せたら容赦なく〆に来るわね」


あの時だってそうだったのだ。

集団で囲まれあいつらは皆笑顔で私を締め上げてきた。

やめてという懇願は一切合財聞き入れられることはなく。


向こうに話を聞かせてもらうには、屈服した振りをして話を合わせる。相手の優位性を崩壊させる。

この二つのうちどちらかの前提条件をクリアしなければならない。


「どちらも今は絶対に無理なんだけどね」


 事実を確認して思わず泣きそうになってしまう。


「幸いなことにあの男はずっと共犯者と一緒にいるし……」


 出来れば共犯者が如何なる人物かを確認したかった。

 そして女の子だったのならば、おっぱいの大きさを桃子は確かめたかった。


監禁してもう二日目だが、誘拐犯が口にした共犯者を目にしたことは無い。


「架空の人物を偽っている……それよりも私と同じように誘拐している子を無理やり恋人にしておる方があり得るわね。

 心象の変態さん」


 もしそうだったら最悪だ。

 今矛先はxに向かっているが、やがて自分を傷つけることになるのだから。


「そうよね、そう! 他に被害者がいるっていうのならば、あいつが私の所に来る機会は減るはずよ。

 だとしたら夢が私を見つける可能性が向上するよね。

 だから……

もしかしたら私はズ~っと閉じ込められているまま……」


 夢が自分自身を見捨てられないのは、他の誰よりも桃子が理解している。



 それでも、何時かは捜索は打ち切られるだろう。

そしたら自分はどこか遠くへと連れ去られるのでは。

そうなれば、この檻の中で長い時を過ごし、誰かに見つけてもらうこともできずに干からびて死んでいく。


 そんな漠然とした恐怖に桃子はさいなまれていた。



 無論考えすぎだと、桃子自身も思う。


今の彼女がしたいことは一体どうすれば情報を得られるかだ。


 ―――つい弱気になってしまったわね。


 先ほどまでこの状況を何とかしようと行動すると決めたばかりなのに、今では何をやっても無駄とあきらめモードに移行してしまった。


 このままではいけない。

 彼女は改めてそう思い、ふと幼いころに行ったおまじないを行う。


「鏡よ鏡。

 私はどうすればこの場所から逃げられるのかしらね」


 不安そうな自分の顔が食器には映っている。

 これをやったのが意地悪な女王様だってことはわかるが、世界中のだれもが一度はやったであろうおまじないを桃子は自分にかけた。


 12時のベルが鳴るまで解けない魔法でもいい。


 ほんの少しの勇気。

 必要なものはそれだけ……


 食器に映る自分の顔を見て、桃子はある可能性に行きついた。



 幸いほんの少し周囲は明るくなっている。

 まだ薄ら暗いがランプがあればどうにかなるだろう。


 水を手に取り、食器を濡らし、それをしばらく躊躇した後舌で舐めとり綺麗にしていく。


 そしてグッグッと檻の外へ限界まで腕を伸ばし、今は死角になっている隠し部屋の中身が映りこむようにする。


 しかし、使っているのはただの食器である。

 本物の鏡に比べたら、どうしても景色はゆがむ。


そのせいで始め桃子は何が移っているのかさっぱりだった。始めは何が移っているのかさっぱりわからなかった。


 それでも段々と目が慣れてくる。


 じっと食器を睨めつけ、瞬きすらせず一点を凝視する。

 そして……


「ヴオォオオェェエ!!」


 初めに見たのは白。

 大量に積み重ねられている。

カラカラと何処か金属的な光沢をもつが、まぎれもなく生物世来の物だ。

そして、積み上げられたこれらの中に独特な形状の、見慣れたそれを発見した。

―――人間のしゃれこうべだ。

 

 嫌悪!

 圧倒的な生物的な拒否感に桃子は思わずしゃがみこんだ。

胃の中身が逆流した。

全てをぶちまけた後でもせき込み、流した波ががお灸気に侵入し刺すような痛みを感じるが、そんなことは今の彼女には気にもならなかった。


 酸っぱいにおいが地下空間を満たす。

 それでも誘拐犯は一切の動きを見せない。


「はぁ、はぁはぁ」


 息が荒い。

 あんなものを見たせいだろう。


「私もああなるのかな~」


 今にも消え入りそうな雰囲気で彼女はそういった。


 そんな中で空を切る音が周囲に響いた。


 黒く大きな正体不明な生物だった。

 彼女をさらった生物だった。


 それはゆっくりと滑空すると桃子の前に降り立った。


「ヒッ!!」


 恐怖から弾け飛ぶように檻の端にとぶ。

今だけはこの固く頑丈な檻が頼もしく思える。


 しかし、夜鬼は桃子に何の興味も示すことはない。

まっすぐ進んでいく。


 化物が死角に入ると彼女は反射的に食器を使用して進行方向を照らした。


 誘拐犯の手には一冊の古い書物が存在した。

 ブツブツと何かを囁いている。

恐らくは何かの呪文だろう。


「あれで悪魔を使役しているのね」


 もしもあの本を奪うことが出来たのなら。

自分はここから脱出できるかもしれない。


 目の色を変え、彼女はじっとその光景を目に焼き付ける。


そんな希望を彼女はもttれしまった。


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