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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

杖に憑依したおっさん

作者: カスミ楓


 ……あ、ども。俺、宮乃圭治みやのけいじ

 日本生まれの日本育ちで、料理が趣味の三十路独身会社員やってたんだけど、今は何故か杖に憑依する精霊やってます。

 地球ではないこの世界、剣や杖や指輪などに精霊を憑依させ、パワーアップさせる術式というのがあって、普通なら同じ世界にいる精霊を宿すんだけど、なぜだか俺が召喚されてしまったのだ。

 俺を呼んだのは、ライラという高位貴族の長女で十二才という子供だ。

 赤みがかった金色の長い髪を縦ロールにして切れ長の目、口元は妖しく歪んで手には扇子を持っている典型的な悪役っぽいご令嬢だ。更に年齢に見合わないメリハリついた体型で、どう見ても十二才には見えない。大人びて顔立ち綺麗な分、迫力はある。


 で、まあ良くある話なんだけど、魔力は基本的に貴族しか持っていないんだって。そして精霊を召喚させるには魔力が必要で、だから貴族でない平民は精霊を宿す事はできない。

 ま、貴族から平民落ちしたものもいるし、貴族が平民の妾に生ませた子供とかいるから、平民の中にも魔力を持っているものはいるけどね。


 そんなことはどうでもいい。


 とにかく俺はこの憑依を解いて戻りたいのだ。

 ようやく大きなプロジェクトを任され、課長への道が開けたと思ったのに、これだよ。このチャンスを逃せば一生、とは言わないまでも、相当昇進は遅れるだろう。

 でもライラ、さすが高位貴族なだけあって魔力が豊富。しかも普通の召喚術を使わずオリジナリティ溢れる独自のやり方でやったらしく、どうやらその影響で普通の人間だった俺が呼ばれたようだ。

 更に解除の仕方も分からないらしい。

 ……おい、ふざけんなよ。

 とまあ、怒鳴っても事態は進展しないし、腹は立つけど十二才の子供に当たっても大人げない。

 ということで建設的に話を進めて、俺を戻せるような術式を生み出す事で合意したのだ。


「ケージ、別に私はこのままでもよろしくてよ。だって貴方が宿っていると普通の憑依武器より遙かに威力が高いのですもの」

「俺がよろしくないんだよっ! 家には(ディスプレイの中にいる)愛する妻が帰りを待っているんだ」

「……あら、貴方独身とおっしゃってなくって? それに私が死んだら貴方との契約は終結しますわ、それまで待てば自然と契約終結いたしますの」

「ライラが死ぬまで何十年かかるんだよ!? 俺のほうが先に死ぬわっ!」

「ケージ、ご自分が今は精霊だって事、お忘れですの? 精霊は何千年、何万年も生き続ける存在ですわ」


 そんな保証全くあてにならない。それ以前に、地球との時間軸が同じだと仮定して、何十年も経ってたらとっくに俺はいない人間となっている。ま、ここにきて既に二週間、行方不明者として扱われていても不思議じゃないけどな。


 あと心配なのが、こいつらは貴族だって事だ。

 最初なんて、精霊を宿してるのと変わらないのだからそのままでいいじゃないか、ってノリだった。平民一人、しかも別の世界の人間など全く問題ない、と。

 それを何とか合意が取れるまでこぎ着けた俺、凄い。

 ま、合意とは言っても正直ライラは協力などしてくれないだろう。やる気のなさが目に見えるくらいだからな。

 しかも、そうそう簡単に術式なんて作れないし、元々俺が呼ばれたのは偶然の産物なので、とっかかりすら不明なんだって。

 どうすりゃいいんだろう。


 最初は杖を壊せば戻るんじゃないか、と聞いたけど、それを壊すなんてとんでもない、と力説されました。

 どうやら先祖代々伝わる由緒正しい杖だそうで、国宝級なんだって。俺からは杖が見えないので何とも言えないけどさ。

 そもそも精霊が宿っているものは、そう簡単に壊す事はできないそうで、例え高所から落としても、灼熱の炎の中に突っ込んでも、ミノタウロスの一撃を食らっても、壊れないそうだ。

