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情報交換


 時間は早朝、大学のいくつかの施設がその門を開けるのと同時にあなたたちは集まっていた。

入手した情報をすり合わせるために。

皆の時間が問題なく合うのが早朝の時間しかなかったので今集合になった。


「あ~、本当に眠いぜ。

ところでそいつ新しい人員だけど一体誰だ」


眠そうに頭をかきながら武蔵はトトが連れてきた新人にこいつ役に立つのかと連れてきて大丈夫なのかといった複雑な思いが交差する瞳を向ける。


「あ! 初めまして俺は加藤康弘。康弘って呼んでくれよ。

趣味はカラオケで……」

「ごめん、今は色々と理由があってお互いの情報はできるだけ伝えないことにしているの」


 気安く自己紹介をしようとする康弘をトトは口に手を当てることで制した。

 そしてあなたと夢に対して非難がましい冷たい視線を向ける。


「それで何でそいつを連れて来たの」

「え! メールしたでしょ」


 当然ながらあなたはメールを確認していなかった。今更ながら携帯を開こうとして、本人に直接聞けばいいと思いなおした。。

「彼も予知能力に目覚めたの」


といっても、あなた以外はピンと来ていない。

印象としては、そういえば昨日そんなことを言っていたな程度だ。


「Nのゲーム。この言葉に聞き覚えがあるかな」

「どうしてそれを」


 予知能力者(痛いやつ)同士の納得に周囲は困惑した。


「Nのゲームってなんだ」

「そうだな、なんといえばいいのか……。

 あれは一種の啓示だ。

 ジャンヌダルクがフランスを救えと天使の声を聴いたように」

「あのさ、そういったナルシストぷりはいいから」


「「な、ナル……」」


 トトの残酷な切り返し。会話に参加していなかった康弘まで言葉を失った。


「と、とはいっても例えは的外れではないはずだよ。

 あれは天の声というべきか、人ならざる者の声というべきか……

 聞こえたんだよ。

 予知を見終えたときにようこそNのゲームにって」


 と、ナルシスト発言を撤回するべく康弘は必死に弁解する。


「成る程、ナルシストではなく電波に近いですね」


 女性陣の銀の刃のような言い回し。

 あなたたちは再度言葉に詰まった。


 ―――それにしても……。


この時。夢の中で眼前の三人への疑念が生じた。

何らかの事情で予知能力が発生したというよりも、全員で口裏を合わせこっちをはめようとしている。という説明の方が納得できるからだ。

加えて、本当に予知ができるとして、こいつらは夜鬼の資料を入手している。

一つ一つを見れば偶然かもしれない。


―――でも、本人は無自覚かもしれないけど事件の中心にいるかもしれない。


不幸中の幸い。

それは、あなたが武蔵にトトを疑っている事実を話すなと言い、彼が約束を守ったことだろう。

 