 確かに元は武器なんだから、簡単に壊れちゃ意味がないのは理解できる。

 それよりさ、十二才の子供に国宝級の杖を渡すなよ、と思いました。

 でもライラはどうやらこの国の第一王子と婚約してて、将来は王妃が決定しているそうだ。なるほど、確かに王妃なら国宝級のもの使っててもいいよな。


 ……いいのか?


 ちなみに、この国の言葉はさっぱり分からない。そのため、独学で調べようとライラが読んでいる魔法書を横目でこっそり覗いてもさっぱり読めなかった。

 ではどうやってライラと会話しているのかと言えば、念話である。だからライラ以外の人だと何言ってるのかさっぱり分からない。結構致命的だ。文字が読めないのは痛い。

 ライラは高位貴族なだけあって国の管理下にあるような魔法書も閲覧権限を持っている。実家に戻るためのヒントがあるかもしれないし、是非ともその辺りを読みたい。

 うーん、文字を覚えなきゃだめだな。

 だけど誰に習うのだ? ライラが教えてくれるとは思えない。

 それ以前に杖のままだと、自分で読みに行けない。ああ、もどかしい。


 と言うことで、今後の目標は文字を覚える、杖から離れる、この二つだ。

 

 幸い俺は精霊扱いっぽいのか、魔力らしいものが視えて、何となく感覚で触れるのだ。

 念話もこれを使って、糸電話みたいなものをライラへ繋げたら話す事ができた。

 つまりだ、リモコンのように分身体を操る事が出来たら、何とかなりそうじゃないか?

 幽体離脱ーってな。


♪ ♪ ♪


 ライラは十二才、つまりまだ学生だ。

 この国の貴族は六才から十五才までの十年間、学校に通うらしい。

 金のある貴族なら家庭教師を雇って勉強する、とイメージしてただけにちょっとびっくり。

 競争心を煽るために学校という一つの場所に集めているんだって、なるほどね。あとは将来に向けての社交場という理由もあるそうだ。


 さて、子供とはいえ幼少の頃から訓練された貴族たちが集まっている。ということは、上下関係が体育会系以上に厳しい。

 だがライラは将来王妃になる予定だけあって、思いっきり高位の貴族だ。爵位でいえば公爵。

 公爵って王家の分家であり、万が一王家の跡取りが全滅した場合、公爵家から次の国王が選ばれるんだって。徳川御三家みたいなものだな。

 そのため、定期的に王家と公爵家は婚姻して血を混ぜるらしい。実際ライラの母親は王妹だそうだ。

 ……あれ、じゃあ従兄弟と結婚するのかよ。ちょっと血が近すぎやしないか? まあ好き合ってるなら良いんだけどさ。

 それはともかく、王家以外に頭を下げるものがいないライラだ。いや、正確には親や他の公爵家当主にも頭は下げるけど、学校にはいないので、学内ではほぼトップになる。

 つまり有頂天って感じ。

 ライラ以外の言葉は分からないし、魔力の糸を他にくっつけようとしても弾かれるから、場の雰囲気だけで察してるんだけど、たぶん間違っていない。

 それに加わり、つい最近会話可能な精霊を宿した(俺の事らしい)ので、有頂天どころか大気圏突破可能なくらい調子にのってる。


 ここは社交の場だ。つまり下位貴族たちは上位貴族の顔色を伺う練習の場にもなる。

 多少偉ぶるのならいいけど、やり過ぎはよろしくないと思うんだけどな。

 でもライラの事情も分かる。

 学校が終わった後、王妃とはなんぞや、という勉強をずっとしているのだ。婚約者である王子とは、少なくとも俺がここに来てから一度も会っていない。

 つまりストレスが溜まってるので、学校はその発散場所って感じなのだろう。


「あまり調子にのると後で痛い目みるぞ」

「え? 何をおっしゃっているのか分かりませんの。私は事実をありのままにお伝えしているだけですわ」


 会話できるほど上位の精霊をお呼びになるなんてさすがはライラ様ですわ、とか言われてるのかね。

 周りがちやほやするから、更に調子に乗るのか。

 ちなみに精霊は自我を持たない下位精霊が普通で、会話できるほどの上位精霊が呼べるなんて百年に一度あるかないかだそうだ。

 あ、これは調子にのっても仕方ない。


「愛しの王子殿下が見たら幻滅するかも知れないぞ。同じ学校にいるんだろ?」

「バリントン殿下は最近男爵家の方とよろしくしているらしいの。どうでも良いですわ」

「え? それって浮気になるんじゃないのか?」

「……なぜですの?」


 どうやら王子は将来の妾候補を口説いているようだ。

 王家、というより貴族は血を残す義務があるので、当主には数人妾がいるのは当たり前なんだって。そして妾に子供が出来たら正式な妻になるそうだ。

 ライラ的には貴族の義務で結婚するから、王子が何してようが別に良いんだって。男を生めばあとは王妃の仕事をこなすだけだそうだ。

 なんだ、好き同士じゃないのかよ。


 しかし王子が女に現を抜かしてるのに、ライラは王妃勉強か。

 普通、王子は国王になるんだからもっと勉強しないとだめなんじゃないのか?


「殿下が失敗したとしても私の責任ではないですもの。私は私の義務をこなすだけですわ」

「おおう、何その冷え切った熟年夫婦」

「当たり前ですの。貴族足るもの義務を行ってから口を開くものですわ」


 あ、でもよく考えたら、ライラだって学校にいる間は周りの人間にどや顔してるし、王子も家では勉強して学校では女を口説いていると思えば同じレベルだな。

 実は似たもの夫婦か。

 しっかし、王子ってライラと同じ年齢だよな。十二才で愛人探しって……おじさん、ちょっと羨ましいぞ。


♪ ♪ ♪


 一年が経った。この一年、魔力の操作に勤しんでいたが、その結果つい一月ほど前に、やっと杖から離れる事が可能になった。分身だけどな。

 でもアバターだと思えばいいのだ。何せアバターが死んでしまっても本体が無事なら、馬鹿めそれは残像だ、第二、第三の俺が近々やってくるだろう、と言えるんだからな。

 それともお約束で四人作って、そいつは四天王でも一番下っ端、とか。


 妄想が捗るな!


 そういう訳でここ最近ずっと夜中、分身を出してこの町の散策を行っていた。

 どうやら俺の姿はうっすらとしか見えないらしく、夜中であればほぼ人目に付かないし、実体がないらしく壁抜けもできる。なにこの生き霊。

 早速女湯へ突撃してきたけどこの世界風呂の概念がなく、あるのはサウナだけだった。つまり脱衣所はあるけど、大抵薄い服を着ているので素っ裸になることはなかった。がっくり。

 ま、濡れた薄い薄着は色っぽかったけどな。


 妄想が捗るな!(意味深)


 ……実体はないけど。

 女湯とか妄想はともかく、実体がないのは痛い。

 何せ図書館に突撃しても本が取れないページがめくれない。何の為に来たんだよって感じ。 

 魔力で何とか本を取ろうとしたけど、できませんでした。いや、大まかには出来たんだけど、ページをめくるとか細かい動きが難しすぎて出来なかった。危うく本を破りそうになった。