 今の夢はあなたたちを白に近いグレーt見ていた。

 もしあなたの話を聞いたら黒に近いグレーと判断しただろう。


「まったく、予知なんて自分自身でも信じていなかったんだけどな」


 そういって、全身の力を抜き机に寝そべるあなたは窓に映るまだ赤みを残した朝日に憂いを込めた視線を向ける。


「まあ、悪魔、正確には夜鬼なんて怪物がいるんだ。超能力者が存在しても俺は驚かないぜ」

「むしろ重要なのはどうしてこんな能力が身に追加かじゃないの。超能力よ、予知能力よ」


 ファンタジー。

 またの名をありもしない夢物語。

だれもが子供のころにあこがれた魔法や超能力。

大人になるにつれ皆が諦めきり捨てていく憧憬の念。


それが目の前に。

手の届く所にある。


トトは幼い少女のように目を希望に輝かせて、光の方に手を向けようとして……。



「はっきり言っておくが、予知能力に関しては触れん」


 康弘の断固とした決意にとめられた。


「嫌、そんなことどうでもいいんじゃ」

「え! 今原因かもしれない本持ってきてるんだけど」

「なら、その本は燃やせよ」

「いえ、その本は私たちを襲った夜鬼についての情報が載っているんです」

「なら、コピーした後に燃やせ」


「さっきからおんなじことリピートしてるけどどうしてだ」


一向に進まない議論。そこから脱却すべく武蔵が切り出した。


 すると康弘は口を開くのではなく、椅子から立ち上がった。


「見せたいものがある、突いてきてくれ」


 先ほどまでの優しげな風貌から一転した硬質な声。


 ゆっくりと重々しく建物の外へと彼は歩いていく。



 そしてたどり着いてのは駐車場だった。



「一体どういうつもりですか」


 友達を助ける手掛かりになるかもしれない。

予知能力に対する期待がメンバーの中で最も強い夢が永久凍土のような視線で康弘を睨めつける。


「はっきりと言おう、俺はみんなが予知能力を身に着けることに反対なんだよ」


 彼は何度も何度も立ち止り、躊躇しながら車の前までやってきた。


「俺はな予知を見た、自分が死ぬ光景を見たんだよ。

 女の子がボールを追うために道路に飛び出して、それを助けるために俺が車にはねられる。

 今どきネット小説の中でしかみれない陳腐な行動だよ」


 淡淡と康弘は語るがその拳は血がにじむほど強く握りしめられている。


 拳の力を抜き、そして自らの腕を皆にさらした。


 夏だというのに、そこには鳥肌が浮かぶ。

 彼がどれだけの恐怖を感じているかの客観的な証拠だった。


「予知能力に関してはできる限り少人数でやるしかない。

 まごうことのないトラウマだ。

 自分が死ぬっていう行為はそれほどまでに人の精神を削り取っていくんだよ」


 これは康弘が語っていないことだが、あの事故があった日から二日間。彼は熱にうなされ自宅から出ることが出来なかった。

 自分の死を覗き見るというのはそれほどまでに過酷な所業なのだ。



「あなたはどうなの? 何ともない?」

「ああ、問題ない」


 その鉛のように重苦しい提案を受けて皆が再び熟考に入った。


 そんな中で彼と同様に予知能力を持つあなたをトトが気にかけてくれた。

 あなたは空元気ではなくしっかりとした生気を見せる。


「どんなにリアルだっていっても所詮は幻覚だ。

 彼の場合はすぐにあまりにもショッキングな光景を見たせいでトラウマになっているみたいだけど。

 俺には目立った後遺症は無いよ」


 その言葉を聞いて皆が安堵する中で、一人、康弘だけがその異常性に気が付いた。


 ―――あんな、あんなものを耐えきれるのかよ。


 康弘は宇宙人でも見るようにあなたを見た。

あまりの異質さに恐怖を感じてしまう。


 あの余地はあまりにもリアルだった。

 映像だとか催眠術だとかそういったちゃちな状況ではなく死そのものなのだ。


 予知を見終わった後も、その精巧すぎる出来栄えに今いる現実の方が夢なのではという妄想を感じてしまうほどに。


「正直な話、俺は予知能力を身に着ける必要がないと思われる。

 身内に予知ができる人間が二人もいるんだ。

 わざわざリスクがある危ない橋にこれ以上人を綿焦る必要はないと思うぞ」

「私は危険だからこそどうすればこのゲームに参加するのかの条件を知る必要があると思うわ。 

 もしかしたらうちの商品が原因かもしれないんだし、それで被害者が出るとしたらお客様に申し訳ないもの」


 これで賛成と反対が一対一に分かれた。