 結局諦めて腹いせに町の外へ行ってその辺にいた魔物っぽい奴らをぶん殴ってきた。

 こっちは実体化とまではいかないものの、自分の手を動かす程度の動作が出来るようにならなきゃ本が読めないな。その前に文字覚えなきゃだが。


 とまあ、ここ最近はこんな感じだったが、ライラの話に移ろう。

 ライラは十三才になったが、まだ学生だ。学校で何を学ぶのかといえば、もちろん一般知識は当然として、それ以外に剣、魔法の勉強をしている。

 そして十三才から野外授業というものがあるらしい。つまり、机上の空論にならないよう外に出て実際に剣や魔法で動物とかを狩る授業なんだって。

 ただ貴族の集まりであり、万が一のため護衛はたくさんいる。国からは騎士が何人も派遣されるし、腕の立つ冒険者も何人か来るので安全面は非常に良い。

 また場所もこの町、王都ルーデシアの近隣だ。

 何が言いたいのかと言えば、この王都は人口十五万というこの大陸でも最大の町だ。つまり人間がこの辺の支配圏になっている。そりゃ近くに危険なものがいたら真っ先に排除するだろうし、魔物や魔獣も大量の別の生物がいるような場所にはあまりこないそうだ。テリトリーってあるんだな。

 だからか、この町の周辺にはあまり魔物や魔獣はいない。もちろんテリトリーなんていうものを吹き飛ばすような強い魔物なら話は別だけど、そんなものはそうそういない。

 実際俺が分身を飛ばして町の近辺を見てきたけど、小さい魔物しかいなかったし、軽く殴っただけで昇天してた。


 ま、そんな訳で野外授業である。

 ちなみに学生の数はそこまで多くない。せいぜい一学年に四十~五十人程度で、全体でも五百には届かない。国全体でこの数だから、支配者階級の割合って意外と低いのかも知れない。

 それでも十三才以上ということは三学年分、百数十人がいる。結構な団体さんなので護衛の人数も結構必要なのだ。


「ケージ、いよいよ私のデビューですわ!」

「あ、はい。やけに張り切ってるな」

「もちろんですの。この日のために魔法を覚えたといっても過言ではありませんの」

「では、この日が終われば俺はお払い箱か」

「デビューと同時に終わってどうするのですか!?」


 今まで魔法とはいっても練習場で実演しただけで、外では使えない。

 回復や治療、簡単な火を灯したり飲み水を出したりする程度ならともかく、攻撃につかうような魔法はそりゃ危なくて街中や学内では使えないだろう。

 でも、やはり攻撃系の魔法は花形らしいし、今日は外で思う存分攻撃魔法が使えるので相当嬉しいらしい。

 元々ライラは魔力が多い。多くないと異世界から俺を召喚なんてできないからだ。

 俺は魔力が見えるが、他人と比べ実に五倍から六倍は多く見える。ライラの家族や王族(一度だけ見たことがある)もライラほどではないがかなり多かったので、きっと上位貴族は魔力の多い者がたくさんいるのだろう。


 ま、俺自身の魔力はそれと比べものにならないほど多いけどね。

 正確には俺が引き出せる魔力だけどな。どうやら俺の魔力は別の空間と繋がっているらしく、そこにはそれこそ魔力で埋め尽くされている。たぶん精霊界とかそんな感じなのだろう。

 ということは、俺専用でなく全ての精霊の共有財産とは思うけど、俺個人では使い切れない多さだ。


「さあケージ、早速狩りますわよ!」

「はいはい、お姫様」

「精霊の宿る杖が、これほど使いやすいとは思いませんでしたわ」


 護衛なんぞ無視してライラは手当たり次第攻撃魔法をぶっ放していく。

 こんなにぽんぽん魔法使ってもなかなか魔力は減っていかないのは、俺がこっそり魔力を補填して、更に杖へと流れる魔力の交通整理を行っているからだろう。

 杖には抵抗があるのか、魔力を流すとところどころ渋滞を起こすのだ。

 他人の杖を見たけど、安っぽそうな杖ほどこの渋滞が起こりやすい。ライラの使っている杖は国宝級のためなのか、かなり流れはいいけど、やはり起こる。

 特に大量の魔力を流したときが顕著だ。それをちょいちょいいじって、流れを良くしてあげている。


 しかし……。


≪漆黒の闇に燃えさかる白き炎よ、我、ライラ=ライクリフ=フォルマンの名において顕現せよ、舞え舞え舞え、消滅せし炎よ、天より蒼き流星となりて粉砕せよ≫


 なんて呪文を唱えてるけど、実際は火の玉一個で俺の先端、つまり杖の先に出ている。どこが「天より」だよ。

 いや威力的には十分だし、着弾すると火をまき散らして周囲にもダメージを与えるので、まとめて倒す事も可能だ。でも、ちょっと……いやかなり大げさな詠唱内容だよな。


 しかし呪文詠唱ってなんだろう。原理が分からない。

 魔力の流れを視る限り、体内から杖へと伝わり、そしてそこから魔力が複雑に絡み合うように声へと乗っていく。言葉と言うより、その絡み合いが何か記号なのか魔方陣なのかを表してる感じがするんだよね。となると詠唱内容はどうでもよくて、声の音質というか周波数が大切なのかな。つまり大きくしたり小さくしたりする韻のようなものかね。

 それなら鼻歌でも発動しそうだ。それをCDにして売れば儲かりそうだな。いや、CDなんて技術作れる気がしないけど。


 なんて事考えてたら、いつの間にかライラが単独行動していた。


「おいライラ、一人だぞ」

「構いませんわ。周りに人が居ない方が魔法撃ち放題ですの」

「かまうよ! 貴族の娘が一人で行動すんなよ!? それにギャラリーいないとデビューも何も無いだろ?」

「それはそうですが、最初に思いっきり見せつけましたから十分ですの」


 トリガーハッピーならぬ、マジックハッピーってか。

 それともストレス溜まってたのかね。

 ライラはどんどんと進み、呪文を唱え、魔法を撃ちまくってる。

 彼女が進んだ道には、焼けた魔物の死体が残ってる。これなら他の人が見失うって事はないと思うんだけど、なんで誰も追いついてこないんだ? もしかして呆れられて放置されてる?

 でも彼女は王妃になる予定で王子の婚約者だろ、いくら何でも放置はまずいんじゃないのかな。

 それ以前にここって、夜に何度も訪れてるけどこんなに魔物いたっけ。

 ……なんかおかしい。

 それにライラが進んでいる方角に、妙な魔力の流れが視える。いや、流れというより吸われてる?


「ライラ、戻れ。何かおかしい」

「今更、戻れですの? このまま行けるところまで行きますわ」

「馬鹿! 魔力ペースを考えろ、こんなにぽんぽん魔法使ってたら帰り分の魔力が足りなくなるだろ!」

「行くときに全滅させておきましたから、帰りに魔物は残っていませんわ。それにしてもケージ、口が悪すぎますわよ」


 俺は杖を通した視界なのでどうしても現実味がないから、ネトゲ感覚でいられるという理由もあるが、こいつは初陣なのに血なまぐさい臭い、生き物の死体、敵からの殺気、これらを目にしても慌てず騒がず、まるで虫を殺すように的確に処理していっている。