「僕は反対だね。このゲーム自体が黒幕の手のひらの上っていう可能性もあるし」

「それはどういうことですか」

「これがゲームだってこと」

「成る程、ゲームマスター」


「あのお二人さん。二人だけの世界に入るのは結構だけどちゃんとした説明をしてよね」


 あなたは言葉が少なすぎ夢は端的過ぎた故に周囲には何を言っているのか理解できんかった。


「つまり、俺たちが予知を見たときに聞こえたNのゲームという言葉。

 それはこの予知能力が何らかのゲームで使用されるってことだ。

 それはこれには対戦相手とルールキーパー、もしくはゲームマスターが存在するってこと」


 その言葉に一同が騒然となる。


「なら、そいつがこの事件一連の本当に黒幕ってか」


「さぁ」


 燃えたぎる闘志を見せる武蔵にあなたは肩をすくめた。


「さぁって」

「仕方ないだろ。他人に予知能力を与えられる、それこそ神みたいな存在に対してどうこうしろって方が無理だろ」



その指摘に皆が押し黙った。


改めて自分たちが関わった事件の大きさを認識したのだ。


「それで夢はどうするんだ。

予知はもしかしたら裏に黒幕がいるかもしれないが、使えるのなら桃子の捜索に大きなプラスになるぞ」


どちらにも一長一短があった。


「私は予知能力について調べようと思います。

 桃子を助けられる可能性が上がるなら何でもやります」


その発言の裏にはあなたやトトが真実を口にしているのか探りを入れる為でもあった。


しかし、多数決の結果を見れば賛成2、反対3で反対が多数になった。


これで自分と同じような恐怖を感じる人間が減るのだと康弘は胸をなでおろすのだが……。


「はい、これ。

これを見て、たぶん僕たちは予知能力を手に入れたんだ。

パラパラめくる程度で発現したからざっと見るだけでいいはずだよ」


あなたはそんな葛藤を綺麗に無視する形でトトにダイナマイトのような危険物を手渡した。


「まてよ! 皆で話し合った結果予知能力には手を伸ばさないって結果になったんじゃ!!」


「とはいっても、僕たちは別に仲間ってわけじゃないし」

「関係性で言うなら情報交換をしているだけの他人ですね」

「こうして会って話している時点で仲間だよ」


 と、今日初めて会った康弘が熱く語る。


「「え?」」


 昨日初めて会った皆が首をかしげた。


 このメンバーでは身内内ではあなたはトトを疑っており、夢たちはあなたたちのチームそのものに拭い去れない不信感を感じている。


 康弘だけが事情を呑み込めていないが、何時空中分解が発生してもおかしくは無いメンバーなのだ。


 それ故に多数決なんてものは一切の意味を持たない。


 止められるとするならば……。


「夢、危険かもしれないものをどうにかするのは女の子の仕事じゃないぜ」


 個人的なつながりでしかありえない。


 もう、本は夢の手に渡っているが、固く閉じられている。


 そして、あなたの前には武蔵と康弘が立ちふさがる。


「確かに、あんたらは偶然集まっただけの存在かもしれないが、皆で危険だって判断したんだ。

 だったら取りやめるのが筋なんじゃ」

「本を読むのは男の俺の役目であるべきだ」


 皆を気づかう康弘と夢を気づかう武蔵。

 根本の感情は同じでもその行動は全く違う。


 そして、あなたは。


「俺たちは家族でも知り合いでも友達でもない。

 だったら誰かの字行動を止めることなんてできないだろ」


 誰のことも気にかけていなかった。

 個人の意思の尊重と言えば聞こえはいいだろうが、それは無責任と表裏一体だった。


「何か変わったと思う」


 しかし、彼等は失念していた。

真に目を向けるべき人物が別にいると。


彼らが退治していた後方で夢が話題の本に目を通し終えていた。



「えっと、ごめんなさい。変わったっていう印象は無いですね」


 自らの身体をぱんぱんとたたきながら、異変を見るが特に変わったことは無い。


「僕の時も似たようなものだった。

 何らかの理由で死ぬような目にあう可能性がない限り余地は発動しないよ。

 それに、日常生活の中で死ぬような事態に発展することなんてほとんどないから、本当に予知能力に目覚めたどうかなんてわかるわけがないね」


「何だ、心配して損しました」


 そういって彼女はにっこりと笑う。

 有無を言わせぬ迫力を持った笑顔だった。



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