 度胸があることは分かるが、危機管理が出来てない。ゲームじゃないし死んだらそれまでだから、万が一って時を考えなきゃいけないはずだ。

 ……そう考えると確かにこいつは初陣だな。猪突猛進というものか。


「……っ!?」


 突然、猪突猛進だったライラの足が止まった。

 誰かが追ってくるか背後を気にしてたが、前を見るとそこには一本の大木が佇んでいた。しかも魔力がそいつへと流れている。

 ああ、魔力を吸い込むタイプの魔物か。


≪漆黒の闇に燃えさかる白き炎よ、我、ライ……≫


 すかさずライラが呪文詠唱するが、杖に流れた魔力が一瞬にして吸われた。

 ライラはそれでも諦めずに何度も繰り返すが、その度にどんどんと魔力が吸われていく。

 まるで掃除機で吸引されたかのようだな、変わらぬ吸引力ってか。


「諦めろ、魔法じゃ無理だ」

「……悔しいですがそのようですわね。なんですかあの魔物は、厄介な」

「さあ。それより早く戻って、魔法じゃ無理なんで剣で倒せと騎士たちに連絡だ」

「仕方ありま……きゃっ」


 いつの間にかライラは木の根っこっぽいものに、足首を掴まれていた。そのまま逆さに持ち上げられ、宙ぶらりんなる。

 おいおい、触手プレイかよ。惜しむべきはライラの服装は、ズボンだったってところだ。さすがに森の中へスカートであるドレスは無理だからな。

 そう思いきや、いきなり杖に大量の魔力が流れ始めた。


「くっ、ああっ!?」


 あ、これやばい。ライラの魔力が吸われてるんだ。

 限界以上に魔力がなくなると、この世界の人間は干からびて死んでしまう。

 一瞬、こいつが死ねば契約が切れるし、もしかすると俺は戻れるんじゃないか、という考えが頭を過ぎったけど、いくらなんでも子供を見殺しになんて出来ない。助けられないならともかく、助ける力を持っているのだ。


 仕方ない、やるか。


 俺は一気に魔力を取り出し、巨大な手を出現させた。

 当然木の魔物はそれを関知して吸い取ろうとするが、魔力量が多すぎて吸いきれないようだ。ははっ、力業だな。

 そして手を上に持ち上げて、木の魔物へと振り下ろす。

 派手な轟音と共にまさしく木の魔物がぺしゃんこになる。それと同時につり下げられてたライラの拘束が解け、身体が落ちた。

 おっと、危ない。

 すかさず手でライラをキャッチし、優しく地面に寝かせる。


「ライラ、大丈夫か?」


 だが返事はない。

 一瞬手遅れかと思ったけど、呼吸のためか胸が上下していてたので気絶しているようだ。

 ふぅ、取りあえず一安心だ。

 さて、次は……木の魔物の本体は潰したけど、たぶん木だから根が地中にあると思う。ついでにそっちもやるか。

 手を魔力でスコップのようにして、そこら中の地面を掘りながら、根っこらしきものを次々と引っこ抜いていく。


 粗方地面を掘り起こして根っこを処理した時、ようやく騎士らしい奴らがここにたどり着いた。

 もちろん手は奴らがくる前に消してある。

 彼らはここにたどり着いた途端、この惨状を見て絶句していたが、ライラの姿を確認すると駆け寄ってきた。

 単に気絶している事が分かると、安心したようで、丁重に運んでいった。


 さて、ライラには貸し一つだな。


♪ ♪ ♪


 とうとうライラが十五才、最終学年になった。十五才で既に貫禄は十分、美貌も成熟している。ほんとにこの世界って早熟だよな。

 それと同時に俺も文字と言葉を何とか覚えた。もちろん講師はライラだ。とは言っても杖の状態じゃ話せないので、喉と口を魔力で作ったんだけどな。

 ……傍から見ると化け物だな、顔の下半分と喉しかないよ俺。いくら魔力の節約だからといっても、せめて顔全体作った方がよかったかな。

 最初これを見たときライラですら怯えた表情浮かべたからな、よく悲鳴を上げなかったものだ。

 ……Sっぽい子が怯える表情はなんかそそるぜ、俺鬼畜。

 それはともかく、話すといっても片言だし、ところどころ聞き取れない単語や意味の分からないものもあるけど、二年でここまで頑張ったんだ。褒めてくれ。

 そして文字がある程度読めるようになってきて、ライラの読んでいる本の内容も分かり始めた。

 その殆どが冒険者としての心得、後衛の動き方、便利な魔法一覧、各地の魔物分布図などなど。

 ……あれ、王妃になるのに冒険者?


「これらの本には、野外授業を行う上で非常にためになることが書かれていますの」


 そういって野外授業で実演してくれた。

 確かに初陣の時に比べ遙かに動きが洗練されているし、短縮詠唱を頑張っている。特に火の魔法が好きなようで、俺の魔力も合わさりその威力はやばいくらいだ。

 ちなみに定期的にある野外授業だが、三回ほど異常な魔物と出会ったけど、文字通り俺の手で潰しておいた。こんなイレギュラーが三回も起こるなんて、ライラって誰かに狙われているような気がするな。


 さて、周りの言葉が何となく理解できるようになった頃、どうやらライラと王子の仲はよろしくない、ということが分かった。

 まあな、結婚もしてないうちに愛人捜ししてるような王子だ。仲が良いわけがない。

 しかも王子が熱をあげてる男爵家の令嬢ってのが、これまた男受けしそうな奴で、王子の側近ともどもその娘の虜になっている。

 あ、俺はどうなんだって? まあおっさんから見れば正直可愛いとは思うけど、ちょっとぶりっこしすぎだと思う。最初はいいけど時間が経つにつれうざいと思うようになるだろう。

 ぶっちゃけその男爵家のご令嬢ならライラのほうが、まだサバサバしていて好みだ。年齢が上がると同時に迫力も更に増してきたけど。


 それはそれとして、文字が多少なりとも読めるようになったので、こっそり図書館通いをしている。

 あ、手はなんとか小型のものを制御することに成功した。ほんっとこれって細かいよな。

 もちろん分からない文字があれば、書き留めておいて、あとでライラに聞くのだ。


 ただ、今のところ召喚に関する情報は碌なモノがなかった。

 ただ、人形使いマリオネットという魔法のジャンルがあるそうだ。これは使える。

 いつまでも手や口を魔力で生成するより、人形を用意しておいてそちらを制御したほうが魔力的にも楽だし、より細かい制御ができるだろう。


 そんなこんなで一年が経ち、ライラの卒業式を迎える。そして彼女の断罪が行われた。

 ……なんでだろう?


 王子が激高してライラに向かって責め立てている。

 正直早口すぎてうまく聞き取れないけど、どうやらライラが王子のお気に入りの男爵令嬢に悪さをしているそうだ。

 でも俺が杖に宿ってから一度たりとも、ライラが男爵令嬢に悪さどころか、話しかけた事すら無いのを知っている。そしてライラは寝るときと、トイレいくとき、風呂入るとき以外俺を片時も手放さない。

 最初はトイレの中まで持ち込もうとしてたので慌てて却下したし、寝るときだって俺を抱き枕代わりにしようとしてたくらいだ。風呂はさすがに側近の子に渡してたけど。


「ライラ! なぜ君はアリアーデを執拗にいじめるんだ!? 恥ずかしくないのか?!」

「ですから殿下、私は一度たりともそのような卑しい真似はしたことがありませんの。やるならば徹底的に家ごと潰しますわ」

「嘘をつくな! みろ、アリアーデがこんなにも怯えている。……かわいそうに」


 王子の言葉に周りの側近たちも責め立てる。

 対するライラはあくまで優雅にあしらっているが、それが更に相手を怒らせる。

 そんなものを目の前にしているうちに、だんだんとむかついてきた。

 ライラは魔法の研究や王妃の勉強、学校では通常の勉強に練習場で魔法の実験と、毎日忙しい日々を送ってきた。その上で成績は学年でも片手に入るほど。これは努力の賜だ。

 いじめとかしている暇なんてないにも関わらず、ライラの言い分も全く聞かず決めつけるように責め立てているのだ。

 

 王子の側近が全く認めないライラに手をあげようとした瞬間、俺の何かがキレた。

 手を出そうとした側近の目の前へ喉有り顔半分を生みだし、思いっきり言ってやった。



「俺はライラの杖に宿る精霊だ。女の子に手を出すなんて許さんぞ? そもそも俺はずっとライラと一緒に居たが、そいつを虐めるような場面は見たことがない。被害者の口だけの証拠なんてどんだけ考えても怪しいだろ。権力で無理矢理弾劾か? はっ、そんな事しようものなら、俺の手でぷちっと潰すぞ」

「悪魔だ!」

「ライラ様が悪魔と契約した!!」

「食われるぞ逃げろ!」


 思わずところどころ日本語になってしまったし、こちらの言葉に変換できなかったところもあったが、勢いで言って、そして手を出現させて近くの地面を殴った。

 その途端蜘蛛の子を散らすように全員逃げていった。


 ……あれ、なんで悪魔扱い?


♪ ♪ ♪


 あれからライラは悪魔と契約したと弾劾され、そして国を追い出された。

 そりゃ喉付き顔半分なんて気色の悪いもの見たら、怯えるだろ。なんで考えなしなんだ俺。

 とはいっても後悔先に立たず、ひたすらライラに謝った。謝り尽くした。


「ほんっっっっっっっっっっっっとうにすまない!」

「……はぁ、もういいですわ。私もあの馬鹿王子にはほとほと愛想が尽きていましたし、これも良い機会ですの。それよりこれからの生活はケージにお任せしますわよ」

「何でも言ってくれ、俺の出来る範囲なら全て叶えてやる。一生尽くす!」


 元の世界へ戻る? 国から追い出されるような事をしてしまったんだ、その責任は取らなきゃいけない。

 そしてライラの希望で冒険者となった。

 一応野外授業でそれなりに戦えてたし、いざとなれば俺の手でつぶせるし、国外追放になった貴族がなれる職業って冒険者くらいしかなかったのだ。

 その後、俺は自分そっくりの人形を造り上げ、それを操るようになり、ライラとペアで冒険者稼業をしていく。

 杖の中からでもいいけど、身体があったほうがより行動が楽になるからな。喉付き顔半分だと化け物扱いされて買い物すら出来ないが、これなら問題ない。


「ケージ、肩が凝りましたの」

「任せろ!」

「ケージ、喉が渇きましたの」

「任せろ!」

「ケージ、その貧相な見た目何とかできませんの?」

「任せ……られるかっ! 貧相言うなこれは俺本来の姿なんだよ、何だよその憐れんだ目はやめてくれよ泣くぞ」


 そりゃ三十路おっさんの姿と十代後半の美人なライラじゃ、どう見ても釣り合わない。っていうか、日本なら通報待ったなし。

 いや別に見た目で冒険者やってる訳じゃ無いし、やろうと思えば人形なんだからイケメンにすることも出来る。

 でもさ、三十年来の相棒をさっくり捨てる事はできないし、今までは杖や喉付き顔半分の姿だけだったから現実味がなかったけど、この姿だからこそ俺はこの世界へ来てしまったと実感出来るんだ。これだけは譲れない俺のジャスティス。


 そして最近趣味の料理が殆ど出来ない事に気がついたのだ。

 そう、人形だと味覚がない。味見できないんじゃ美味い飯も作れない。

 うーん、ここまで来たらいっそホムンクルスにでも手を出すか? ある意味錬金術の終着点と言えるホムンクルスだけど、魂を入れる訳じゃ無く器さえ出来れば、俺がそれを操るだけだからまだ実現可能な気がする。ホムンクルスなら味覚も何とかなりそうだし。

 これは今後の課題だな。




 と、こんな感じで暮らしていた。

 俺が使う巨大な手という攻撃方法と、ライラの美貌や魔法の威力でとにかく目立ち、いつしか≪魔手≫ケージ、≪炎姫≫ライラと呼ばれ、冒険者の都で有名になる事は、まだ知らない。






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